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スズメバチに二度目はない

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第一章

 孫も出来てその孫も中学生になった頃にだ、苅野圭織すらりとした中背で白髪頭に髷根をかけた吊り目の彼女は孫達に言っていた。
「スズメバチには気を付けてね」
「お祖母ちゃんいつもそう言うな」
「こっちに来たら」
「ここ堺のど真ん中なのに」
「スズメバチなんかいないのに」
「僕達も皆都会で暮らしてるし」
「スズメバチに遭わないのに」
「ちょっと人里離れたらいるのよ」 
 佳織は真面目な顔で言うのだった。
「スズメバチはね、空き家の中にね」
「巣を作って」
「それで出て来るし」
「刺してくるから。しかも他の蜂と違ってね」 
 孫達にさらに言うのが常だった。
「狂暴で攻撃的だから」
「しかも毒も強い」
「何度も刺してくる」
「だからなのね」
「近寄るなっていうんだね」
「そう、いいわね」 
 いつも今では夫の弘樹定年してからはシルバーワークで働いている大柄でまだ若々しい外見の彼と共に暮らしているその家に来た孫達にいつも話していた。
 そして佳織自身スズメバチには気をつけていて。
 堺市の中でもスズメバチが出たと聞いた場所には近寄らずまた蜂が来ない様に明るい色の服を着ていた。
 そうしていたがある日だ。
 ご近所のお婆さん、梨田雲雀小柄で穏やかな彼女が圭織に言ってきた。
「あの、佳織さんどうしてスズメバチ怖がるの?」
「実は兄がね」
 兄の勘太郎、奈良にいる彼のことを話した。 
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