オープン戦はペナントではない
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第六章
「どうも」
「そうかな」
「そうよ、今は落ち着いて」
そうしてというのだ。
「見たらいいわよ、というか投手陣見て」
「盤石だって言ったね」
「そうよね」
「湯浅さんは不安だけれど」
そうであるがというのだ。
「他の人はね」
「大丈夫ね、投手陣が安定していたら」
「大きく崩れないね」
「そうでしょ」
「うん」
寿はまさにと答えた。
「野球はね」
「それに守備もよくなってるなら」
「そんなに崩れないね」
「そうよ、安心していいわよ」
「そう言われて僕も楽になったよ」
妹に微笑んで話した。
「そうなったよ」
「それは何よりね、ただ巨人だったら」
「こうは言わないね」
「お兄ちゃんもでしょ」
「もう心から」
本気での言葉だった。
「思うよ」
「そうよね」
「巨人は」
全人類普遍の時であるこのチームはというのだ。
「何があっても」
「最下位になって欲しいわね」
「オープン戦最下位なら」
そうであるならというのだ。
「そのまま」
「ペナントもね」
「是非ぶっちぎりで」
そう言っていいまでにというのだ。
「最下位になって欲しいよ」
「そうよね」
「巨人は別だよ」
「もうね」
「未来永劫」
それこそというのだ。
「何があっても」
「最下位よ」
「そうなって欲しいよ」
「巨人が弱いと」
千佳は言い切った。
「世の中その分ね」
「よくなるな」
「巨人が負けたら」
そうなると、というのだ。
「皆喜んで」
「元気が出る」
「そうなるからね」
「勉強も仕事もはかどってな」
「日本も元気になって」
「日本はやっぱり大国だからな」
「その大国が元気になるとね」
「世界が元気になる」
日本に影響されてとだ、寿も言った。
「そういう理屈だな」
「そう、だから巨人はね」
「弱くて負けてもらわないとな」
「その負け方も問題よ」
ただ敗れるだけでなくというのだ。
「うんと無様で恥ずかしく恰好悪い」
「そうした負け方が理想だな」
「巨人はそうでないとね」
「無様で恥ずかしくて格好悪くないとな」
「駄目よ、だから阪神は二位でもいいけれど」
カープの優勝は揺るがなかった、千佳の中ではやはりカープこそが優勝して然るべきチームであるのだ。
「巨人はね」
「最下位でないと」
「そう、阪神には期待しているから」
悪感情がないことは明らかだった。
「二位頑張ってね。オープン戦は参考程度にして」
「程度か」
「そう、程度だから」
あくまでというのだ。
「二位勝ち取ってね」
「参考はわかってけれど優勝じゃないんだな」
「優勝はカープだからね」
「違うだろ、優勝するのは阪神だ」
寿は完全に普段の彼に戻っていた、そのうえで言うのだった。
「二位はカープだ」
「それなら今年も勝負よ」
「ああ、こっちこそな」
二人で言い合う、この時にはもう寿はオープン戦のことはどうでもよくなっていた。その心はペナントに向かっていた。
オープン戦はペナントではない 完
2024・3・27
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