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イベリス

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最終話 素敵な想い出その十二

「沢山の人を助けられたら」
「いいの?」
「沢山なら沢山だけね」
「そうなのね」
「そうした人になってね」
「私なるわ」
 花は母に顔を向けて約束した。
「絶対にね」
「そうしてね」
 こう話してだった。
 また歩きはじめた、そして再びハチ公像の前に来ると。
 咲は目の前に彼を見た、彼はあの時の婦人警官と仲良く歩いていた。十年前に見た時より二人共少し年齢を重ねていたが。
 雰囲気も外見も記憶にあるままだった、私服姿で共にいて。
 二人で七歳位の男の子と五歳位の女の子を連れていた、二人共笑顔で咲の前を歩いてそうしてだった。
 渋谷を歩く人たちの中に消えていった、咲はその近藤と彼の家族を観てだった。
 自然と笑みを浮かべた、その彼女を見て花は言った。
「お母さんどうしたの?」
「えっ、どうしたのって」
 咲は我に返って娘に応えた。
「さっきお母さんが知ってる人が前を通ったの」
「そうだったの」
「ええ、幸せそうだったわ」
「幸せならいいわね」
「そうね、まさかここで見るなんて」
 咲は自然と微笑みになって答えた。
「思わなかったわ」
「そうだったのね」
「けれどね」
 それでもとだ、咲はさらに答えた。
「本当に幸せそうでね」
「よかったって思ったのね」
「凄くね」
「さっきの恰好いい人とお会い出来たし」
「それで今もね」
 近藤の幸せな姿を見られてというのだ。
「よかったわ」
「じゃあ渋谷に来てよかった?」
「今日ね。花ちゃんはどう思ったか知らないけれど」
「お母さんがそう思うなら」 
 それならとだ、今度は花が答えた。
「私もよかったって思うわ」
「そうなの」
「うん、今お母さん笑ってるし」
「そうなのね」
「そうなの、それでこれからは」
「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんのお家に帰ってね」 
 そうしてというのだ。
「晩ご飯よ」
「晩ご飯は何なの?」
「カレーよ」
 咲は笑顔で答えた。
「花ちゃんの大好きなね」
「カレーなの」
「そうよ、嬉しい?」
「嬉しいわ」
 花は笑顔で答えた。
「私カレー大好きだし」
「それならいいわね」
「うん、じゃあお祖父ちゃんとお祖母ちゃんのお家まで帰ろう」
「そうしましょう」
 母娘で明るい笑顔で話してだった。 
 二人で咲の実家に帰った、すると。
 愛がいた、愛は咲が言った通りの外見だった。そのすっかり落ち着いたファッションになってそのうえで言ってきた。
「久し振り、元気?」
「この通りね。お姉ちゃんもこっち来たの」
「咲ちゃんが帰ってきてるって聞いてね」
 それでというのだ。
「それでなのよ」
「来てくれたの」
「そう、それでお土産も買ってきたわ」
「お土産?」
「さくらんぼよ」
 咲に笑顔で答えた。
「果物いいかしらって思って」
「それでなのね」
「スーパーでいいさくらんぼ売ってたから」
 そうだったからだというのだ。 
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