イベリス
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第百三十一話 吹っ切れてその四
「そっちも」
「はい、とても」
咲も微笑んで答えた。
「いいです」
「前も言ったけれどな」
「紅茶もいいですね」
「だからコーヒーだけじゃなくてな」
「その日の気分次第で、ですね」
「紅茶もな」
こちらもというのだ。
「飲んだらいいさ」
「そうします、それと」
「それと?」
「レモンティーも」
こちらの紅茶もというのだ。
「その日の気分で」
「飲むんだな」
「そうしてもいいですね」
「自由だよ」
それはというのだ。
「どれを飲んでもな」
「いいですか」
「注文して飲むのは嬢ちゃんだからな」
他ならぬ咲自身だからだというのだ。
「それでな」
「飲んでいいですか」
「その日飲みたいものをな」
「紅茶でもコーヒーでも」
「ああ、ただな」
「ただ?」
「うちにあるものだけだよ」
飲んでいいものはというのだ。
「うちで飲んでいいものはな」
「メニューにあるだけですね」
「一回いたんだよ、外国の人でな」
マスターは苦笑いを浮かべて話した。
「うちに来て抹茶くれってな」
「お抹茶ですか」
「ああ、うちは洋風の喫茶店だろ」
「コーヒーとか紅茶の」
「そうしたもののお店でな」
「お抹茶は日本の甘味屋さんですね」
「だから抹茶はないんだよ」
この飲みものはというのだ。
「それを外国の。タンザニアとか言ってたな」
「アフリカのど真ん中の国ですよね」
「サバンナとかあるな」
「そうしたお国ですね」
「だからそうしたこともな」
「ご存知なくて」
「幸いその人日本語それなりに出来てな」
それでというのだ。
「こっちもちゃんと説明したらな」
「納得してくれたんですね」
「抹茶はないってな」
「それはよかったですね」
「けれどな」
それでもとだ、マスターは咲に苦笑いのまま話した。その苦笑いは消して悪い感じのするものではなかった。
「それでもな」
「驚かれましたか」
「そんなこと言われたのははじめてだからな」
それでというのだ。
「本当にな」
「驚かれましたか」
「ああ、紅茶はあってもな」
「お抹茶はですね」
「ないからな」
「同じお茶でも」
「ああ、それでうちにあるものならな」
それならというのだ。
「その日の気分でな」
「飲んでいいですね」
「ああ」
今度は暖かい笑顔で話した。
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