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英雄伝説~西風の絶剣~

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第92話 霧に潜む悪意

 
前書き
 月光草などオリジナル設定がありますのでお願いします。 

 
side:リィン

 
 アイナさんと久しぶりに再会できたけどなんとか謝れてよかった。彼女からは気にしすぎだと笑われてしまったけど……


 それから俺達は現在集まってる情報をアイナさんから教えてもらった。


「とりあえず今の所魔獣が人を襲ったという報告は無いわ。ロレント周辺の農家にも見回りをしてもらったけど魔獣の被害はないわね」
「そうなの?それは良かったわ」


 アイナさんの話では魔獣に襲われて死んだ人が出たといった話は上がっていないようでエステルが安堵の息を吐いていた。


「ただ時間が過ぎればすぎるほど危ないのは変わらないわね。今ロレントは陸の孤島と化しているから食料などもいずれは無くなるし魔獣たちが町に入り込む可能性も上がるわ。早急に解決をしないといけないわね」
「住民たちも不安でしょうしね」


 アイナさんは時間が過ぎれば過ぎるほど事態は悪化すると話してシェラザードさんが住民が不安に思っていると話す。


 町から出るのは危険すぎる、集団でいるところを魔獣たちに襲われれば犠牲者が出る可能性が高いからだ。


 でもだからと言って町に居続けるのも不可能だ。この濃霧で物資の流通が止まっているので食料もいずれは尽きてしまう。


「とはいえこれといった情報も無いのよ、この広いロレント地方を濃霧の中闇雲に探すのは無謀でしかないわ」
「そういえばここに来る前に窃盗犯の事を聞いたわ」
「あら、もう話がいっていたの?ええそうなのよ、今ロレントでは濃霧に紛れて窃盗をするグループが現れてみんな困ってるの。しかもそのメンバーが……」
「わたし達に似てるって話だね」


 アイナさんの言う通り何の情報もなくこの濃霧の中を動き回るのは無謀でしかない。


 するとシェラザードさんが窃盗犯の話を出すとアイナさんの視線が俺達に向いた。それに対してフィーは窃盗犯が自分達と似た格好をしていると呟いた。


「ええ、窃盗犯は夜ではなく昼間に堂々と盗みに入ったわ。住民は今家に引きこもってるけど食料の買い出しや部屋から離れた時を狙って侵入したりと手慣れてるわ。そして音を立てて姿を見せつけるように逃げていくの」
「明らかにわざとだよね、わたし達に罪を擦り付ける気マンマンじゃん」


 アイナさんは窃盗犯の行動を教えてくれてソレを聞いたフィーは溜息を吐いて自分達に罪を擦り付けようとしてると呟いた。


 まあ音を立てて姿を見せてるしわざとやってるよな。


「じゃあ次にそいつらがノコノコと町に来たらとっつかまえてやればいいわね!」
「でもそんな悠長な事をしていていいのでしょうか?もしかしたらもう逃げてしまった可能性もありますよ」
「うっ、確かに……」


 エステルは次にロレントに来た窃盗犯を自分達で捕まえればいいと言う、だがクローゼさんの言う通りもう逃げてしまってる可能性もあるな。


 それを聞いたエステルは気まずそうにする。


「それを確かめるためにも情報を得る必要があるわ」
「ああ、地道だがそれ以外に方法は無いからな」


 アイナさんの言葉にジンさんも頷いた。


 俺達はロレントの各地を手分けして動くことにした。俺はエステル、シェラザードさん、オリビエさんと行動する事になった。


「何かこのメンバーで集まると前に空賊のアジトに侵入した時を思い出すわね」
「あの時はこんな事になるとは思ってもいなかったわ」
「僕とリィン君の初めての共同作業だったね」
「キモいですよ」


 エステルが懐かしそうにそう言いシェラザードさんはこんな大ごとの事件に巻き込まれるとは思っていなかったと話す。


 オリビエさんがニヤケながらそう言ってきたので俺は辛辣に返した。


「でも一人いないのよね……」
「エステル……」
「……なーんてね、いまさらそんな事でクヨクヨしないしヨシュアは絶対に連れ戻すんだから!」
「アンタねぇ……まあ辛いことを冗談にして言えるようになっただけ成長したって事にしておくわ」
「えへへ」


 しょんぼりとした表情を浮かべたエステルにシェラザードさんが顔を歪ませる。


 だが次の瞬間には笑みを浮かべて冗談を言うエステルにシェラザードさんは呆れた顔を見せながらも嬉しそうに笑った。


 そして俺達はミルヒ街道に向かいヴェルテ橋の関所などに行って情報を得ようとしたが有益な話は聞けなかった。


「うーん、やっぱりこの濃霧だと目撃情報も得られなかったわね」
「取り合えず一旦戻りましょうか」

 
 エステルは濃霧のせいで目撃情報は得にくいと話す、俺達はエマのくれた伊達眼鏡のお蔭である程度視界が確保できてるがなければ隣の人物の顔すら見にくいくらいだ。


 俺は一度ギルドに戻ろうと話す。


「きゃああああっ!?」


 すると近くから誰かの悲鳴が聞こえたんだ。


「えっ、悲鳴!?こんな場所で!?」
「こっちだ!」


 エステルが驚き俺は声がした方に走る。するとそこには女性が3体の魔獣に囲まれているのが見えた。


「オリビエさん!」
「任せてくれたまえ」


 俺の言葉にオリビエさんは既に銃を構えていて3発の銃弾を魔獣に打ち込んだ。


 銃弾を受けた魔獣は女性ではなく俺達に振り返り咆哮を上げた、敵と認識されたみたいだな。


「あんた達の相手はあたし達よ!」
「エステル、気を付けなさい。コイツはジャイアントフット、手配魔獣にもなった強力な魔獣よ」
「了解!」


 エステルはシェラザードさんから情報を貰い魔獣に突っ込んでいった。


「ゴガァァァッ!!」


 魔獣は雄たけびを上げてエステルに殴りかかる、エステルはそれを回避してみぞうちにスタッフを打ち込んだ。


 怯んだ隙に俺は跳躍して唐竹割りを放つ、ジャイアントフットの右腕を切断した。


「プラズマウェイブ!」


 別のジャイアントフットが俺に攻撃をしようとしたがシェラザードさんの放った雷撃を回避しようと後退した。


「ラ・フォルテ!」


 オリビエさんの補助魔法が俺とエステルの攻撃力を上げる。


「グルァァァッ!」
「ゴガァァァッ!」
「エステル、行くぞ!」
「任せて!」


 2体同時に襲い掛かってきたのでエステルと協力して奴らの攻撃が当たる瞬間に武器を振るって攻撃を弾き無効化した。


「やあっ!金剛撃!」
「破甲拳!」


 そして大勢を崩した奴らに強力な一撃を放って後退させる。


「決めるぞ、エステル!」
「コンビクラフト!『怒涛裂波』!!」


 俺とエステルが太刀とスタッフで怒涛の突きを放ちとどめに全力の一撃をぶつけて2体のジャイアントフットを倒してセピスに変えた。


「ガァァァッ!」
「遅いわよ」
「ゴガッ!?」
「そこだ!」
「ガァァァッ!?」


 シェラザードさんを叩き潰そうとした片腕のジャイアントフットは残っていた左腕を鞭で絡み取られて動きを封じられる。


 直に鞭を振りほどこうとするが両目にオリビエさんの放った銃弾が突き刺さり尻もちを付いた。


「オリビエ、決めるわよ!」
「ふふっ、美しい旋律を奏でようじゃないか」


 オリビエさんの放った魔法弾がシェラザードさんの鞭に当たり雷が纏われた。それを勢いよく振るうと雷が蛇の形になりジャイアントフットに絡みつく。


「さあ、雷の薔薇を咲かせたまえ」
「コンビクラフト!『サンダーローズウィップ』!!」


 そして雷が薔薇の形になりジャイアントフットを飲み込んだ。雷の薔薇が消えるとそこにはセピスが落ちていた。


「やったわね、上手くいったわ!」
「ああ、日ごろの鍛錬の成果だな」


 エステルとハイタッチをしながら勝利を喜ぶ。


「襲われていた人は大丈夫かしら?貴方、怪我はない……ってあら?」
「助けてくれてありがとうございます……ってシェラザードさん!?それにエステルも!」
「ティオじゃない!久しぶりね!」


 襲われていた人にシェラザードさんが声をかけるが顔を見て驚いた様子を見せる。そしてその人もシェラザードさんとエステルを見て驚いていた。


 そして名前を呼ばれたエステルが少女に駆け寄った。


「エステル君やシェラ君の知り合いかな?」
「確かロレントの農園にいるエステルの友達ですね。前にそんな話をしていたのを聞いた覚えがあります」


 オリビエさんがそう聞いてきたので俺は記憶の中から情報を引っ張って彼に話す。昔まだエステル達が駆け出しの遊撃士だった時に依頼を受けた際に話に出ていたな。


「ティオ、貴方どうしてこんな時に外に出たの?危ないって分かってたでしょ」
「ごめんね、エステル。でもどうしてもギルドに向かわないといけなかったの。農園が何者かに荒らされちゃったから……」
「あんですって!?」


 農園を荒らされたという言葉にエステルは過敏に反応する。それってまさか例の窃盗犯か?


「もしかしてまた魔獣に?」
「ううん、今回は違うと思う。だってお父さんが気絶させられてたから……」
「どういうこと?」


 エステルは前に魔獣の被害にあっていた農園の件に関わったので今回もそうなのかと尋ねた。


 だがティオという少女は今回は違うと答えた、そしてその根拠に父親が気絶させられていたと話してエステルが詳しく話してほしいと言う。


 彼女の話では父親が昼頃に畑の様子を見に行ったまま帰ってこなかったようで、心配になった家族は畑に向かうと父親が畑に倒れているのを発見したらしい。


 そして果物や野菜を奪われていたのも発見したそうだ。もし魔獣ならその父親は殺されていたはずだ、態々気絶させたので人間のやった犯行の可能性があるな。


 ティオもそう思ったから魔獣じゃないと話したのだろう。


「そんな……なんて酷いことを!」
「お父さんは頭に怪我をしたけど幸い命の別状はなかったわ。ただ後遺症が怖かったから教会に薬を貰いに行ってギルドに報告しようと思ったんだけど予想以上に濃霧が濃くて……」
「迷った際に魔獣に襲われたって事か。間に合って良かったよ」


 エステルは怒りで顔を真っ赤にしていた。そして彼女が魔獣に襲われた理由を知った俺は助けるのが間に合って良かったと呟いた。


「えっと、一瞬ヨシュアかと思ったけど貴方は確か前にロレントで保護されてた子よね?話には聞いてたけど会うのは初めてだよね」
「始めまして、リートと言います。こうして会うのは初めてでしたね」
「僕はオリビエ、この出会いに感謝を。どうだい、出会えた記念に一曲でも披露……」
「はいはい、貴方は引っ込んでてください」
「あふん」


 自己紹介をしてたらオリビエさんが割り込んできたので前蹴りをして押しのけた。


「あはは……個性的な人達だね」
「いつものことよ。それよりもティオ、農園に行くから貴方も行きましょう。おじさんも心配だし何か犯人の情報を得られるかもしれないわ」


 苦笑するティオにエステルは農園に向かおうと話す。彼女をこのままにしては置けないし情報を得られるかもしれないからね。


「シェラ姉もいいわよね?まだ正式に依頼されてないけど」
「勿論よ。遊撃士は市民の味方、直ぐに向かいましょう」


 そして俺達はパーゼル農園に向かうのだった。



―――――――――

――――――

―――


「凄い……あっという間に農園に戻れちゃった」
「この眼鏡のお蔭よ。完全じゃないけど霧が晴れて見えるの」
「凄い、そんなアイテムもあるんだね」


 迷うことなくパーゼル農園に来れたことをティオは驚いていた。彼女はエマのくれた眼鏡がないので真っ白な景色しか見えないのだろう。


 しかし何回もティオっていうとクロスベルにいるフィーの親友を思い出してしまうな。このゼムリア大陸では同じ名前の人間が割といるのでいつかリィンという名前の別人に会う事が起きるかもしれない。


 まあ今はそんな事を考えている場合じゃないか。


 思考を切り替えた俺は仲間と一緒に農園の関係者に話を聞くべく家に上がらせてもらった。


「ハンナおばさん、おじさんは大丈夫!?」
「エステル!?貴方帰っていたの!それにシェラザードさんも……ティオが呼んできてくれたんだね」
「それがね……」


 エステルが声をかけた女性が振り返って驚いた様子を見せる、そして事の流れを説明した。


「そうだったの。ごめんなさい、ティオ。危険な目に合わせてしまって……」
「お母さんは悪くないよ、だから謝らないで」


 ハンナさんはティオに謝るが彼女は気にしないでと答えた。怖かったはずなのに家族思いの良い子だな。


「取り合えずまずはフランツさんの容体を見せてもらえるかしら、彼は今どうしてるの?」
「まだ意識が戻らずに眠っていますわ」


 俺達はフランツさんの容体を確認する、後頭部に傷があったので背後から殴られたんだろう。幸い傷は大きくないが後遺症が怖いので調査が終わったらすぐに教会に連れて行くことにした。


 そして次に畑の調査をしたが酷い有様だ、土は足跡だらけ、踏み潰された果物や野菜を見てティオ達は悲痛の表情を浮かべていた。


「絶対に許さないわ、犯人はとっつかまえてボコボコにしなきゃ」
「俺も数発殴る権利はあるよな?西風を舐めたらどうなるか思い知らせてやる」


 エステルは幼いころからの友人の農園を荒らされたこと、俺は自分の真似をして悪事を働く奴らに怒りを露わにする。絶対に破甲拳を喰らわしてやる。


 俺達は許可を得て畑の調査に入る、すると家の屋根から何かが飛びおりてきた。


「ここにいたのね」
「セリーヌ、どうしたんだ?」
「エマから伝言を預かったからあんた達に教えに来たのよ。まったく……私は伝書鳩じゃないのよ」
「なんだかんだ言ってセリーヌも協力してくれるんだな」
「早く帰りたいだけよ」


 俺はティオ達にバレない様にセリーヌと会話をする。


「それで伝言ってなんだ?」
「もし何か犯人に繋がる物があったら持って帰ってきてほしいそうよ。探索用の魔術で捜索するんでしょうね」
「そんなことが出来るのか?」
「準備に時間がかかるけどエマの捜索魔法は中々のモノよ。でもそれをするには探し物の一部が必要になるの」
「ああ、だから犯人に繋がる物が欲しいのか。分かった」


 俺はエマの凄さを改めて認識しながら分かったと返事をする。


「じゃあ私はエマの所に帰るから……」
「あー、猫ちゃんだ!」
「にゃあっ!?」


 いきなりセリーヌを背後から抱き上げる女の子、確か農園の子だったな。


「ねえねえお兄ちゃん!猫ちゃんと遊んでもいい?」
(ちょ、ちょっと!助けなさいよ!)


 女の子がそう聞いてくるがセリーヌが俺を睨んできた。多分助けろって言ってるのかもしれないな。


「ああいいよ、沢山遊んであげて」
「やったー!」
(あんた!私を見捨てる気なの!?)
「子供達も不安がってるからな、遊んであげてくれ」
「猫ちゃん、こっちでお人形遊びしよー!」
「にゃああああっ!」


 セリーヌは女の子に持ち去られてしまった。


「取り合えず何かないか探すか……」


 俺は犯人に繋がる物がないか探していく、すると地面に落ちていた果物の一つに齧った跡があるモノを見つけた。


「これは歯型……犯人が味見していったのか?だとしたら唾液が付着してるはず……これ使えるかな?まあいいや、持って帰ってみよう」


 俺は農園の人たちに許可を貰い果物をしまう。そしてそれ以上情報を得られなかったのでフランツさんをおんぶして街に戻った。


 因みに外は危険なので農園の人たちも全員ロレントに避難してもらった。今はホテルの一室を借りてそこで過ごしてもらっている。


 大事な農園をほったらかしにするのは辛いだろうがまた襲われるかもしれないからね、フランツさんの事は俺達に任せてもらいホテルを出た。


「ふう、もう夕暮れ時ね。この濃霧じゃ太陽なんて出てるのかどうかも分からないけど」
「確かにね」


 時計塔の針を見て時間を把握したエステルは太陽が見えないと言い俺も同意する、ただでさえ濃霧で視界が悪いのに夜になったらもうまともには動けなくなる。これ以上街の外に出るのは危険だな。


 その時だった、耳に鈴が鳴る音が聞こえたんだ。


「ねえ、今鈴の音が聞こえなかった?」
「俺も聞こえたよ。昔カルバートでフィーに鈴のお守りを買ってあげた事があるんだ」
「へえ、そうなんだ」
「ただ何故か鈴に紐を通して首に付けようとしたから止めたんだよな」
「あはは、それやったら本当に猫ちゃんになっちゃうわね」


 俺は鈴の音を聞いて昔の思い出を語りエステルが笑っていた。


「……今の鈴の音」
「あれ、どうしたんだいシェラ君?」
「……いえ何でもないわ」


 一瞬シェラザードさんが何かを考えこむ様子を見せた。それに気が付いたオリビエさんが声をかけるが彼女は何でもないと返す。


 気に放ったが今は怪我人の方が優先すべきなので急いで教会にフランツさんを運んだ。そしてデバイン教区長に任せて俺達はギルドに戻って報告をする。


「捜索魔法?そんなことが出来んのか?」
「だからセリーヌちゃんに伝言を任せたんですね」
「でもそれなら集まっていた時に話せばよかったんじゃないか?」


 アガットさんが頭を掻きながらそう言いティータはセリーヌをよこした理由を話していた。だがジンさんの言う通り皆が集まっていた時に話せば手間はかからなかったんじゃないのか?


「申し訳ありません、本来は特殊な野草がないと使えない魔法なんですが偶然ロレントで同じ野草を見つけたんです。『月光草』というんですけどコレです」
「あっ、ロレントに生えてる三日月みたいな草ね」
「はい、故郷の森に良く生えているんですがリベールでも見つけられるとは思いませんでした。


 エマの見せてくれた草は三日月のような形をしたものだった、それを見たエステルは自分もよく見ると答える。


「つまり偶然その月光草を見つけたから捜索の魔法を使おうと思ったのですね」
「はい、そのほうが早いと思いましたので皆さんに手掛かりを見つけてもらうべくセリーヌにお願いしたんです」
「お蔭でひどい目に合ったわよ……」


 クローゼさんの問いにエマはニコっと笑みを浮かべて頷いた。その隅でセリーヌがふてくされた様子でそう呟く。


「だが私達はこれと言った情報は得られなかったな」
「俺達もそこまでこれといったものは見つけられなかったぞ」


 ラウラとジンさんは特に手掛かりとなる物は見つけられなかったと話す。


「俺はパーゼル農園をこれを見つけたぞ」
「これは果物ですか?」
「ああ、歯型が付いている。農園に落ちていたんだ」
「歯形……唾液が付いてるって事ですね」
「そういうことだな」


 クローゼさんに説明をすると彼女は納得した様子を見せた。


「エマ、これは使えそうか?」
「はい、唾液なら十分な情報になりそうです」


 エマは俺から果物を受け取ると鞄から何か液体を取り出した。そして大きな器をどこからか取り出してそこに液体を流し込んだ。


「これは故郷で使ってる魔法薬です、これ自体は特に効果は無いのですが薬草などと組み合わせて使います。ここに……」


 月光草と歯型のついた果物を入れて棒でかき混ぜていく。


「後は1日ほど待ってよくなじんだら準備は完了です」
「じゃあ犯人を追うのは明日になるな」


 エマの話では準備に1日かかるようなので今日はなにもできないな。もっともこの濃霧と夜の中で出歩くなど自殺行為だけど。


「た、大変じゃ!」


 するとそこに誰かが慌てた様子でギルドに駆け込んできた。


「市長さん!?一体どうしたって言うの?……なんかこんなやり取りを前にした覚えがあるわね」
「おおエステル君じゃないか!ロレントに帰っていたのかね?」


 エステルは入ってきた人物、クラウス市長を見て首を傾げていた。


「うん、この霧のせいでロレントが困ってるって聞いて急いで帰ってきたの」
「そうか、それはありがたい」


 市長さんは俺達を見渡して安堵の息を吐く。


「どうやら君たちは無事のようだね」
「どういう事?」
「実は先ほどウチで働いているリタ君が急に倒れてしまってね、それと同時にロレントの住民たちも同じように昏睡してしまった人たちが出たんだ」
「あんですって!?」


 市長さんの話ではロレントで複数の人間が急に昏睡してしまったらしい。


「なにか異常事態が起きたみたいね。エステル、皆、状況を確認しに行くわよ」
「分かったわ!」


 シェラザードさんの指示にエステルだけでなく俺達も頷いた。そして俺達は手分けしてロレントの町を駆け回っていった。 
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