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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第二部 黒いガンダム
第五章 フランクリン・ビダン
  第二節 人質 第五話(通算90話)

 
前書き
フランクリンに人質であることを告げるエマ。
信じられないフランクリン。
しかし、フランクリンは決意した。
アレキサンドリアを脱すると。
エマとカミーユは二人を連れ出す。
君は刻の涙を見る―― 

 
 エマはフランクリンを伴って、艦体右舷から左舷へと移動していた。最後尾にカミーユが続く。エマは《アレキサンドリア》の正式なクルーであり、艦内の構造に詳しい。基本的な造りは、連邦とジオンでさえ殆ど違わないが、級種によって微妙にレイアウトが違っている。時間のロスを考えれば、慣れている者が先導するのは当然だ。

「こっちです」

 頷くのはフランクリンだ。

 エマだけがヘルメットを外し、短く刈り揃えられた髪を晒している。ノーマルスーツのヘルメットはバックパックの上部にあるアタッチメントに押し付けると、自動的に吸着するようになっていて、艦内を移動する際は、この格好の者が多かった。殆どが息苦しいヘルメットを被っていたくないからと、両手が自由になり、無重力や低重力帯でバランスが取りやすいからだ。

 だが、エマがヘルメットを外したのは、そういう理由ではない。自分がティターンズには珍しいオリエンタル系の顔立ちをしていることを自覚していたからだ。つまり、人目を引きやすいという彼女なりの計算である。取り立てて美人だとかそういうことではなく、人は集団の中の異分子には直ぐに気づく。エマが目立てばバイザーを下ろしたフランクリンとカミーユは盲点になりやすい。全員がヘルメットを被り、バイザーを下ろしていては物々しく、悪目立ちする。

 艦内通路の壁面にはリフトグリップが付いており、リフトグリップに掴まっての移動は宇宙空間では当たり前だ。エマもカミーユも慣れたものだったが、フランクリンはサイド7で重力区画を出るることも余りないため、危なっかしいかった。一度など、グリップを放すタイミングをつかめず、体がつんのめってしまい、強かに壁へ顔をぶつけていた。バイザーが衝撃を吸収したとは言っても、全くなくなる訳ではない。それ以後は、見かねたカミーユに足を掴まれて、大人しく従っていた。

 といっても主艦体は全幅の半分ほどしかなく、それほど距離が有るわけではない。それでも重巡たる《アレキサンドリア》は軽巡のサラミス級に比べると居住区が多少広い。地球連邦軍の艦艇には珍しく居住区が中央部に集中していない造りは、ジオン公国のムサイ級を参考に建造されたからだ。そのためか、重力区が狭く、長期航行に向いていない。ムサイ級もそうだが、こういう設計の艦艇が長期航行をする場合、広い重力区を確保している艦を旗艦に戦隊を編成するか、外部重力区ユニットの装着が必要だった。木星船団を持たなかったジオン公国にとっては多目的艦が開発条件だったが、連邦は新たに長期航行船団を編成する必要はなく、アレキサンドリア級は単目的艦として設計された。あくまで巡航艦――というより航宙母艦なのだ。艦種が航宙母艦でないのは、現在の宇宙軍において母艦機能のない艦艇が使用されていないからに過ぎない。
 いくらサラミス級より広い居住区を持つ《アレキサンドリア》であっても、兵員はたかだか三○○名足らずでしかない。ただし、女性比率の上昇によって部屋数には若干余裕を持っていた。その内左舷居住区の半数が女性用として割り当てられていた。ペガサス級でさえ二五○名強であることを考えると、艦体容積に対する兵員比はアレキサンドリア級の方が狭いのだが、近代化によって自動化と省スペース化がなされた艦に息苦しさはなかった。
 統一戦争以後、失業者対策の最大の受け入れ先であった連邦軍であるが、それでも八○パーセント以上は男性であり、前線勤務の女性士官や兵士は特殊な例を除き皆無であった。比較的女性の受け入れに積極的だった宇宙軍でも後方部隊やブリッジに数名いる程度であり、基本的に軍は男の職場であった。しかし、その構造は一年戦争によって崩壊した。宇宙軍などは軍人の八○パーセントが死亡する程の損害を被り、戦後、女性の各署における進出が目覚ましかった。圧倒的な人員不足を補うには女性比率の引き上げ以外に対応策はなかったのだ。現在では、機関部や整備班、衛生班といった部署は女性の職場と化している感がある。
 そのため、連邦の新造艦には女性用の兵舎が設けられることになっていた。逆蔑視との声がないではなかったが、特に問題にはならず、逆にモラルバザードの向上であると軍の評判を上げる結果ともなっていた。

「ここね……」

 士官用が並ぶ部屋の一番外れがヒルダの部屋だった。セキュリティは掛かっていない。インターカムを押して、フランクリンがヒルダを呼び出す。

「あなた……一体何が……」

 ヒルダがエマとカミーユを見て息を呑む。事態が全く呑み込めていないのは明らかだった。

「アレキサンドリアを出るぞ」
「え?どういうことなんです? 何があったっていうんですか!」

 ヒステリックにヒルダが叫ぶ。
 拉致まがいに乗艦させられ、息子が投降してきたかと思えば、夫が《アレキサンドリア》から降りると言い出す。ヒルダは急変する事態についてこられていない。足手まといになるかもしれないとエマは感じた。だが、二人を脱出させることが、エマのティターンズに対してできる善処である。

「母さん……話しは後、今は急いでっ」

 カミーユの苛立った声が二人の言い合いに割って入った。 
 

 
後書き
二節まるまる飛ばしていたとは気付きませんでした(苦笑)
これで、元の流れに戻ります。 
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