田舎も住めば都
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第一章
田舎も住めば都
東京からだった。
佐賀県に引っ越してだ、民谷介人やや面長で茶色にした髪の毛を真ん中で分けた大きな目と引き締まった唇の一八〇あるすらりとした彼は言った。
「秘境だよな、ここ」
「おい、ここ政令指定都市だぞ」
「ちゃんとしたね」
両親は息子にすぐに言った。
「佐賀県は新幹線も通ってるぞ」
「そして総理大臣も出しているんだぞ」
「天守閣あるお城だってあるのよ」
「お父さんの転勤先としていいじゃないか」
「お父さん支社長よ支社長」
「凄い出世じゃないか」
「あのさ、俺東京で生まれ育ったんだよ」
高校生の息子は必死に言う両親に突っ込み返した。
「何でこんなところに引っ越さないといけないんだよ」
「だから転勤だからな」
「単身赴任もどうかだしね」
「ちゃんと立派な社宅もあるしな」
「あんたも何だかんだで県内の進学校合格してるじゃない」
「勉強頑張れ」
「そして東京の大学に受かりなさい」
呑気な顔の両親は息子に言うのだった。
「じゃあそういうことでね」
「佐賀県で暮らそうな」
「こんなところで高校の残り生活過ごすのかよ」
今入った一軒家社宅というその周りを見回して言った、周りは水田と畑が多く家はまばらであった。
「大変だな」
「何、お金はある」
「時間だってね」
「近くにスーパーもコンビニもあるぞ」
「インターネットも通ってるわよ」
「近くって歩いて行ける距離じゃないだろ」
そのスーパーやコンビニはというのだ。
「というかインターネット通じてないって既に日本かよ」
「そうだ、佐賀県も日本だぞ」
「れっきとしたね」
両親は今も呑気なままだった。
「それよりも庭付きの一軒家よ」
「社宅でもこんなの滅多にないぞ」
「ちゃんとガス水道も通ってるし」
「全然いいだろ」
「俺は東京がいいんだよ、これなら一人でも残るべきだったよ」
東京にというのだ。
「全くよ、こんな何もない田舎で最低でも高校卒業までか」
「あっという間じゃないか」
「勉強頑張りなさいね」
「そして東京の大学に行けばいいな」
「そうしたらいいでしょ」
「何でそんなに平気なんだよ」
自分が歳を取った様な外見の父の正太郎と丸い顔に小さい目と優しい顔立ちで黒いロングヘアで小柄な母の麻沙美に言った、だが二人はのぞかな場所と一軒家に満足してそれで平気だった。だから息子の言葉は普通に聞いてそれならと返すばかりだった。
介人はそんな両親に苛立っていた、だがそれでも今更東京に戻れず筈もなく佐賀県で暮らしはじめた、そして地元の学校にも通いはじめたが。
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