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肩書は外では通じない

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第一章

                肩書は外では通じない
 いきなりだ、その老人大江良介は誰も聞いていないのにふんぞり返って周りに自分の名前を言った後でこう言った。
「私は東大、京大の教授でしたよ」
「は、はあそうですか」
「そうなんですね」
「そして七つの大学全ての非常勤講師を務めましたよ」
「そうですか」
「そうなんですね」
「そうです」 
 こう言うのだった、そして東大がどうとか京大がどうとか話すのだった。
 だがその話を聞いた後でだ、彼が話したパブの客の一人ジョナサン=グローリー工場で日々肉体労働に励んでいるがたいのいい茶色の髭だらけの顔で癖のある髭と同じ色の髪の毛と青い目の彼は首を傾げさせて言った。
「おい、東大って何だ?」
「教授って言ってたな」
 マスターがカウンターの中から応えた。
「英語でな」
「何か変な英語だったな」
「あれだろ、日本語訛りのな」
「そうした英語か」
「日本人って言ってたからな」
 だからだというのだ。
「それでな」
「日本語訛りか」
「そうなんだろ」
 そうした英語だというのだ。
「どうせな」
「そうか、旅行で来たとか言ってたな」
「このリバプールにな」
「ビートルズの街だから来たって言ってたな」
「古いな」
 マスターはビートルズについてこう述べた。
「随分と」
「そうだよな、それで東大って何だ」
 グローリーはまたこの話をした。
「京大とか七つの国立大とかも言ってたけどな」
「あれだろ?日本の大学だろ」
 マスターは客のビールの用意をしながら答えた。
「教授と言ってたしな」
「そこの先生か」
「そうだろ、東京とも言ってたしな」
「日本の首都か、ハイスクールで習ったな」 
 グローリーはここでこのことを思い出した。
「そういえば」
「俺もだ、地理の授業で習ったよ」
「そうだったな」
「一回行ったことあるだろ、あんた」
「俺が行ったのは京都だよ」
 この街だとだ、グローリーはビールを飲んで鰯の塩漬けを食べてから答えた。
「古都な」
「あそこか」
「噂以上に凄い街だったよ」
 マスターに神妙な顔で話した。 
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