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大正帝の蕎麦

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第二章

「殿下のご身辺はです」
「大丈夫だな」
「はい、ですが」
「うむ、流石に店に入られるなぞな」
「入る予定がないというのに」
「ふらりとそうするなぞな」
 それこそというのだ。
「ないのでな」
「驚くべきことです」
「全くだ。だからな」
 それでというのだ。
「我々も店に行こう」
「そうしますか」
「だが表から入るとな」
 そうすればというのだ。
「殿下に気付かれるしな」
「大勢でお店に入りますと」
 若い官吏が不安そうに言ってきた。
「お店にもです」
「迷惑をかける、だから裏からな」
「お店の人にお話をして」
「そしてだ」
 そのうえでというのだ。
「こっそりとな」
「お店の中に入って」
「殿下を見させて頂こう」
「それではな」
 こう話してだった。
 侍従達は店の裏に回ってそこで店の者を呼んで事情を話した。
「実はそうした理由でだ」
「お店の中にですか」
「入れて欲しいのだが」  
 侍従が代表して話した。
「いいだろうか」
「はい、それでは」
「それではな」
 こうした話をしてだった。
 宮内省のお付きの者達は裏から店に入れてもらった、そして太子に気付かれない様に店の中を伺うと。
 太子は席に座ってざるそばを召し上がられていた、後ろに立っている警護の兵達も控えている店の者達も緊張しているが。
 太子はくつろがれてだ、周りに言われていた。
「いや、別にだ」
「くつろいでいいですか」
「そうなのですか」
「そうだ、そなた達もだ」 
 店の他の客達にも言われた、当然彼等も緊張している。そのあまり誰もが彫刻の様になっている。
「くつろいでいいぞ」
「そう、そうですか」
「そうしていいですか」
「我々も」
「殿下のお傍ですか」
「よい、この店はそうした店だな」
 ざるそばを召し上がれながら笑って言われるのだった。
「だからな」
「それで、ですか」
「くつろいで、ですか」
「そしてですか」
「この店にいていいですか」
「うむ、存分にな」 
 微笑んで言われた、そしてだった。 
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