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英雄伝説~西風の絶剣~

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第90話 歪んだ再会

side;フィー


「……レン」


 目を見開きそう呟くリィン、わたしは彼の様子を見てあの子がレンだという少女なのだと理解した。


「うふふ、初めまして。私はレン、今回のお茶会の主催者よ」
「レン?それにお茶会ってどういうことよ?」
「簡単な事、今回の騒動は全てレンが起こしたということよ」
「あんですって!?」


 レンの言葉にエステルは驚くがこの場にいる全員が同じ気持ちだろう、あれだけの大きな騒動を目の前のわたしより年下の女の子が起こしたと聞けば誰だって驚く。


「各組織に脅迫状を送り特務隊に武器やゴスペルを与えたり指示を出したのも全部レンがやったことなの。本当に面白かったわよ、レンよりも大きな大人たちがまるでお人形さんのように操られてくれたんだもの」
「まさかあんな大掛かりな計画を一人で考えたって事!?しかもそれを完壁にこなすなんて……貴方、唯の子供じゃないわね?結社の一員なの?」
「うふふ、流石にベテラン遊撃士さんは察しがついているようね。じゃあもう一つの名前も紹介しておこうかしら」


 シェラザードの問いかけにレンは白いドレスの端を指で摘まみ上品に挨拶をする。


「身喰らう蛇、執行者№XV。『殲滅天使』レン……あまり好きじゃないけどそんな風にも呼ばれているの」
「嘘……」
「こんな小さな女の子が結社の、それも執行者の一員やと!?」
「……あり得るよ。だってレンは本当の意味で天才だから」


 レンの正体が身喰らう蛇の執行者だと知りエステルは驚きケビンは信じられないという。まだ10歳前半の歳であろうレンが結社の一員だという事に全員が驚く。


 ……いやリィンだけ冷静にそう呟いた。


「リィン君?貴方あの女の子を知ってるの?」
「知ってるさ、ずっと俺が探していた女の子なんだからな」


 エステルの問いにリィンは答えながら前に一歩出る。


「レン……久しぶりだな。あの施設で離れ離れになって数年ぶりか、綺麗に成長していて驚いたよ」
「そうね。貴方がフィー・クラウゼルや西風の旅団と仲良くしてる間レンは結社と仲良くさせてもらったわ」
「そうか、結社に拾われていたのか……」


 リィンはそう言うとなんと土下座をした。リィンはずっとレンに謝りたいと言っていた、結社の一員とはいえようやく出会えたんだ。


 わたしは黙って様子を見続ける。


「すまなかった、レン。俺は君を守るためとはいえ魔獣と共に奈落に落ちて一人ぼっちにしてしまった、俺が強かったらそんな事にはならなかったのに……」
「リィン……」
「今更謝っても許してもらえるとは思わない。それでも本当に済まない……」


 リィンはそう言って額を地面にこすりつける程下げて謝罪をした。


「……リィン、頭を上げて。レンは気にしていないわ」
「レン……!」
「だってこれから苦しんでいく貴方を見れるのが楽しみなんだもの♪」
「えっ……」


 レンは心底楽しそうに笑みを浮かべてリィンの謝罪を切り捨てた。


「レンに謝って許されたかったんでしょ?だから許してあげる。これで満足できたでしょ?」
「満足って……どういうことだ」
「貴方はレンに許されて楽になりたかっただけでしょ?自分が少しでも気が楽になりたかったからレンを探していた、違うかしら?」
「そんなことは無い!俺は真剣に探した!もう一度君に会いたくて……!」
「ならどうして全てを捨ててでもレンを探しに来てくれなかったの?レンのことを一番に思ってくれてるならそうしたでしょ?」
「それは……」


 レンの指摘にリィンは何も言い返せなくなってしまった。


 確かにリィンは西風の旅団やわたしから離れなかった。レンからすれば自分が適当に扱われていると思っても無理は無いだろう。


 でもわたしは何も言えない、だってリィンがわたし達を選んでくれたことは嬉しいと思っているから。


 そんなわたしがレンにかけられる言葉は無い……


「結局貴方はそのフィーって子の代わりとしてレンを利用していただけでしょ?もうレンは用済みだから捨てたんでしょ?」
「そんなことは無い!フィーはフィー、レンはレンだ!代わりになんてできない!」


 リィンはきっぱりとそう言い切った。


「……そこまで言うならチャンスを上げるわ。私のお願いを聞いてくれる?」
「なんだ?出来る事なら聞こう」
「じゃあフィーを殺してレンの元に帰ってきて。そうしたら許してあげるわ」
「なっ!?」


 レンの提案はわたしを殺せというものだった。


「出来る訳が無いだろう!フィーは俺にとって大切な女の子なんだ!」
「ほら、やっぱりできないんじゃない。所詮は口だけ……あなたもアイツらと同じでレンを捨てたのよ。もう貴方の言葉なんて信じない」


 レンは分かっていたという風に首を振ると指を鳴らす。


「来て……『パテル=マテル』」


 すると辺りに大きな振動が起き始めた。そして湖から何か巨大なものが飛び出してきた。


「な、なにあれ!?」
「巨大な人形兵器……!?とんでもない大きさだ!」


 エステルとラウラはそこに現れた巨大な人形兵器を見て愕然としていた。戦車よりも遥かに大きい……!


「うふふ、さあゴスペルを回収しなさい」


 レンの言葉にパテル=マテルと呼ばれた人形兵器が反応して戦車に付けられていたゴスペルをはぎ取った。


「どう?これがレンのパパとママ、決してレンを裏切らない本当の家族よ」
「レン……」


 嬉しそうに自慢するレンにリィンは悲しそうにそう呟いた。


「ねえエステル、貴方も一緒にこないかしら?」
「えっ……」


 するとレンはエステルに声をかける。


「なんであたしに……?」
「レンね、最初エステルを殺そうかなって思ったの。だってヨシュアのお気に入りなんですもの」
「ヨシュアって……レン、貴方ヨシュアを知ってるの!?」


 レンからヨシュアの名前が出てきてエステルが反応する。


「レンを助けてくれたのがヨシュアとレーヴェなの。パテル=マテルと同じレンの大切な家族……そんなヨシュアをたぶらかす悪い奴だって教授から聞いてたから。でもレンもエステルが気に入ったわ、家族になってくれるならヨシュアに会わせてあげる」
「……駄目よ。ヨシュアには会いたいけど結社には入れないわ」
「そう、残念だわ。気が変わったら教えてね」


 レンの提案をエステルは拒否した。


「エステル!」
「アガット!皆!」


 そこに別行動をしていたアガット達が駆けつけて来てくれた。


「あらあら、賑やかになってきたわね。お茶会もすんだことだしレンも失礼させてもらうわね」
「レン!」
「リィン、貴方は近い未来に必ず破滅する。これは決定した未来なの。その時を楽しみにしてるわ」



 レンはパテル=マテルの腕に飛び移るとそのまま飛び立ち漆黒の夜の中に消えて行ってしまった。


「レン……」


 リィンはレンが去っていった空をただ見上げてそう呟くしかできなかった……



―――――――――

――――――

―――


 それから数日が過ぎた。わたし達は被害の確認などの確認に追われたりしていたよ。幸い死傷者はいなかったのが救いだね。


 色々ドタバタしていたけどようやく落ち着けるようになってきた頃、リィンがメンバーをギルドに集めていた。


「皆、色々忙しい中集まってくれてありがとう」
「どうしたのリィン君?急にみんなを集めたりして……」
「そろそろ俺とレンの関係を話しておこうと思ってね。気になってただろう?」
「まあね……」


 リィンの問いにエステルは気まずそうに頷いた。


「それにここで話しておかないと俺がレンと通じてスパイしていたって思われるかもしれないからね」
「なんで俺を見るんだよ」


 リィンにチラッと顔を見られたアガットが不快そうにそう言う。実際リィンとレンの関係を疑ってる軍人や別の遊撃士もいるのは事実だ。


「リィン、良いのか?話す内容は恐らくアレだろう。お前さんにとっても辛い話だと思うが……」
「大丈夫です、ジンさん。謎に満ちた結社の執行者の情報を知ってる以上メンバーにも話しておくべきだと思ったので」
「……そうか」


 ジンはリィンが話そうとしている話の内容を知ってるので気を聞かせてそう言うがリィンは大丈夫だと答えた。


「ただ今から話す話の内容はかなりショッキングなものになる、ティータやクローゼさんは聞かない方が良いと思うけどどうする?」
「わ、私にも聞かせてください!コリン君……じゃなくてレンちゃんの事をちゃんと知りたいんです!」
「私も友人としてリィンさんの力になりたいです、だから聞かせてください」
「……分かった」


 リィンは一応ティータやクローゼに配慮しようとしたが二人も知りたいと答えたので話を始めた。


「俺は今から数年前にD∴G教団に誘拐されたことがあるんだ」
「D∴G教団?何処かで聞いたような……」
「エステル、あんた授業で教えたでしょう?D∴G教団っていうのは過去にゼムリア大陸でとんでもない事件を引き起こした宗教集団の事よ」
「えっと……ああ、確かにそんな話を聞いたわね。ノートに書いてあったわ」
「まったく……」


 ノートを見てそう言うエステルにシェラザードが溜息を吐いた。


「D∴G教団……私も知っています。確か各国で子供のみを狙った誘拐を繰り返した恐ろしい集団だと。孤児院でも警戒されていたはずです」
「ああ、奴らは子供を使った人体実験を行っていた。なにが目的だったのかは分からないが一つ言えるのは奴らに倫理観は一切なかった」


 クローゼも知っていたみたいでテレサの孤児院でも警戒がされたらしい。リィンは頷き教団について倫理観は無いと語った。


 そこからは表現をぼかしつつ自分がされた人体実験を軽く話してくれた。でもやっぱりそのD∴G教団って奴らには殺意しか湧かないね。


「酷いわ、どうしてそんなことが出来るのよ……!」
「チッ、実際に被害者から話を聞くとマジでムカつくな、そいつら」
「私達はその頃はまだ実績が無かったから壊滅作戦には参加できなかったけど……各国が総力を挙げて潰そうとするのも納得ね」


 エステルはどうしてそんなことが出来るのかと困惑してアガットは心底不快そうに顔を歪めていた。


 シェラザードは当時の自分では実績が足らずに作戦には参加できなかったと話している。


「俺はカシウスさんと共に壊滅作戦に参加したが酷い有様だった。確か確認されている生存者は1名だったな」
「1名って……あんまりだわ。その攫われた子達にも家族がいたはずなのに……」


 ジンの生存者は1名という話を聞いてエステルが泣き出してしまった。本当にその通りだよね……


「俺はそんな地獄の中でレンに出会ったんだ。あの子は見た技術を瞬時に覚えることが出来る天才で教団でも丁重に扱われていた。異能を持っていた俺もその施設のトップに気に入られて俺達は一緒に実験を受ける機会が増えて行ったんだ」
「弟弟子君はそこでレンちゃんに出会ったんだね」
「レンがどういう意図で俺に接触してきたのかは分からない、でもあの子の存在は俺の心が壊れるのを止めてくれた。俺にとって恩人なんだ」
「弟弟子君……」


 アネラスは悲しそうな顔でそう呟いたリィンを見て彼の頭を撫でた。


「あっ、ごめんね。つい……」
「気にしないでください。まあ俺とレンはそうやって出会ったんだ。でもあの日に俺達は離れ離れになってしまった」


 リィンは暴走した魔獣と戦い最後はレンを守るためにその魔獣と共に崖から落ちたと話す。


「そんな……じゃあリィン君は悪くないじゃない!レンを守るためにやったんでしょ?」
「でもレンを置き去りにしたのは事実だ。恐らくだがその時に結社が来て彼女を回収していったんだと思う」


 エステルはリィンは悪くないというがリィンは首を横に振った。こればっかりは偶然が重なってこうなってしまったから誰が悪いとはわたしは思えないよ。


「それに俺はその後色々あって西風の旅団に戻ったけどフィーや皆と平穏に過ごしていたんだ。レンからすれば真剣に探していないって思っても無理はない」
「……リィンはどうする気なの?」
「勿論レンと向き合うさ、彼女が俺を恨んでいるならそれに向き合わないといけないんだ」


 わたしの質問にリィンはレンと向き合うと答えた。


 よかった、ちょっとだけ不安だったんだ。罪滅ぼしの為に命を差し出すなんて言うんじゃないかと思ったから……


「それに俺の自己満足だけどレンにはあんなところにいてほしくないんだ。あの子にはもっと平穏な暮らしをしてほしい。だから連れ出したい」
「リィン君、私も同じ気持ちよ!ヨシュアと一緒にレンを連れ出したいの!あんな小さな子が結社なんて胡散臭い組織にいたら駄目よ!」
「エステル……」


 リィンのレンを結社から連れ出したいという意見にエステルが同意した。


「なら力を貸してほしい、エステルの真っ直ぐな気持ちがレンに良い影響を与えるはずだ」
「ええ、一緒に頑張りましょう!」


 リィンとエステルはそう言って握手を交わした。


 ああいう前向きな性格がエステルの魅力だよね、リィンも影響されているのかもしれない。


 そして私達は今後どうやって動いていくか話し合うのだった。


―――――――――

――――――

―――


「ぷはぁ!やっぱビールは最高ね!」
「また飲んでる……」


 わたしはサラと一緒に居酒屋で食事をしていた。なんでサラがいるかというとルーアンからグランセルに派遣されていたかららしいよ。


 前の騒動の時も魔獣や猟兵と戦っていたんだって。


 んで女性陣を誘って飲みに来たって訳、ラウラやエマは違う席でエステルやクローゼ達と会話をしながら食事をしている。


 因みにリィンはアガット達とあっちの席でご飯を食べてるよ。アガットが言いたくもないことを言わせて悪かったって謝ってリィンが気にしてないと答えていた。


「あら、流石紫電さんね。良い飲みっぷりだわ」
「噂の銀閃も良い飲みっぷりね」


 年が近いからかシェラザードと仲良くなったサラは飲み比べをしていた。お酒臭いしあっちの席に行きたい……


「そういえばフィー、もう少ししたらトヴァルの奴も応援に来るわよ」
「そうなの?帝国の方はもういいの?」
「まあ今あっちはゴタゴタしてて遊撃士の活動が制限されてるみたいだし暇してたから丁度いいんじゃないかしら?」
「ふ~ん……」


 サラからトヴァルがリベールに応援に来ると聞いた。今帝国では遊撃士と政府がなんかバチバチになってるみたい。遊撃士協会も色々大変だね。


「あ~、それにしてもカシウスさんってやっぱり素敵な人よね。アタックしてみようかしら?」
「先生は亡くなった奥さんを愛しているから可能性は無いわね」
「う~、やっぱ無理かぁ……ジンさんもいいけどもうちょっとだけ歳を取っていた方が好みなのよねぇ」
「貴方本当に年上好きなのね。人の好みにどうこう言う気は無いけど失敗ばかりしてるならちょっとは若い子も視野に入れたらどうかしら?」
「ぐぬぬ……相手がいるから余裕を感じるわね」
「やだ、オリビエの事を言ってるの?あんなの唯の腐れ縁よ」
「本当かしら……」


 底から二人は女子の好きな恋バナって奴を話し始めた。サラはジト目でシェラザードを見て余裕そうと言うがシェラザードはそんなんじゃないと手を振る。


「うぅ~……フィーにさえ彼氏が出来たのに私はいつになったら結婚できるのよ……」
「まあそのうち見つかるわよ」


 サラが泣き出してしまったので面倒になったわたしはラウラ達の方に逃げた。


「ラウラ、そっちはどう?あっちは面倒になったから逃げてきちゃった」
「そうなのか?だがこちらも今は……」
「あ~、フィーも来たのね、丁度貴方のことを話してたんだ」
「わたしの事?」


 ラウラに話しかけると彼女は何やら話しにくそうに困っていた。するとエステルがわたしの話をしていたと言ったので首を傾げる。


「うん、どうして二人は弟弟子君を共有しようと思ったのか気になったの」
「ああ、そのことか」


 アネラスの言葉にわたしはなるほどと思った。


 前にレンがバラしたおかげでわたしとラウラがリィンと恋人関係になってることがバレちゃったんだよね。リィンがめっちゃからかわれてたよ。


「単純な事、リィンは無茶ばかりするからわたし以外にも彼を支えてくれる人が欲しかったの。あとわたしはラウラも親友として1番好きだったから彼女ならいいかなって思っただけ」
「そうなんだ、私もアガットさんを支えてあげたいけど二人は嫌かな~……」
「まあ普通はそうだろうね。うちの団長も複数の女性と関係持ってるからそれを見てきたわたしもあんまり気にならないってのもあるかな」
「お、大人の関係だぁ……!」


 ティータの質問に普通は一人だけと付き合うよねと同意する。団長が複数の女性と関係を持ってるのを見てきたからわたしは普通とは違う価値観なんだよね。


 それを言ったらティータは顔を赤くして目を輝かせてた。


「まあ信用できる人ならもうちょっと増えても良いと思ってるよ」


 わたしがそう言ってアネラス、クローゼ、エマに視線を送ると3人は顔を赤くして逸らした。


 なんとなく可能性がありそうなのがこの三人なんだよね。クローゼとアネラスは前に話をしたしエマもリィンを見る目に熱が入り始めたし。


 エステルとティータだけは首を傾げていたよ。


「じゃあフィーちゃんが正妻なの?」
「えっ、それは当然わたしだよ」
「待てフィー、私はそれを認めていないぞ」


 ティータの質問にわたしは当然と言わんばかりに肯定しようとしたがラウラに待ったをかけられた。


「ラウラ、どうしたの?」
「どうしたもあるか。なぜそなたが正妻になってるのだ?」
「だってわたしがリィンの一番なのは当然じゃん」
「いや共に背中を並べている私の方がふさわしいだろう」
「えっ、そんなわけないじゃん」


 わたしとラウラはそう言ってにらみ合った。


「そもそもわたしはリィンの義理の妹だよ?ずっとリィンと一緒にいたんだからわたしが一番好きに決まってるでしょ?」
「私とリィンは共に剣の高みを目指そうとしている同士でもある。そなたが知らないリィンの一面も私なら知ってるぞ。例えば剣の構えや太刀筋の調整などよく相談されるんだ」
「へぇ、そうなんだ。わたしはリィンの好きな食べ物やクセ、好きな趣味なども知ってるけどね」
「リィンとわたしが結ばれたらリィンはアルゼイド家に嫁ぐのだぞ?なら必然的に私が正妻だろう?」
「リィンは西風の旅団団長の義理の息子だよ?同じ猟兵で娘のわたしの方が上手くいくはず」


 わたしとラウラは一歩も引かなかった。


「あわわ……ど、どうしようお姉ちゃん!」
「流石にアレに割って入る勇気はないわね」
「あはは……」
「弟弟子君、モテモテだねぇ」
(私は3番目以降でも構いませんよ、うふふ♪)


 ティ―タは怯えてエステルにしがみつきクローゼとアネラスは愛想笑いを浮かべていた。エマも笑っていたけど何処か余裕も感じられた。


「埒が明かぬな、ここは猟兵の流儀である力で奪わせてもらう」
「望むところ。勝負はどうする?」
「リィンに決めてもらえばいいだろう、女のやり方でな」
「それでいこっか」


 わたしとラウラは立ち上がるとリィンの元に向かった。リィンはオリビエにからかわれて怒っていたけど構わず声をかける。


「リィン、ちょっといいかな?」
「うん?どうしたんだ、フィー。それにラウラまで……なんか怖いんだけど?」
「なに、少し勝負するから見届けてほしいのだ」
「勝負?こんな時間にか?もう夜だぞ?」
「だいじょうぶ、仕合とかじゃないから」
「まあいいけど……」


 リィンは立ち上がってミラを置いて外に向かった。わたしとラウラもミラを置いてそれに続く。


「リィン君、頑張ってね……」


 エステルの声が聞こえた気がするけど今は気にしない、わたしはそのまま二人と宿泊してるホテルに向かった。


「それでなんの勝負をするんだ?」
「ん、リィンの正妻を決める勝負だよ」
「制裁!?俺、二人に罰せられるのか!?」
「違う、そちらではない。正しい妻と書いて正妻だ」
「ああ、そっちね……って正妻!?」


 わたしの正妻という言葉を制裁と勘違いしたリィンが驚くが、ラウラの訂正にホッとしてまた直に驚いた。


「リィンも団長とマリアナ見てて分かってるでしょ?ハーレムには取り仕切る一番が必要だってこと」
「まあ分かるけど……今決めないと駄目なのか?」
「うん」
「そう言われてもな……優柔不断なのは自覚してるけど二人の事は同じくらい愛してるから今すぐに決めろって言われても……」


 私が団長とマリアナの事を言うとリィンも納得した様子で頷くがそれでも決められないらしい。まあ愛してるって言われたのは嬉しいけど……


「だからわたし達がアピールする、それでリィンは選んでほしい」
「うん、そういう事だ」
「……分かった。大事なことだからな」


 取り合えず準備をする為にリィンには一旦席を外してもらうことにした。


「ほ、本当にこれを着るのか!?」
「うん、リィンに喜んでもらえると思って買っておいた」
「い、いやしかし……」
「嫌ならいいよ。わたしの不戦勝ってことで」
「そ、そうはいかん!やってやろうではないか!」
「ん、それでこそだね」


 わたしとラウラはある衣装を着てリィンを呼んだ。


「リィン、入っていいよ」
「ああ、分かった……っ!?」


 部屋に入ってきたリィンはわたし達を見て驚いた。なぜなら……


「にゃあ、フィーだにゃん」
「ラ、ラウラだわん……」


 わたしとラウラは水着になってそれぞれ猫と犬の耳のカチューシャと尻尾、後手袋と靴下を装着してコスプレをしていた。


 あっ因みに言っておくけど尻尾は腰にはめて装着するタイプのものだからね、変なこと考えないでよ。


 わたしは猫みたいなポーズで、ラウラは顔を真っ赤にしながら犬みたいなポーズで挨拶をする。


「な、な、な……!?」
「ほら、こっちに来るにゃん」


 わたしは動かなくなったリィンを引っ張ってベットに座らせた。そして彼の膝に頭を乗せて丸くなる。


「撫でてほしいにゃん」
「えっと、こうか?」
「……♪」


 リィンは猫を撫でるようにわたしの頭を撫でてくれる。ん、気持ちいい……♡


「う、うう……」
「ラウラ、おいで」
「えっ……う、うん……じゃなくてわん」


 リィンに手招きされたラウラはリィンに近寄った。するとリィンはラウラの頭を撫でた。


「可愛いよ、ラウラ」
「あっ……んっ……♪」


 ラウラは嬉しそうにリィンの手に頬すりをする。


「今はリィンの猫ちゃんだにゃん。いっぱい可愛がってほしいにゃん」
「わ、私も遊んでほしいわん……」
「ああ、いっぱい遊ぼうな」


 それからわたし達はリィンといっぱい遊んだ。お腹を撫でられたり背中を摩ってもらったりしたし猫じゃらしやボールで遊んだりもした。


「二人とも可愛いなぁ」
「にゃあ……」
「くぅん……」


 リィンに抱き寄せられて幸せに浸るわたしとラウラ、そろそろ次の段階に……


「……二人とも、ありがとうな」
「えっ?」
「俺がレンの事で気を張ってると思ったから気分転換の為にこんなことしてくれたんだろう?」
「えっ……そ、そうだよ」


 リィンがレンの件で自分が気を張ってるからコスプレしたんだろうと言った、正直そんな意図は無かったけど同意しておいた。


「ごめんな、二人に心配かけて……でも俺は大丈夫だよ。レンの事は諦めたわけじゃない、俺は彼女の憎しみと向き合ってレンを取り戻す。だから俺を支えてくれないか?」
「……ん、勿論だよ。わたし達もリィンと一緒に戦うから」
「ああ、そなただけには背負わせないさ。私達は一心同体なのだからな」


 わたしとラウラはリィンと共に戦う事を改めて誓った。


「ん、じゃあそろそろ本格的に勝負に入ろうか」
「えっ、勝負って……?」
「正妻を決める勝負だよ」
「ええっ!?あれって冗談とか建前じゃなかったの!?」
「そんなわけ無いじゃん。それはそれ、これはこれだよ」


 私はそう言うとリィンを押し倒してべろちゅーをした。ラウラもリィンの耳を舐めて攻めている。


「絶対に一番を決めてもらうからね、リィン」
「ああ、逃げられると思うな」
「……はは、俺はこんなにも愛されて幸せだな」


 リィンは苦笑いをすると武術に使う体裁きで体を入れ替えてわたしとラウラをベットに寝かせた。


「俺だって男なんだ。好きな女の子がそんなエッチな格好をしていたら加減なんて出来ないからな」
「うん、いっぱい可愛がってね」


 わたしはそう言ってリィンに顔を寄せて深く唇を重ね合い舌を絡めた。


 その後わたしとラウラはリィンに正妻を決めてもらう為にいっぱいアピールをしていった。


 一応言っとくけど一線は越えてないから。ただ下着姿になってリィンを挟むように寝転がって耳元で『わたしを選んで……』って囁いたり、リィンも下着姿になってもらってハグしたりべろちゅーしたりリィンの下の太刀をラウラと一緒に手入れしただけだから。


 最終的にリィンはわたしを選んでくれた、やったね。

 
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