蜥蜴の尻尾
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第一章
蜥蜴の尻尾
マルティン=ボルマン、ナチス=ドイツでこの男の名前を知らない人物はそれこそ一人もいなかった。
ヒトラーの側近中の側近それこそ常に彼の傍にいる者として彼の秘書の様な存在であった。そして何よりも。
「ボルマンに逆らうな」
「ボルマン睨まれるな」
「総統に色々拭き込まれるぞ」
「下手したら最前線に送られるぞ」
「ボルマンには触れるな」
「何があってもな」
ヒトラーに情報をそれも意のままに伝えられる人物として恐れられていた、誰もがボルマンを警戒していた。
ボルマンもそれを知っていて権力を私物化しまさに意のままに用いていた、彼こそナチス=ドイツの真の権力者と言う者すらいた。
だがそのナチス=ドイツがだ。
第二次世界大戦で劣勢になるにつれて崩壊していった、こうなってはボルマンの権力どころではなかった。
国家自体が崩壊してっていってはボルマンもどうなるかわからなかった、しかし彼はヒトラーの傍にあり続けた。
ゲーリングもヒムラーも去った、しかしそれでもヒトラーの傍にいた宣伝相のパウル=ヨーゼフ=ゲッベルスは側近にこう言った。
「どうしてボルマンが今も総統のお傍にいるかわかるかね?」
「それがあの男の権力の源だからですね」
「そうだ、総統のお傍にいてこそだ」
ゲッベルスは側近の返答にその通りだと答えた。
「あの男はだ」
「権力を持っていますね」
「総統におもねりな」
そうしてというのだ。
「情報を伝えてな」
「意のままにですね」
「そうしてこそだ」
「あの男は権力を持っていますね」
「あの男は実は事務仕事とだ」
それと、というのだ。
「諂うことは出来るが」
「それ以外はですね」
「ない、イギリスに亡命した副総統とはな」
ルドルフ=ヘスとはというのだ。
「違う、副総統は諂わずな」
「あの男とは違い」
「総統に確かにだ」
「情報をお伝えして」
「お話を聞く、そして仕事をだ」
事務仕事、それをというのだ。
「こなしていた、邪心はな」
「なかったですね」
「だがあの男は違う」
ボルマンはというのだ。
「むしろだ」
「それに満ちていますね」
「あの男にあるのは総統、ドイツ、党への忠誠心ではない」
「欲ですね」
「権力へのな、上手く総統に取り入ったが」
それでもというのだ。
「それだけだ、だから今もだ」
「航空相も親衛隊長もお姿が見えませんが」
ゲーリングもヒムラーもというのだ。
「どうやら」
「言うまでもないな」
「このことについても」
「この状況だ、もうどうにもならない」
ゲッベルスもこのことを認めるしかなかった、現実は彼等にとってあまりにも残酷な状況であるが故に。
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