英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第5話
22:05――――
~八区旧市街・モンマルト~
「やれやれ……夕飯を喰い損ねたな。そっちは学生寮だろう?門限はいいのかよ。」
モンマルトに到着したヴァンは既に閉店しているモンマルトを目にして溜息を吐いた後アニエスに訊ねた。
「………一応、深夜までの外出届を出しているので。それよりどうか、手当てをさせてください。救急箱、ありますか……?」
ヴァンの質問に答えたアニエスは心配そうな表情を浮かべて手当てを申し出た。
「まあ、あるけどよ。」
その後二人は事務所に戻り、ヴァンはアニエスによって手当てを受けていた。
~アークライド解決事務所~
「傷……もう治りかかっているみたいですね。」
「そもそも大した傷じゃねえって言いたい所だが―――幾ら何でも治りが早過ぎるな。あの装置か、バケモノ化が原因か……」
(……………………)
ヴァンの傷の手当てをしていたアニエスはヴァンの傷が既に治りかかっている事に気づき、ヴァンは真剣な表情を浮かべて手当てされている部分を見つめ、二人の様子をメイヴィスレインは真剣な表情で黙って見つめていた。
「……………………きっかけは4年前に亡くなった母が保管していた”手記”でした。」
ヴァンの手当てを終えたアニエスは地下遺跡で遮られた説明の続きを始めた。
祖母と母が半世紀も受け継いできた曾祖父の遺した手記――――お察しの通り、導力器を発明したC・エプスタインその人でした。彼には養女が一人いたものの、その死後、行方不明になっていて……どうやら祖母は何らかの事情で表から身を隠したみたいなんです。祖母のメッセージもありましたが理由は明かされていませんでした。
母の死後、父が仕事に没頭するようになったのもあって――――私は曾祖父の手記に次第に引き込まれていきました。……といっても、数式や専門知識が記されているわけではなくて……その人柄や哲学、人生で大切なことは何かなどが多く綴られていました。日々の何でもないこと、家族との絆、お弟子さんたちとのやり取り――――……温かみがあってユーモアに満ちた尊敬できる人だったんです。その想いが祖母に、母に、そして私にも受け継がれていることが嬉しくて……少しずつ読み進める曾祖父の手記はいつしか私の宝物になっていました。
ですが――――数冊に渡る最後の手記―――最後のページにはこうありました。『どうか”オクト=ゲネシス”を120※年までに取り戻して欲しい。さもなければ全てが終わる』――――と。
「そいつは………」
アニエスの説明を聞き終えたヴァンは真剣な表情を浮かべた。
「……もちろん、亡くなる間際の妄想かもしれません。ですが、祖母から母、そして私に受け継がれた意味を考えてしまうと……何とかしなきゃって想いが日に日に強くなってしまったんです。……ただ祖母が身を隠した事も含めて、公にはどうしてもできなくて……そしてアラミスに入学して……とある頼りになる先輩と知り合って。そのアドバイスで導力ネットを調べて……こちらの事務所に辿り着いたんです。……まさかこんな事になるなんて夢にも思わずに……亡くなる人まで出して……貴方を危ない目に遭わせて。」
「……………………ま、なんにせよ一つは無事に手に入ったわけだしな。他に7つあるらしいが、ここらで手を引いてもいいんじゃねえか?」
後悔している様子のアニエスを目にしたヴァンは立ち上がってアニエスに指摘した。
「―――――やっぱり私にとっては家族の絆でもありますから……それに本当に存在し、手記の最後にあんな事が書かれていた以上――――目は、逸らしたくないんです。――――5万ミラ、あります。何とか用意できた全額です。どうか今回の依頼料としてお受け取りください。」
ヴァンの指摘に対して自身の揺ぎ無き決意を答えたアニエスはミラ札が入った封筒をヴァンに差し出した。
「……依頼料の規定は最初に説明したはずだが?」
「えっと、怪我をさせてしまった迷惑料と思っていただければ……この先は自分一人で何とか捜してみます。もう誰も巻き込まないやり方で……あ、身の安全には気を付けますから!」
(先程その男を庇った件を考えれば全く信用できない言葉ですね……それにまさかとは思いますが、貴女と契約し、常に貴女と共にいる私の事を忘れてはいないでしょうね、アニエス……)
ヴァンの指摘に対して答えた後に口にしたアニエスが考えている今後の自分の方針を耳にしたメイヴィスレインは呆れた表情で呟いた後顔に青筋を立てて静かな表情で呟いた。
「ハッ………」
一方ヴァンは鼻を鳴らしてアニエスから封筒を取って封筒から”1万ミラ札を一枚だけを抜いた”後”残りの4万ミラが入った封筒”をアニエスに差し出した。
「え………」
5万ミラを渡したつもりが4万ミラを返してきたヴァンの行動にアニエスは呆けた声を出し
「アークライド解決事務所の基本料は1時間1000ミラで諸経費その他だ。今回、危険手当は適用させてもらうが結果的に依頼人のあんたにも手伝わせた。あまつさえ危険に晒したことを考えると成功報酬でも一万が関の山だろ。これが仕事ってモンだ――――舐めてんじゃねぇぞ、学生。」
「で、でも……すみません。わたし、やる事なす事―――」
説明をした後口元に笑みを浮かべて指摘したヴァンに戸惑った後申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「ま、あのバケモノ化といい個人的にも興味が出てたからな。追加料金ってのも違うだろう。」
「え……」
そしてヴァンの話を聞くと驚きの表情を浮かべて顔を上げてヴァンを見つめた。
「――――あんたが諦めないなら今後もできる範囲で手伝ってやる。代わりにそっちは”ゲネシス”や手記の情報をその都度提供してくれ。そんな交換条件でどうだ?」
「……………………あの……それって。今回みたいな危険があるかもしれないのに……依頼料も取らずに捜索の手伝いをしてくださるっていう……?」
ヴァンの提案に呆けた様子で黙り込んだアニエスは驚きの表情でヴァンに確認した。
「だから交換条件って言っただろ。言っておくがビタ一文たりとも追加は受け付けねえからな?それと危機管理の観点からもう少し実戦慣れもしてもらう。てめえでてめえは守れるくらいに――――――厳しく行くから覚悟しとけよ?」
「……っ、そんなの……(……そんなの私が一人が得しているだけじゃないですか……)……わかりました……!今後ともよろしくお願いします!」
(アニエスと出会ってから以降のアニエスへの接し方といい、今のアニエスへの提案といい、彼の”在り方”はどちらかというと”正義”……地下遺跡での戦いで変身したあの”魔王”クラスの力を秘めた”鬼”らしき姿の件もありますから、天使として彼を見定めたい私にとっても都合がいい状況になったようですね。)
ヴァンの話を聞いてヴァンの自分への気遣いに驚いたアニエスだったがすぐにヴァンの提案を受け入れる事を決め、その答えを口にし、その様子を見守っていたメイヴィスレインは静かな表情を浮かべていた。
「ああ、こちらこそな。――――――話がまとまった所で本日のご褒美タイムといくか。晩夏限定、アンダルシアの黒イチジクの糖蜜がけタルト――――全部頂くつもりだったが、今日はお互いお疲れさまってことで山分けしてやるよ。」
アニエスの答えを聞いたヴァンは頷いた後冷蔵庫に近づいてこれから口にする好物の事を考えて嬉しそうに語りながらアニエスに視線を向け
「あはは……ありがとうございます。あ……そうだ。……その、先程の条件だと流石に申し訳ないと思うんです。ですから――――――せめてものお返しにこちらでアルバイトさせてください!」
ヴァンの言葉に苦笑しながら感謝の言葉を口にしたアニエスはある事を思いつくと立ち上がってヴァンを見つめてある申し出をした。
「!?――――――はああああっ!?」
アニエスの申し出に血相を変えたヴァンは振り向いて驚きの表情で声を上げた。
「見たところお忙しそうですし、色々と散らかっていますし……書類整理は慣れていますからお力になれると思うんです……!あ、バイト代はお気持ち程度で!タダでも結構ですし!」
「そ、そんな訳に行くか!労働基準法ってモンが……――――――じゃなくて!そもそも前提がおかしい!なんでいきなりお前をバイトで雇う話になるんだ!?」
アニエスの話と提案を聞いて反論しかけたヴァンだったがある事に気づくと困惑の表情でアニエスに指摘した。
「だってヴァンさん、追加料金は絶対に受け取らないって……それが流儀なのはわかりましたけど学生にも譲れないものはあるんです。」
「……………………」
アニエスの主張にヴァンは思わず口をパクパクさせ
「あ、早速タルトを切りますね!もちろんヴァンさんは特大で!それとコーヒー豆は――――――うん、こちらの棚みたいですね。」
「なんでコーヒーの場所まで……速攻で馴染んでんじゃねえっつの!?」
そしてすぐに事務所に馴染み始めたアニエスに驚いた後疲れた表情で声を上げて指摘した。
こうして……アニエスはアークライド解決事務所でアルバイトをすることを決めた。そして寮の自室にアニエスが戻るとメイヴィスレインが現れてアニエスに声をかけた。
23:30――――
~アラミス学生寮・アニエスの部屋~
「アニエス、疲れている所申し訳ありませんが少しだけ私の話に付き合ってもらいますよ。」
「メイヴィスレイン……?突然どうしたの……?」
メイヴィスレインが声をかけるとアニエスは振り向いて不思議そうな表情を浮かべた。
「今日1日の貴女の行動に関して注意したい事がいくつかあります。まず貴女が依頼した人物であり、雇い主にもなったヴァンを地下で庇った件ですが――――――」
そしてメイヴィスレインは少しの間アニエスにヴァンと行動中だった時の反省すべき点をアニエスに指摘し、説教をしていた。
「ヴァンも言っていたように、今後はもっと貴女自身の安全を考えて――――――アニエス!?……少々強く言い過ぎたようですね。」
アニエスに説教をしていたメイヴィスレインだったがアニエスが涙を流している事に気づくと驚きの表情で声を上げた後気まずそうな表情を浮かべた。
「ううん……メイヴィスレインが私を心配して怒ってくれたのはわかっているから……こんな風に誰かが私の為に怒ってくれるなんて、本当に久しぶりで……お母さんがまだ生きていて、私を危ない事をした時に怒って説教してくれた時の事をつい思い出しちゃって………グスッ………フフ、今のメイヴィスレイン、まるで私のお姉さんね。」
「……………………………年齢という点で言えば、私は貴女よりも遥かに上ですから、貴女がそう感じるのも当然です。」
そして涙を流しながら僅かに嬉しそうな表情を浮かべて答えたアニエスの様子を目にしてアニエスがヴァンに語ったアニエスの家族の事情について思い出したメイヴィスレインは少しの間黙り込んだ後静かな表情で答えた。
「フフッ、アニエスはそういう意味でメイヴィスレインさんを”姉”と感じた訳ではないわよ。」
するとその時レンが部屋に入ってきてメイヴィスレインに指摘した。
「レン先輩。」
「おかえりなさい、アニエス。まずは無事に1つ目を見つけられた事、おめでとう。」
「ありがとうございます。こうやって1つ目の”ゲネシス”を見つけられたのもレン先輩のお陰です……!」
「私は大したことはしていないわ。――――それよりも、メイヴィスレインさんに渡す物があるわ。――――――はい。」
アニエスにお礼を言われたレンは苦笑しながら答えた後メイヴィスレインにザイファを渡した。
「これはアニエスやヴァンが使っていた……」
レンから渡されたザイファをメイヴィスレインは見つめながらアニエスやヴァンが使っていたザイファを思い返していた。
「戦術導力器――――――それも最新式である”ザイファ”よ。”ザイファ”の有用性は今日1日のアニエスが使っている所もそうだけど、アニエスや”アニエスが依頼した人”が実戦で使っているのを目にしたから、メイヴィスレインさんにとっても自身の戦闘能力の向上もそうだけど他にも使い道が色々とある事は理解しているでしょう?」
「……何故これを私に?」
「勿論大切な後輩の為に決まっているじゃない。――――――アニエスはこれから曾祖父さんの遺産を取り戻す為に数えきれない危険に巻き込まれる事になるでしょうから、そんなアニエスを傍で守るメイヴィスレインさんは最低でもメイヴィスレインさん用の最新式くらいは持っておいた方が様々な場面で役に立つでしょう?」
「……………………一応、感謝はしておきます。」
レンの説明を聞いたメイヴィスレインは目を伏せて今日1日にあった出来事やアニエスの”オクト=ゲネシス”に関する話を思い返した後目を見開いて静かな表情で答えた後ザイファを受け取る事を決め
「その、わざわざメイヴィスレインのザイファまで用意して頂き、ありがとうございます、レン先輩……!メイヴィスレインに用意したザイファの費用は後で必ず用意してお返ししますので――――――」
「フフ、メイヴィスレインさんのザイファにかかった費用を気にする必要はないわ。そのザイファはアニエスの先輩としてできる私の数少ない協力方法だから、後輩は黙って先輩の言う事を聞いておきなさい♪」
アニエスはお礼を言った後ザイファに関する料金の支払いについて言いかけたがレンが制止した後ウインクをしてザイファの支払いは無用である事を告げた。
「レン先輩………本当にありがとうございます……!あ……え、えっと、そのレン先輩、実は――――――」
レンの気遣いに感謝したアニエスはアルバイトの件を思い出してレンにその事を説明し始めた。
そして翌日の深夜、サラの手配によってリィンとの面会の場が用意され、面会の場である遊撃士協会の支部でサラとラヴィ達が待っていると支部の前にリムジンが止まり、リムジンからはリィンとパント、クレアとレクターが出てきた後4人は支部内へと入ってきた――――
ページ上へ戻る