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剣の丘に花は咲く 

作者:5朗
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第六章 贖罪の炎赤石
  第一話 覚悟

 
前書き
シエスタ 「わかりましたよシロウさんっ!」
士郎   「何がだ?」
シエスタ 「わたしの下着を盗んだ犯人がですっ!」
士郎   「なにっ! 下着を盗まれたのか!」
シエスタ 「そうなんですよ! 一つや二つじゃなくて全部ですよ全部! おかげで今わた……し」
士郎   「ほう……つまりそうか……今君は……」
シエスタ 「ししししシロウさんっ!」
その他大勢「お~いシエスタ! 下着ドロの犯人がわかったって?」
シエスタ 「はっ?!」
士郎   「のーぱ――」
シエスタ 「シロウさんッ! あなたを犯人です!!」
士郎   「は?」


 シエスタの迷推理が冴え渡る! 士郎の罪は冤罪かそれとも真実?!
 真実を明らかにするため、新たなるステージへと士郎は旅たつ!
 次回『異議あり!!』
 真実への道筋! 見つけられるか士郎!!
 

 
「シロウさん」
「……」
「シロウさん」
「…………」
「……シロウさん」
「………………」
「はぁ……シロウさん、いい加減ミス・ヴァリエールと仲直りしてください」
「……別に喧嘩をしているわ――」
「まったく。子供じゃないんですから」
「…………」

 ゴトゴトと揺れる馬車の中、三人も座れない小さな座席の上、シエスタは隣りに座る士郎を見上げ肩を落としている。隣に座る士郎はそんなシエスタの様子に気付きもせず、ぼうっと外を眺めていた。
 馬車の中のシエスタは、何時ものメイド服姿ではなかった。草色の可愛らしいワンピースに編み上げのブーツを履き、頭の上には小さな麦わら帽を被っている。
 そんな気合が入った清楚で可愛い姿になっているシエスタは、何時もならば胸の一つや二つ押し付けながら逃げ場のない士郎の首元に吸い付いているはずだというのに、狭い座席の上、士郎と肩を寄せ合って何故か浮かない顔をしていた。

 理由はある。
 それは自分の恋敵でもあり、身分を超えた友達でもあり、そしてある意味戦友でもある人。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと士郎が珍しく喧嘩をしているからだ。ただの恋敵ならこのチャンスを逃さずに色々出来たのだけど、残念な? ことにシエスタとルイズは仲間だから。

 はぁ……放っておけませんよね。
 まったく。一体原因は何なんですか? 
 う~ん原因原因……え~と……
 夏休みから帰ってきた時は変じゃなかったですよね。
 じゃあ、夏休みから帰ってきてからのことが原因?
 あっ! もしかしたらミス・ヴァリエールを誘わずミス・ロングビルと一緒にシロウさんを襲ったこと! ……いやいや違う違う、だって次の日バレて、シロウさんを窓から蹴落としてその話は終わりになったし。
 じゃあ、どっちがシロウさんを悦ばせられるか勝負して、何時も負けてること?
 確かにそれが原因で喧嘩してたこともあったけど……でも、こんな風じゃなかった。
 え~と、え~と……本当にわからない……
 一体何が理由なんですか?
 二人共教えてくれないし……もう……原因がわからないと解決できませんよ。

 ねぇ、ミス・ヴァリエール……。





 さて、シエスタが何やら喧嘩している士郎とルイズを仲直りさせようとしている馬車の後ろには、さらに立派な一回り大きい、馬車を引く馬も二頭もいて、見るからに高そうなブルームスタイルの馬車が走っていた。中も立派な作りで、三人どころか五人も楽に座れるクッションが効いた座席が設置されている。そんな馬車の中、座席の上に体操座りし、足の間に顔を挟むルイズの姿があった。



「……」
「――いてるのっ!」
「………………」
「――てるのっ! 聞いてるのルイズッ!!」
「ッッ?! あいたふあぁぁぁっ?!」
「聞いてるのルイズっ! 」

 ぶつぶつと俯き、何やら呟いていたルイズの頬を、捻り上げ、無理矢理起こしたのは、ルイズの前の座席に座る、金髪が眩しい女性だった。歳は二十代後半だろう、顔立ちはルイズによく似ている。ルイズも気の強い方だが、こちらの方は見るからに気が強そうだ。美人な分、余計に迫力がある。

「なに一人ぐちぐち言っているのよちびルイズ。人の話しを全く聞かないで、一体どうしたのよ」
「うっ、そ、それは……何でもないわよ」
「何でもない~~? そんな顔して何でもないはないでしょ! 人が折角心配してやってるっていうのにっ!!」
「いふぁああい! いふぁいでしゅ! ごふぇんにゃさいねべばさああ!」

 頬を更にひねり上げられ、泣き喚きながら謝るルイズを見下ろすのは金髪美女。その正体ははルイズよりも十一歳年上の姉。ラ・ヴァリエール家の長女であるエレオノールであった。

「そもそもあなたは一体何を考えているのよ! 『祖国のために、王軍の一員としてアルビオン侵攻に加わります』? 全く、馬鹿なのあなたは! しかも報告するだけ報告して、従軍なんて許さないって何通もの返事を返したのに無視して! だからわざわざ私が来ることになったのよ! わかってるのちびルイズ! 聞いてるのちびルイズ!」
「きいてまびゅ! 聞いてまひゅうう!!?」

 そもそも何故ルイズたちがこんなところにいるのかというと、ことの発端は先月のアルビオン侵攻の発布から始まった。何十年振りかの遠征軍編成で足りなくなった士官を補充するため、王軍は貴族の学生を士官として登用することになったのだが、『虚無』の担い手であるルイズはその作戦のため、特別な任務を王宮から直々に与えられたのだが……。
 ルイズも戦争は好きじゃない。しかし、祖国の力に、姫さまの力になれればという思いから、その任務を拒否することはなかった。従軍することを決めると、そのことを実家に報告したのだが、どうやら実家の方は従軍に断固反対だという。祖国への忠義を示せるから、反対はされないと思っていたがそれはどうやら甘かったらしい。実家からの返事を無視していたら、とうとう実力行使に向こうが訴えかけ、こうしてエレオノールに捕まったというわけだ。もちろん使い魔である士郎も付いていくことになり、近くにいたというだけの理由でシエスタもそれに巻き込まれた。
 しかし、ルイズがこうも落ち込んでいる理由は実家が従軍断固拒否ということではなかった。そうではなく、自分たちの前を走る馬車に乗る人物が原因なのだ。
 前から士郎はルイズが戦うことをあまりいい顔をしていなかったが、今回のこともやはり駄目だった。ギリギリまで隠しておこうと思っていたルイズだったが、実家からの返事の手紙を開けたままそのままにしていたのが見つかってしまい、結局バレてしまったのだ。士郎だけどもと、何とか認めてもらうため色々頑張ったのだが、士郎の意見は変わらず『戦争等に行くな』の言葉だけ。
 どうしてもダメだと断固とした態度につい言い争いになってしまい……それが未だに尾を引いているのだ。


「あんたが戦争なんか行っても何もしないうちに死ぬだけよ! 一体何を考えてそういう結果になるのよ! いい!? 覚悟してなさい! お父さまもお母さまも機嫌が悪いわよ!!」
「そふなぁぁぁふぁお!?!」

 頬をつねり上げられ目尻から流れる涙に滲む視界。
 言い返そうにも言い返せない状態に置かれたルイズは、

「たふへえええてええええひろおおおおおお!!」

 ついつい士郎に助けを求めてしまうのだった。





「ルイズ?」

 ルイズの悲鳴が聞こえた気がした士郎が、窓の向こうに見える立派な馬車に顔を向ける。常人の目には見ることは出来なくとも、士郎には特に問題なく見ることが出来た。馬車の中で、ルイズの前の座席に座る金髪の女性が、ルイズの頬を捻り上げている姿が見える。
 仲睦まじい姿に目を細めた士郎が窓から顔を離すと、顎に手を当て、目を伏せるシエスタがいた。
 眉根に皺を寄せ、うんうんと唸って何か考えているシエスタが心配になり、士郎が声を掛けようと手を伸ばそうと、

「わかったっ! わかりましたよシロウさんっ!」
「な、何だシエスタ? ど、どうかしたのか?」

 いきなり指を突きつけられ、戸惑う士郎に向け、シエスタが何かスッキリとした顔で言いつのってきた。

「ミス・ヴァリエールが今度の戦争に行くっていうのに怒っているんでしょっ! それが原因で喧嘩しているんでしょシロウさんたちはっ?!」
「……それを今まで考えていたのか?」
「そうですよ! もうっ! 人が折角心配しているっていうのに無視して……はぁ……で、やっぱりミス・ヴァリエールが今度の戦争へ参加するっていうのが原因でいいんですよね?」
「……まあ、そういうことになるな」

 渋々というように顎を引いて頷く士郎の肩に頭を寄せたシエスタが、目を閉じながら小さく囁く。

「……シロウさんの言うこともわかります。戦争は……怖いですから……でも、わかっていますかシロウさん?」
「……何をだ?」
「あなたがミス・ヴァリエールを心配するように、わたしもあなたを心配しているんですよ」

 そっと膝の上に手が置かれる。
 視線を下げると膝の上に置かれたシエスタの手が震えていた。 
 そのことに気付いた士郎が唇を噛み締め、シエスタに顔を向けると、

「シエスタ……俺はっんっ! ふむぅっ? ぬむふぁ……ひへふぁ?」
「んむ……ぁ……は……ぁむ……ちゅむ……ん……」

 何かを言おうとした士郎の口をシエスタが塞ぐ。
 何とかシエスタを引き離そうとする士郎だが、ガチリと士郎の後頭部を抑えられ、引き離すことが出来ない。狭い馬車の中、さらにシエスタは動く。士郎の唇を吸いながら、シエスタは士郎の膝に上がる。大きな胸が平たくなるほど、士郎の厚い胸に押し付ける。膝を大きく開き士郎の腰を締め付け士郎の動きを完全に止めると、さらに大きく深く口吸いを続けた。手間のかかった料理を味わうようにたっぷりと数分はキスを続けた後、たらりと銀色の橋を掛けながら二人の唇が離れていく。
 ぷつりと橋が切れ、互いの唇の端にかかる。
 ぺろりと口の端についた銀の橋の欠片を舐めとると、シエスタは赤く汗に濡れた顔と瞳で士郎を見下ろす。口を開けたまま、士郎は膝の上に上がり見下ろしてくるシエスタを見上げていると、妖艶としか言いようのない顔で笑うシエスタが顔を近づけていき、

「ッ?!」

 ペロリと、士郎の口の端に残った銀の橋の欠片を舐めとった。

「シエ――っ! ちょ、お前――んんっ?!」
「んん……む……ん……はぁっ」

 抗議? の声を上げようとした士郎の口をまたもや自身の口で塞いだシエスタは、今度はすぐに顔を離す。そっと士郎の顔から離れたシエスタは、微かに顔を俯かせていることから、その表情を確認することが士郎には出来ない。
 シエスタは顔を向けることなく、士郎の胸にぽすんと額を当てる。
 
「だけど……わたしはあなたを止めません」
「シエ、スタ」
「だって、わたしは」

 士郎の胸に両手を当て、シエスタはゆっくりと顔を起こすと、うって変わって慈母の如き慈愛に満ちた笑みで士郎を見下ろした。

「シロウさん……あなたを信じているからです」







 士郎たちが魔法学院を出てから二日後の昼。
 道中何事もなく(士郎がシエスタに襲われたり、ルイズが姉に説教されたりはあったが……)無事にラ・ヴァリエール領に到着した。
 領地に着いたというのに屋敷の姿はなく、ただ草原が広がるのみ。話しによると屋敷につくのは半日掛かるという。貴族の屋敷に訪ねにいったことも働いたこともある士郎だったが、屋敷に辿りつくまで半日はかかるというのは初めてだった。更に詳しく話しを聞いてみると、領地の広さは日本で言う市並みの大きさがあるそうだと。規模の違いに士郎が半ば呆れていると、士郎たちを乗せた馬車がとある旅籠でとまった。
 馬車が止まり、士郎は素早く馬車から降りると、背後に止まったルイズたちが乗る馬車に向かって移動しドアを開ける。頭を下げる士郎の横を、エレオノールとルイズが降りていく。
 エレオノールは士郎を一顧だにすることなく通り過ぎ。ルイズはむっと片方が赤くなった頬を膨らませながら士郎を人睨みすると、声を掛けることなく通り過ぎていく。
 遅れてシエスタが士郎の後ろに立つと同時に、旅籠から村人たちが飛び出してきた。
 村人たちは、旅籠へと歩いていくルイズとエレオノールの前まで駆け寄っていくと、帽子を取って頭を下げだす。必死にご機嫌取りを行う村人たちの一人にエレオノールが顔を向け、屋敷に到着を知らせなさいと指示を出すと、一人の少年が馬に跨り走り出していった。それを確認したエレオノールたちは旅籠の中に入っていく。士郎も腰に差した剣を預かろうとする村人を掻き分けながら旅籠の中にはいる。
 村人の一人に案内され旅籠の中に入ると、ルイズたちは目に付いたテーブルに向かっていく。士郎はシエスタと目配せをすると、シエスタと共に椅子を引いた。ルイズたちが椅子に座ると、士郎はルイズの後ろに控えるように立った。
 ルイズが反射的に士郎に何か言おうとしたが、エレオノールの視線に気付き、何も言わず口を閉じてしまう。どうやら随分とこの姉が苦手らしいと士郎が考えていると、村人たちのルイズを誉める声が聞こえてきた。ルイズは緊張で何も聞こえていないのか、硬く小さくなってぷるぷると震えている。
 その内、村人の話しがルイズからエレオノールへと向かうようになると、雲行きが怪しくなっていった。
 一人の村人がエレオノールの婚約について口にし、周りの村人たちがそれを注意すると、明らかに空気が変わる。硬く、刺々しい……そして酷く重苦しい空気に。
 これは……地雷を踏んだか? 
 士郎が表情を変えずに喉を鳴らすと、隣に移動してきたシエスタが不安気に士郎の手を握り締めてきた。
 そんなある意味一色触発の空気の中を、ルイズの声が響く。 

「あ、そ、その……ご婚約おめでとうごじゃひぃぃいいいっ?!」
「何がおめでとうなのよっ?! 何がッ!!」

 ルイズが祝いの言葉を贈ろうとすると、言い切る前にエレオノールがルイズの頬を捻ることで封じた。
 
「え? な、何? どうして?」
「あんた知ってて言ってんじゃないわよねッ!! もしそうだったら簀巻きにして湖に沈めてやるからね! いいっ?!」
「ひっ! は、はいいぃぃぃ……」
「ふんっ! 残念ながら婚約は解消よ解消!」
「え? そ、その……どうして?」

 放り捨てるようにルイズの頬を離すと、腕を組みながら吐き捨てるように言った。
 ルイズは懲りないのか? 赤くなった頬を抑えながら理由を聞くと、ビキリと額に血管を浮かせたエレオノールが詰め寄っていく。

「さ・あ・ね・ッ!! 元婚約者たるバーガンディ伯爵さまに聞いたら? 何やら『もう限界』だそうよ……何が限界なのかしらね」
「……っごく……さ、さあ?」

 エレオノールの言葉に、口の端をヒクつかせながらルイズは首を傾ける。
 そんな様子をルイズの後ろから見ていた士郎は、胃が痛くなりそうな空気に溜め息を着きたくなるが我慢する。そして見たことも無いバーガンディ伯爵に同情していた。いくら美人だろうが、性格がこれじゃあ、どうしようもないなとうんうんと内心頷く。
 怒りが収まらないのか、エレオノールのルイズへの攻撃は収まらない。
 椅子の上、縮こまったルイズを、エレオノールが甲高い声で説教をし始めた。
 ルイズの瞳が涙に潤みだし、今にもこぼれ落ちそうな様子に士郎が流石にと止めようとすると、旅籠のドアが音を立てて開き、外から桃色の髪を靡かせながら人影が飛び込んできた。
 人影は広いつばの帽子の隙間から長い桃色の髪を靡かせ、体の線が見えるドレスをひらめかせながらルイズたちに向かって駆け寄っていく。
 歳は二十代半ばだろうか、帽子の下にある顔は一見して美人と言える顔立ちなのに、身にまとう雰囲気や、柔らかな表情から、美人よりも先に可愛いという言葉が浮かぶ。ルイズと同じ桃色がかったブロンドや鳶色の瞳からルイズの姉だろうと予測を付ける士郎の目の前で、その女性がエレオノールに抱きついた。

「か、カトレア?」
「エレオノール姉さまお久しぶりです! 立ち寄ってみた旅籠でエレオノール姉さまに合うなんて! 今日は何て素晴らしい日なの!」
「ちょ、カトレア、やめなさいもうっ」

 首に回された腕を必死に外そうとするエレオノールだが、カトレアを気遣ってか、無理やり外そうとはしない。そうこうしているうちに、エレオノールの前で縮こまっていたルイズがカトレアに気付いた。

「ちいねえさま!」

 椅子を蹴倒しながら立ち上がったルイズが、エレオノールに腕を回しているカトレアの腰に抱きつく。そして、猫や犬がそうするように、自身の頭をカトレアの腰にぐりぐりと押し付ける。急に抱きつかれ思わずエレオノールから手を離したカトレアだったが、抱きついてきた正体に気付くと、顔を綻ばせルイズを抱きしめた。

「まあっ! まあまあまあルイズじゃない! わたしの可愛い小さなルイズじゃない! これで姉妹が全員揃ったわ! 本当に今日は素晴らしい日ね!」
「ちいねえさま! ちいねえさま! ちいねえさま~!」

 きゃっきゃと喜び合い抱きしめ合う二人の姿に、士郎はエレオノールを止めようと伸ばしかけていた手を元に戻す。士郎が目を細めながらその様子を眺めていると、こちらに気付いたカトレアが顔を向けてきた。

「あら、あな、た――は……」
「ん?」
「ちいねえさま?」

 こちらに向けられる視線に気付いたカトレアが、士郎に顔を向けられる。すると、優しく弧を描いていた目が大きく見開らかれた。ルイズを抱きしめていた腕が、だらりと垂らされる。
 呆然というよりも放心状態におちいったカトレアの様子に、士郎やルイズが戸惑いの目を向けるが、カトレアは何も言わない。

「カトレア? どうしたのよ?」
「……」
「カトレア!」
「……っえ! な、何ですか?!」

 エレオノールもカトレアの様子に気付いたのか疑問の声を上げる。何度も声を掛けると、やっと気付いたカトレアがハッとした表情で、椅子に座ってこちらを見上げてくるエレオノールに顔を向ける。

「どうしたのよ一体? 何かあったの?」
「あ……その……いえ……何でもありません」

 チラリと士郎に視線を向けたカトレアだったが、結局なにも言わずエレオノールに小さく微笑みを返した。
 







 士郎たちはここまで乗ってきた馬車から、カトレアが乗ってきた大きなワゴンタイプの馬車に乗り換えることになった。カトレアがそう提案したのだ。エレオノールはそのことにぶつぶつ何か言っていたが、結局反対することなく顔を顰めながらも馬車に乗り込んだ。
 大きいというよりも巨大な馬車の中は、五人乗っても広々と広いだろうなと考えていた士郎だったが、馬車に近づくにつれ、その考えが怪しくなっていった。士郎の鋭敏な感覚が、馬車の中の複数の気配に気付いたのだ。漂う獣の臭いに、まさかという気持ちで馬車のドアを開いた士郎の目に、そのまさかの存在が入り込む。
 馬車の中には先客がいた。
 犬や猫、大きな蛇(膝の上に落ちてきたシエスタが気絶したが)はともかく、熊や虎も鎖に繋がれているわけでもないことに士郎は難色を示したが、襲ってくるような素振りが見えないことから黙って馬車に乗り込んだ。

「犬や猫はともかく虎や熊をこのままで大丈夫なのか?」
「…………」
「……ふむ」

 気絶したシエスタを膝枕しながら、士郎は隣に座るルイズに問うが、ルイズは顔を向けることなく黙り込んでいる。
 士郎は溜め息をつき、何とはなしに視線を前に向けると、カトレアと視線がぶつかり合った。

「っ!」
「?」

 視線が合った途端に顔を背けたカトレアの様子に訝しげな顔を向ける士郎が何か言うよりも早く、カトレアがルイズに話しかけた。

「る、ルイズ! わ、わたし最近つぐみを拾ったのよ」
「えっ! 本当! 見せて見せて!」

 カトレアの士郎を避ける様子に気付かず、ルイズがカトレアの話しに飛びつく。
 楽しそうに笑い合う二人の様子を士郎は浮かない顔を手で覆う。

 ……まさか……

 何かに気付いた様子の士郎が、難しい表情を浮かべ、前に座るカトレアをちらりと見た。

 








 日が落ち空に星が輝き出す。二つの月が中天から外れる頃、士郎たちが乗る馬車は目的地に到着した。
 そこはトリステインの宮殿よりも大きいだろう、空に輝く月や星に照らされ浮かぶそのシルエットは、まるで山のようだ。
 城のような屋敷ではなく、まさにそれは城であった。
 周囲には深い堀がほられ、城壁が城の周りを囲っている。
 今この瞬間一軍が攻め込んでも、ある程度抵抗できるくらいの威容を誇っていた。

「シロウさん。もしかしてアレ、ですか?」
「どうやらそうらしいな」

 呆れる士郎たちの前に、大きなフクロウが窓から入り込んできた。フクロウは羽をばたつかせると、開いている座席の上に降り立った。全員の目がフクロウに向かうと、フクロウは羽を折りたたみながら、まるで人のようにお辞儀をする。

「おかえりなさいませ。エレオノールさま。カトレアさま。ルイズさま」
「ひっ! ふ、フクロウがしゃべ、しゃべ――」
「落ち着けシエスタ。これは使い魔だ。喋っても変ではない」

 パニックを起こしかけたシエスタの頭を撫で落ち着かせる士郎の横で、カトレアがフクロウに話しかける。

「トゥルーカス、母さまはどこに?」
「奥さまは、晩餐の席で皆さまをお待ちしています」
「それじゃあ父さまは?」 
「旦那さまは未だお帰りになられておりません」
「あらそうなの?」

 カトレアが前に座るルイズに顔を向ける。戦への参加の許可は父から得なければならないに、その肝心の父がいない。そのことにルイズは隠すことなく不満な表情を浮かべていた。
 馬車が近づくにつれ、堀の向こうに見えていた門の姿がハッキリと現れる。
 馬車が停止する。
 目の前の門は、仰げば首が痛くなるほどの大きさだ。巨大な門柱の両脇には、門と同サイズの巨大な石像がいた。巨大な石像は重々しい音を響かせながら、跳ね橋に取り付けられた鎖をおろし始める。
 地響きを立て跳ね橋がおりきり、馬車が進みだす。










 ……城には随分と縁があるな。
 士郎はルイズの実家である城の中に入ると、その豪華さを眺めながらしみじみと思った。
 あの聖杯戦争から、城にはどうにも縁が合うようだと。
 冬木の森に隠されていたイリヤの城に、イリヤの実家のアインツベルンの城。
 執事の仕事をしていた際に連れて行かれた(強制的に)ルヴィアの実家の城。
 ……後は思い出したくもないアルトの城……豪奢な洋装の廊下を、血を吸ってあげようかと笑いながら追いかけてくる少女……あれはもうトラウマの域だな……。
 嫌な過去が思い出され、背中に冷や汗が流れるのを感じているうちに、士郎たちはダイニングルームへと辿りついたが、そこにはシエスタの姿はなかった。シエスタは士郎たちについて行かず、召使たちの控え室に向かったが、士郎はルイズの使い魔ということで、ルイズたちに同伴することになったのだ。 
 ダイニングルームには三十メイルはあろう長いテーブルがあった。 
 ルイズたちは迷うことなくそれぞれの椅子に座り始める。
 士郎はルイズの後ろに護衛のように控えた。
 既に深夜であるにも関わらず、ルイズたちの母親は娘たちに会うのを明日にすることなく、テーブルの上座に控え、娘たちを待っていた。
 ルイズたちの母親――ラ・ヴァリエール公爵夫人はそれぞれの席に着いた娘たちを見回す。
 その視線は士郎へも向けられた。
 あ~……これは確実にルイズたちの母親だな。
 歳は四十過ぎぐらいに見える。炯々と輝く瞳はまるで刃物だ。頭の上で纏められた桃色がかったブロンドから、どうやらルイズとカトレアの髪の色は母親譲りらしい。そして、エレオノールの威圧感は母親譲りのようだ。
 こちらに目を向ける本家本元たる公爵夫人が身に纏う威圧感はエレオノール以上だ。
 サーヴァント並みだなと、身震いする士郎の前で、晩餐会が始まる。






 カチャカチャと銀のフォークとナイフが食器の上を滑る音だけが響く中、人の声が響く。
 それはルイズの声だ。

「あ、の……お母さま。お話しがあるのですが」
「……」

 ルイズの声に、公爵夫人は何も答えない。代わりにエレオノールが声を上げようとしたが、それよりも早くルイズが再度声を上げた。

「っ! お母さま! お話しがあるのです!」
「はぁっ!?」
「まあ!」
「…………ふぅ」

 椅子を蹴倒しながら立ち上がり叫んだルイズに、エレオノールやカトレアが驚きの声を上げ、公爵夫人は小さく息を吐くと、口元を上品に拭きルイズに顔を向けた。
 
「話しというのは、あなたが戦争に行くという話しですか?」
「そうです」
「話しをするのは構いませんが、決めるのはお父さまです。どうしても行きたいというのならば、お父さまを説得なさい」
「……そのお父さまは何時帰ってくるのですか」
「明日には帰ります。それまで待ちなさい」
「……はい」

 静かに告げた公爵夫人の言葉に、ルイズは静かに頷くと椅子に座った。
 そうして、この日の晩餐会は終わった。







 自分のために用意された部屋の中に置かれていたベッドの上で、士郎は横になって天井を眺めていた。
 思い出すのは晩餐会でのルイズの叫び。
 戦争……か……。
 目を閉じると走馬灯のように過ぎる戦場の記憶。
 悲鳴怒号嬌声……様々な感情が渦巻き……溶け合い……燃え上がる場所。
 目を開ける。
 そこには薄暗い天井が広がるのみ。
 行くべきではない。
 それは変わらない気持ちだ。
 戦場は英雄譚で描かれるようなものではないことを、士郎は身をもって理解している。だからこそ、ルイズの戦場へ行くという言葉を否定した。王宮がルイズの力を求めるというのならば、代わりに自分が行く。必要ならば力を見せればいい。そう考えていた。
 だが……。
 『だけど……わたしはあなたを止めません。シロウさん……あなたを信じているからです』……シエスタの言葉が脳裏に繰り返される。
 信じる……か……。
 ルイズを戦場に行かせないのは、ルイズを心配してのことか? それとも俺がルイズを信じていないからなのか……。
 
「俺は……どうすればいいんだ」

 思い出すのは一人の女性。
 戦場に生まれ、戦場と共に生き、そして戦場に散った人。
 生まれながらにして少年兵として戦場を渡り歩き、戦場の辛苦を全てを受けた人……。
 
「……信じたからこそ……あなたを死なせてしまった…………」

 思考がぐるぐると落ちていく。
 自己嫌悪に吐きそうになり、気分転換に外に出ようとすると、

「シロウさん……起きていますか?」
「……シエスタか。どうした、何かあったか?」

 ノックと共にシエスタが現れた。
 おずおずと入ってきたシエスタだが、士郎の顔色に気付くと慌てて駆け寄っていく。

「どうしたんですかシロウさん! 顔色がものすごく悪いですよ! まるで病人……ハッ! もしかして病気ですか? 大変っ! 早く寝て下さい!」
「落ち着けシエスタ……俺は大丈夫だ」
「でも……顔色が……」
「……少し昔を思い出していただけだ」
「そう……ですか」

 黒い肌が白く見えるほど血の気が引いた士郎の顔色に、驚き慌てていたシエスタだったが、士郎に頭を撫でられ落ち着きを取り戻す。悲しげな色を漂わせる瞳を細め見下ろしてくる士郎に、小さくこくんと頷きを返すシエスタ。
 
「昔のことって……何を……ですか」
「……俺が……救えなかった人のことだ」
「救え……なかった?」

 今にも消えてしまいそうなほどか細い声を漏らす士郎を、支えるようにシエスタが寄り添う。
 
「……ああ……もう、十年近く前になるな」
「……ごめんなさい」
「何がだ?」
 
 唐突に謝ってきたシエスタに、士郎が訝しげな顔を向ける。
 シエスタは顔を上げず、士郎の外套を掴む手にぎゅっと力を込めた。

「わたしが、馬鹿なこと言ったからですよね……」
「……シエスタが言うことも正し――」
「でもっ! それがシロウさんを苦しませ――あ……」
「いいんだ」

 バッと顔を上げ涙を流しながら誤ってくるシエスタを、士郎は抱きしめることで止めた。小さく震え続けるシエスタの背中をぽんぽんと、親が泣く子供をあやすように叩く。

「……俺は……大丈夫だから……」









 鉢植えが所狭しと並べられ、天井からは鳥籠がいくつもぶら下がり、鉢植えを避けるように子犬や子猫が駆け回る。それが、カトレアの部屋だった。
 そんな子犬たちが駆け回る部屋の中、部屋の中央に置かれた天蓋付きのベッドの上で、ルイズはカトレアに髪をすかれていた。
 
「今日はぴっくりしたわ。まさかルイズがあんな風にかあさまに意見するなんて」
「う……それは……わたしも自分で自分が信じられないわ」
「まあ、自分が信じられないなんてルイズは器用ね」
「……自分ほど信じられないものもないと思うわよちいねえさま」
「そう……」

 暫らくルイズの髪がすかれる音が響く。子犬も子猫も場を読んだのか、部屋の隅の方で丸くなって眠っている。

「でも、その様子だと大丈夫みたいね」
「何が?」
「ワルド子爵……裏切り者だったって聞いたわ。ルイズがショックを受けてないか心配してたのよ」

 ルイズは身体を後ろに倒し、カトレアの豊かな胸に後頭部を当てた。

「気にしてないわ。そんな昔のこと。言われるまで忘れてたぐらいよ」
「まあ。まるで大人の女のようねルイズ」
「まるでじゃなくて、もう立派な大人の女よ、ちいねえさま」
「そう……」
「だから、この戦争への参加も自分で決めたの」
「どうしても行くの」
「行く……例え反対されても行くわ」
「どうしてそこまで」

 ルイズはずるずるとベッドの上に身体を倒すと、カトレアに膝枕されているような状態になる。
 カトレアは膝の上から溢れた髪をすくうと、手に持った櫛ですき始めた。

「……わたしの使い魔……覚えてる?」
「使い魔? ……ああ……あの赤い服を着た男の人……」
「そう……エミヤシロウって言ってね。とても強くて優しくて……そして凄く……暖かい人」
「優しくて……暖かい」

 繰り返すようにカトレアが小さく呟くのを、ルイズは気づかない。

「今度の戦争……参加する理由はいくつもあるわ。祖国の危機。姫さまの手助け……だけど、一番の理由は違うの」
「それは、なに?」
「きっと、シロウはその戦争に行くから」
「え?」
「わたしが参加してもしなくても、シロウは絶対にその戦争に参加するから……だからわたしも参加するの」

 カトレアの手が止まる。

「使い魔さんが戦争に行くかもしれないから、ルイズは戦争に行くの?」
「大きな理由の一つとしてね」
「……」

 ルイズの言葉に黙り込んでいたカトレアが、ルイズから顔を背ける。

「……何で、その使い魔さんは戦争に行くのかしら……」
「シロウが戦争に行くのは……きっと救うため」
「救う?」
「……うん……死に行く人を出来るだけ救うため……死ぬ人を出来るだけ減らすために」
「救うために戦場に行くの? それは矛盾していないかしら」

 カトレアの言葉に、ルイズは身体を動かし顔を横に向ける。それは……カトレアから顔が見えないようにするため。

「……一人で……一人で戦場の一番前で戦うの……シロウは……そうして、自分だけで終わらそうとするの……」
「一人……で……」
「……それで救える命があると信じて……シロウは戦うんだ……一人で……だから……だからわたしが」

 そこまで言い、ルイズはカトレアに顔を向けることなくベッドから下りると、振り返らずにドアに向かって歩き始めた。

「ルイズ、何処に」
「……シロウのところ」

 カトレアの問いに短く答えたルイズ。
 立ち止まったルイズは、顔をカトレアに向けない。

「ありがとう、ちいねえさま。話したら色々すっきりしたわ。……あの、ね。実は今、シロウと喧嘩してて……どうしようと思ってたんだけど、ちいねえさまに話して覚悟を決めたわ」
「覚悟?」
「どんな手を使ってもシロウについていくって。だから、ちょっと行ってきます」

 返事を聞くことなく、ルイズはカトレアの部屋から出て行く。
 音を立てて締まるドア。
 一人残されたカトレアは、ルイズのぬくもりがまだ消えていない膝に視線を落とす。そこには、濡れた跡が見える。そっとその跡を手でなぞったカトレアは、旅籠で士郎を初めて見た時のことを思い出す。

「……優しくて……暖かい人」

 時々、不思議な感覚にとらわれる時がある。

「……救える命があると信じ、戦場で戦う……」

 動物の心や気持ちがわかることが時々あるのだ。
 それは時に人のものも……。
 ハッキリとしたものではなく、あやふやなものだが、確かに感じ取れることが。
 時にそれは、ハッキリと感じ取れる時がある。
 今日がそれだ。

「冷たく……乾いた」

 初めて彼を目にした時感じたのは、身を切り裂く様な鋭利な冷たさと、干からびた荒野のような乾いた心。

「暖かく……穏やかな」

 しかし、それと同時に正反対の毛布で包まれるような柔らかく暖かな心も感じ取れた。
 矛盾するものが、混じり合い、溶け合い、一つとなって存在する。
 カトレアは今までそんなものを感じたことはなかった。
 だが、分けてみれば似たようなものを感じたことはあった。
 それは……。

「虐待され……死んでしまった子犬」

 随分と昔、領地の村の隅で見つけた子犬。見つけた時には既に手の施しようがなく、それでもと伸ばした手を噛み付かれた。噛み付かれた瞬間、その子犬の心を感じた。生まれてすぐに猟犬に使えないと捨てられ、近所の子供や大人に笑いながら石を投げられ虐待される毎日。遂には何も感じなくなり、身体よりも先に心が干からひび割れてしまった。

 そして……。

「子を守り……死んだ狼」

 森の中を散歩していると、道を遮るように現れた狼。矢が身体に突き刺さり、一目見て手遅れだとわかった。狼は恐ることなくカトレアに近づくと、口に咥えた子狼を足元に置いた。眠る子狼を人舐めすると、その狼は子狼を抱きしめるように倒れ。その身体を受け止めようと触れた時感じたのが、暖かく柔らかな、ただただ子を案ずる優しい気持ち。

「エミヤシロウ……か……」
  
 目を閉じ矛盾する心を抱く人を思い浮かべるカトレアだったが、不意に目を開くと口元に手を置き咳き込み始めた。

「っゴホ……ケホっ……っ……」

 息を荒げながらも落ち着きを取り戻していくと、ベッドに倒れ込みながら天蓋を見上げる。

「……ふぅ」

 口元を抑えていた手を天蓋に向け伸ばすと、小さく呟いた。

「共通するものは……どちらも死んでしまったということだけ……」 
   
 


 



「ルイズか」
「……うん」

 ノックもされずドアが開くと同時に、士郎が声を掛ける。
 ドアが開ききる前に名前を呼ばれても、ルイズは特に驚くことなく部屋に入ってくる。

「……先客がいるようね」
「ん? ああ、シエスタか、疲れているようだから静かにな」
「そう」

 ベッドに眠るシエスタに気付いたルイズだが、士郎の言葉に頷くだけで何も言わず、士郎の言う通り静かにベッドの前を通ると、椅子に座る士郎の膝の上に腰掛けた。

「……ルイズ」
「何よ」
「なぜ膝の上に座る」
「ベッドはシエスタが寝てるじゃない」
「それはそうだが、椅子はもう一つあるだろ」

 士郎が部屋の隅にあるもう一つの椅子を指差すが、ルイズは顔も向けない。

「クッションがないから嫌」
「俺はクッション替わりか」
「そうよ」
「……ならしょうがないか」

 狭い一室に、シエスタの穏やかな寝息だけが暫らくの間響いていたが、不意にそこにルイズの声が混じった。

「……わたし……例えお父さまが反対しても戦争に行くわ」
「……」
「……シロウが反対しても……ね」
「……」

 ルイズの言葉に士郎は何も言わない。
 士郎の返事を待つことなく、ルイズは続ける。

「だって……士郎もわたしが反対しても行くでしょ……戦争に」
「……それは」
「わたしが戦争に参加してもしなくても……ね」

 士郎が何か言おうとしたが、ルイズは遮るように割り込んだ。士郎はルイズの言葉に反論することなくただ黙ったまま。ルイズはそれを確認すると、小さく笑った。

「ふふ……少しはシロウのことわかってるでしょわたし」
「……そうだな」
「……ごめんね……我侭で」

 顔を俯かせるルイズ。士郎の膝の上にある小さな身体が細かく震えている。

「でも……! 絶対シロウは行くから……わたしが反対しても行くから……ッ! だか――」
「ああ……わかってる」

 ルイズの言葉を、抱きしめることで止めた士郎は、震える身体も止めようと腕に更に力を込める。

「わかったよルイズ……だから……俺も……決めた」
「なに、を?」

 ルイズの耳元に口を近づけると、士郎は力を込めた声で囁いた。




「ルイズを信じることを」

  



 
 
 

 
後書き
士郎  「随分と大きな馬車だな」
ルイズ 「わたし乗らない」
士郎  「何故だ?」
ルイズ 「絶対に乗らないから」
士郎  「どうしたルイズ?」
ルイズ 「ちいねえさまは捨てられた生き物を片っ端から拾ってくるのよ」
士郎  「いいことじゃないか?」
ルイズ 「そう思うなら一人で入りなさい」
士郎  「? ああわかった。それじゃあ、お邪魔しま」

     ガチャ

   カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ

士郎  「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ」
ルイズ 「だから言ったじゃない、捨てられた生き物って」
士郎  「ひぎゃあああああああああああああ」
ルイズ 「捨てられた生き物……ゴキブリ……とか」





 黒き魔物に飲み込まれた士郎ッ! そこから抜け出すことは出来るか!?
 抜け出したからといって無事なのか!!? 
 俺だったら精神壊れる……。

 次回『黒き一万連星!』
 輝ける黒! 叩き潰せるか士郎?!

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