英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~
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外伝~北と紫電の邂逅と依頼~
19:00――――――
ヴァンとアニエスが中央駅通りの脇道にあるゲートの中の探索を始めた頃、サラはエレボニア王国の王都であるヘイムダルの地下道で手配魔獣を撃破し終えていた。
~エレボニア王国・王都ヘイムダル・地下道~
「ま、こんなもんね。さ~てと、ギルドに報告した後はどこで飲もうかしら――――――!」
手配魔獣を撃破し終えたサラは武装を収めた後帰路につこうとしたが、すぐに人の気配に気づくと真剣な表情を浮かべた。
「出てきなさい。気配を隠したつもりでしょうけど、”その程度”だとあたしクラスからすればバレバレよ。」
そして気配がした方向に視線を向けたサラが声をかけた瞬間、サラが視線を向けている場所の物陰からダガーを両手に持った娘が凄まじい早さで飛び出してサラとの距離を一気につめた。
「そこ――――――!」
「甘いわよ!」
上手く懐に潜り込んだ娘の攻撃に対してサラはあっさりと回避した為空振りに終わった。そこに素早く娘の背中に回り込んだサラが強化ブレードを振り下ろすと娘はすぐに反転して両手に持つダガーで受け止めた。
「やるじゃない。見た所年齢は新Ⅶ組の子達と同年代か、少し下みたいね。」
「上から目線――――――その余裕はすぐに崩す!」
娘は小柄な体を生かした動きでサラを相手に攻勢に出ていたが、多くの”達人”クラスを相手にした事があるサラは全て余裕で回避したり防いでいた。
「見切った!」
「しま――――――」
強烈な一撃を繰り出した娘の攻撃を回避したサラは娘の視界から消えた後一瞬で娘の左側面へと回り、サラの回避カウンターに気づいた娘は咄嗟に左手のダガーで防御しようとしたが、それよりも早くサラの強烈な蹴りが繰り出された。
「カハッ!?」
蹴りをまともに受けてしまった娘は吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。
「その歳でこれだけの動きができたのはたいしたものだけど……圧倒的に経験不足ね。恐らくだけど格上の相手と戦った経験が少ないか、もしくは皆無なんでしょう?」
「くっ……皆無じゃない!私はメンフィル軍の追撃を防いで、撤退に成功した事もある!」
サラの指摘に対して娘は唇を噛み締めて反論し
「ハ?メンフィル軍の追撃を防いだって………」
娘の反論を聞いたサラは呆けた声を出して困惑の表情で娘を見つめた。
「ウッソ~……あのラヴィちゃんが手も足も出ずに負けちゃうなんて……」
「しかも”紫電”殿の方はまだ本気を出していない様子でしたよ……」
「やれやれ……だから言っただろう。”紫電のバレスタイン”相手に一人で挑むなんて、”無謀”だと。」
するとその時物陰から次々と出て来て信じられない表情を浮かべている女性とたくましい青年に中年が溜息を吐いて指摘し
「……何者かしら?見た感じ、その娘の仲間のようだけど。」
3人の登場に新手と判断したサラは警戒の表情で武装を構えて問いかけた。
「ま、待って下さい!自分達は”紫電”殿に敵意はありません!自分達は”紫電”殿個人に依頼したい事があるのです!」
「”あたし個人に依頼”ですって?その割にはその娘は敵意満々であたしに襲い掛かったきたけど、それに関してはどういうつもりなのかしら?」
自分の問いかけに対して慌てた様子で答えた青年の答えが気になったサラは眉を顰めて新たな疑問を問いかけた。
「その事に関してはホント、ゴメンなさい!この娘――――――ラヴィちゃんは、『ノーザンブリアの三英雄』の孫として、ラヴィちゃんと同じ『ノーザンブリアの三英雄』が身内にいて猟兵時代から”紫電”の異名を轟かせていた貴女に挑んでみたかっただけなのよ!」
「……………………」
サラの問いかけに対して女性は手を合わせて謝罪し、娘は不貞腐れたように黙り込んでいた。
「『ノーザンブリアの三英雄の孫』ですって!?まさかとは思うけど、あんたたち――――――」
一方女性の説明を聞いてある事に気づいたサラは血相を変えた後驚きの表情で娘達を見つめたその時
「”紫電のバレスタイン”。エレボニアの内戦とヨルムンガンド戦役を生き抜いただけあって、以前とは比べ物にならないくらい飛躍的に実力が上がっていたようだな。」
別の物陰から片眼に切り傷がある大男が出てきた。
「あんたは――――――”極光のフェノメノン”ローガン・ムガート!って事はあんた達、やっぱり”北の猟兵”ね……!」
「ま、そういう事だ。――――――マーティン・S・ロビンソンだ。」
「イセリア・フロストよ。初めまして、”紫電”さん♪」
「自分はタリオン・ドレイクです。」
「……ラヴィアン・ウィンスレット。」
片眼に切り傷がある大男――――――ローガンを知っているサラは驚きの表情で声を上げた後娘達に視線を向け、視線を向けられた中年――――――マーティン、女性――――――イセリア、青年――――――タリオン、娘――――――ラヴィはそれぞれ名乗った。
「”ウィンスレット”………なるほどね。ということは貴女があのブラドさんの孫なのね。」
「……………………」
興味ありげな表情のサラに視線を向けられたラヴィは何も答えずサラから視線を逸らして黙り込んでいた。
「それよりもあんた達、よく今まで生き延びられたわね?”北の猟兵”はメンフィルとヴァイスラントによるノーザンブリア占領時に殲滅されたって聞いていたけど……」
「自分達はハリアスクを脱出した際に他国へ逃亡せず、ラヴィ教官の故郷である”ミシュスク村”に逃げ延びたお陰で助かったんです。そして逃げ延びた我々が今こうして無事でいられるのも、ノーザンブリアの占領後もノーザンブリアの人々が総督府に隠れて我々に様々な支援をしてくれたお陰です。」
「メンフィル軍は北の猟兵が他国へ脱出する事を防ぐ事に戦力を割いていた影響で、自治州内での追撃部隊の戦力は少なかったのよ。実際他国へ逃げようとした連中は予め国境で網を張っていたメンフィル軍に皆殺しにされたけど、ローガンを含めて自治州内の村や町に逃げ延びる事ができた仲間達もいるわ。ま、とは言っても自治州内での追撃部隊にやられた連中もいるし、あたし達も数が少なかったとはいえ精鋭揃いのメンフィル軍の追撃を防いで、逃げ延びる事ができたのも我ながら”奇蹟”だと思っているくらいよ。」
「不幸中の幸いだったのは俺達を追撃したメンフィルの部隊にメンフィルの専売特許と言ってもいい”飛行騎士”がいなかった事だろうな。もし追撃部隊に”飛行騎士”もいたら、よくて誰かが犠牲になって逃げ延びるか、最悪は全滅だったろうな。」
サラの疑問にタリオンは静かな表情で答え、イセリアは複雑そうな表情で答え、マーティンは疲れた表情で答えた。
「それで?”あたし個人に依頼したい事”ってどういう事なのかしら?――――――というかそもそも、”猟兵”であるあんた達の依頼を”遊撃士”であるあたしが請けると思っているのかしら?」
「先程も言ったように、俺達の依頼は”紫電のバレスタイン”。”お前個人への依頼であって、遊撃士協会への依頼”ではない。それに俺達はお前ならば俺達の依頼を請けれくれると信じている。――――――北の猟兵の元同胞であり、大佐の娘であるお前ならば、ノーザンブリアの独立の為にも協力してくれる事をな。」
「な―――――”ノーザンブリアの独立”って……あんた達、正気?ノーザンブリア占領時に戦力のほとんどを失ったのに、残りの戦力でノーザンブリアに駐屯しているメンフィルの総督府を追い出すなんて。それに仮に今いるメンフィルの総督府を追い出せたとしても、メンフィルの”本国”からより圧倒的な戦力が送り込まれて全滅するのがオチよ。」
自分の質問に対して答えたローガンの答えに驚きのあまり絶句したサラはすぐに気を取り直して真剣な表情で問題点を口にした。
「勘違いしないでください。自分達は武力行使でノーザンブリアを独立させる事は一切考えていません。」
「そもそも武力行使でノーザンブリアを独立させようとしちまえば、メンフィルどころか”ゼムリア連合”に調印した全ての国家勢力まで敵になるだろうからな。何せ”ゼムリア連合”に調印した国家勢力に科せられた義務の一つに”ゼムリア連合”に調印した国家勢力が”戦争”を仕掛けられた際に他の国家勢力が様々な支援を行う事で、その”戦争”には”内戦”――――――つまり、”メンフィル帝国の領土としてメンフィル帝国に併合されたノーザンブリアによる独立戦争”も間違いなくその対象になるのだからな。」
「しかもその”ゼムリア連合”の条約内容の一つに”武力行使による国境の変更を決して認めない事”があるから、仮にメンフィルに対してノーザンブリアの独立戦争を起こしてノーザンブリアの独立に成功したとしても、世界各国はノーザンブリアの独立を認めてくれない事で、独立後のノーザンブリアの取引に応じてくれないでしょうからね……」
サラの指摘に対してタリオンは静かな表情で、マーティンは真剣な表情で、イセリアは複雑そうな表情でそれぞれ答えた。
「それならどうやってノーザンブリアを独立させるつもりなのよ。」
「無論、お前もそうだが”ゼムリア連合”の発案国であるリベールが望む”話し合いによる平和的解決”だ。そしてその為には”紫電のバレスタイン”。お前にはかの”ヨルムンガンド戦役”を終結させた事で”現代のゼムリアの大英雄”として名高い”灰の剣聖”との面会の場を用意してもらいたい。エレボニア総督である奴との面会を用意する等普通に考えれば難しいが、士官学院生時代の奴の担任であったお前ならば奴との面会の場を用意する事も可能なのだろう?」
「リィンとの面会の場の用意を?何でノーザンブリアの独立の話にリィンが出てくるのよ?」
ローガンの口から出た予想外の答えに眉を顰めたサラは真剣な表情を浮かべて更なる問いかけをした。
「……”灰の剣聖”にノーザンブリア独立の為の”協力者”になってもらう為だ。ヨルムンガンド戦役を終結させた事で”現代のゼムリアの大英雄”として名高く、そしてそのヨルムンガンド戦役での功績によってメンフィルからも重用されるようになった奴がノーザンブリアの独立を支持すれば、メンフィルもノーザンブリアの独立を認める可能性も出てくる。」
「”リィンをノーザンブリア独立の為の協力者になってもらう為”って………あんた達、”エレボニアの内戦時の北の猟兵がリィンの家族や故郷に何をしたか”も知っていた上で本気でそんな事を考えているの?」
予想外の答えをローガンの口から語られるとサラは信じられない表情を浮かべた後厳しい表情を浮かべてローガン達に問いかけた。
「………勿論存じています。我々は”灰の剣聖”を調べる一環として実際に旅行者を偽って”灰の剣聖”の故郷――――――ユミルを訪れて、”内戦時の我々の同胞がユミルで何を行ったか”もユミルの人々から聞いて初めて知りました。」
「依頼を達成する為とはいえ里を襲撃した上、里の子供を人質にとった挙句領主に重傷を負わせたんだから、それを行った北の猟兵――――――ノーザンブリアに対してメンフィルじゃなくてもどの国も激怒して当然よね……」
「「……………」」
サラの問いかけに対してタリオンとイセリアはそれぞれ辛そうな表情で答え、マーティンは重々しい様子を纏い、ラヴィは辛そうな表情でそれぞれ黙り込んでいた。
「………一つ、いえ、二つ条件があるわ。あんた達だけでなく”北の猟兵”の生き残り全員がその二つの条件を絶対に守るのだったら、リィンとの面会の場を用意してあげてもいいわ。」
「その条件とは何だ?」
タリオン達の様子を見て少しの間黙って考え込んだサラは依頼を請けるに当たって必要な条件を出す事を告げ、ローガンは続きを促した。
「一つ目は面会の場にあたしが立ち会う事の承諾よ。リィンの元担任としてもそうだけど、遊撃士としてもメンフィルは当然としてメンフィルによる保護期間中のエレボニアにとっても非常に重要な人物であるリィンに対して怨恨の可能性が高いあんた達が馬鹿な事を仕出かさないように見張る為よ。」
「元よりお前の立ち合いは俺達からも頼むつもりだった為、一つ目の条件については特に問題はない。もう一つの条件は何だ?」
「………?もう一つの条件はリィンやその身内に仲間達、そしてユミルを含めたメンフィルへの”復讐”を諦める事よ。」
ローガンもサラの立ち合いを頼むつもりだった事に眉を顰めつつも、サラはもう一つの条件を口にした。
「フン、養父(大佐)の死によって俺達と袂を分けたとはいえ、教え子どころか教え子の周りの者達や故郷や祖国まで庇うとはそこまでする程故郷よりも教え子達の方が大事なのか?」
「あたしの過去が何であろうと、今のあたしは遊撃士であり、リィンの――――――いえ、”初代Ⅶ組の担任”よ。あんた達にも”北の猟兵としての誇りや義務”があるように、あたしにも”遊撃士や初代Ⅶ組の担任としての誇りや義務”があるだけの話よ。」
「北の猟兵の誇りと義務…………」
鼻を鳴らして指摘したローガンの指摘に答えたサラの答えを聞いたラヴィは静かな口調で呟き
「…………本当に俺達が”灰の剣聖”達やメンフィルへの復讐を諦めれば、”灰の剣聖”との面会の場を用意してくれるのだな?」
ローガンは静かな表情でサラに確認した。
「ええ。それと、面会の場であんた達へ危害を加えない事もリィン達に約束させるわ。ただし、あんた達も知っているようにリィンは立場が立場だから、護衛が何人か同行してくる事は承諾してもらう必要があるわよ。」
「そのくらいは想定済みだ。―――――お前が出した二つの条件、了解した。この件が終わった後同胞達にも”灰の剣聖”やメンフィルへの復讐を諦める事を俺自らが強く言い含めておく。」
「(不気味なくらいあっさりと承諾したわね……コイツの性格を考えたら、絶対に承諾しないと思っていたんだけど……)その口ぶりだと、もしかして生き残りの北の猟兵達を纏めているのはあんたなのかしら?」
心の中でローガンを怪しみながらもローガンの答えを聞いてある事に気づいたサラはローガンに確認した。
「そうだ。」
「一応聞いておくけど、北の猟兵達の首領にして”ノーザンブリアの三英雄”で唯一まだ生きていた”英雄”――――――マスターグラークはどうなったのかしら?ノーザンブリア占領時にもあの人の死はメンフィル、ヴァイスラント共に確認できていなく、その後も捜索はしているけど未だに行方知れずという話は聞いているわよ。」
「……奴は………あの”老害”は死んだ。ノーザンブリアが占領されたあの日にな。」
サラの確認に対してローガンは静かな表情で答えた――――――
後書き
という訳で予想していた人達もいるかと思いますが、閃の軌跡NWの主人公ラヴィや仲間達がついに登場しました!なお、ラヴィ達とリィンの邂逅の話は序章終了の直後になりますので、次回の話はヴァン達側の話に戻ります。
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