子供が憧れるギャンブラー

「覚えておくんだよ」
「そうするんだ」
「ああ、ギャンブルはそうしてやるもんだ」
「凄い真剣にやるものなんだ」
「何でも真剣にやらないと勝てるか」
　谷田は言い切った。
「勉強だってそうだろ」
「うん、そう言われたら」
「だからな」
「トランプもなんだ」
「やるからにはな」
　それならというのだ。
「真剣にやれよ」
「相手もカードも見て」
「ああ、いいな」
「うん、それじゃあ」
　子供は谷田の言葉に頷いた、そしてだった。
　彼の言う通りトランプをする時は相手の表情や目の動きそれに仕草まで見た。カードもどのカードがどうなのかも覚える様にした。
　そうすると自分でも驚く位強くなった、そして何事もやるからには真剣に相手を見る様にしていくと。
「それでかよ」
「はい、野球もやってまして」　
　その子供、三笠俊平は歌舞伎町の谷田の居酒屋で今は太ってしまった彼に言っていた。
「それで相手を見る様にしましたら」
「高校で四番キャッチャーになってか」
「甲子園に出てです」
「プロにもなってか」
「それで四番キャッチャーです」
「そうなんだな」
「今日は巨人を倒してやりました」
　全人類普遍の敵であるこのチームをというのだ。
「ホームラン三本盗塁四つ潰して」
「それは何よりだな、リードもしてか」
「はい、それが出来たのも」　
　店のカウンターで飲みつつその中にいる谷田に話した。
「あの時です」
「俺に言われたからか」
「はい、しかしたまたま歌舞伎町で飲んでいて」
「うちに入ってか」
「まさかと思いました、面影が残っていたんで」
「あの時のギャンブラーかって聞いたらな」
「そうだったんですから」
　だからだというのだ。
「運命ですね」
「そうだよな、奇遇だな」
「そうですね、じゃあ今日は」
「飲んでくれるか」
「はい、それでギャンブルは」
「やってるさ、俺はギャンブラーだからな」
　腕を組んでだ、谷田は笑って答えた。
「麻雀パチンコも競馬もな」
「そうですか」
「ああ、それで真剣にな」
「やっておられて」
「勝ってるさ、本当に勝とうと思えば」
　そうしたいならというのだ。
「ギャンブルでも何でもな」
「真剣ですね、その真剣さに憧れて」
　三笠はビールを飲みつつ微笑んで話した。
「今の僕があるんですよ」
「俺なんかに憧れるか？」
「ですからその真剣さに」
「おいおい、他にもいい人いるぞ」
　こう返す谷田だった。
「こんないい加減なギャンブラーじゃなくて他の人にな」
「憧れろですか」
「ああ、そうしろよ」
「その真剣さには駄目ですか」
「俺以外にいい人一杯いるからな」　
　それでというのだ、こう言ってだった。
　谷田は三笠に彼が注文した焼き鳥を出した、その焼き鳥も真剣に焼かれていて実に美味く三笠は笑顔になった。そしてこの時からこの店に時々来る様になった。


子供が憧れるギャンブラー　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　２０２４・２・１５