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人間の本性

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第一章

               人間の本性
 丹波哲郎後に俳優として知られることになる彼はこの時消臭され軍隊に入っていた、そうしてだった。
 彼は部下に昼食の時ある大きな男を指差しつつ言われた。
「あの人が川上哲治さんです」
「あの職業野球の人か」
「そうです、巨人軍の」
「投手だったよな」
「今は打者みたいですよ」
「その川上さんもこの部隊にいるんだな」
「はい、ですが」
 ここでだ、部下は。
 実に嫌そうな顔をしてだ、丹波に小声で言った。
「気を付けて下さい」
「川上さんにかい」
「あの人態度がころころ変わるんですよ」
「どういう風にだい?」
「階級や立場がちょっと上の相手にはへらへらするんですよ」 
 川上を見つつ言うのだった。
「そうするのに下だと」
「ああ、わかった」
 丹波もここまで聞いて頷いた。
「あれだろ、やたらきついんだろ」
「ええ、もうあからさまに」
 その様にというのだ。
「きつくあたってくるんですよ」
「いるよな、そうした人」
「頭がいいんですよ」
 こう言ってもいい顔では言っていなかった。
「兎に角」
「そうなんだな」
「はい、ですから」
「人によって態度を変えてか」
「世の中を渡り歩いてるんですよ」
「そんな人だったんだな」
「だから嫌われてます」 
 そうなっていることも話すのだった。
「回覧が出回っているって言われる位に」
「どんな回覧だい?」
「後ろから撃てって」
「戦闘になったらか」
「もう真っ先に」
「そこまで嫌われてるんだな」
「兎に角頭がいい人なんで」
 ここでも嫌そうに話した。
「そうしたこと普通にするんです」
「そうか、しかし俺は元々こうした人間だからな」 
 丹波は胸を張って述べた。
「まあ目を付けて殴られてもな」
「それはそれですか」
「どのみちここにいる間だけだろ」
「軍隊にですか」
「まあ戦争になって死んだらそれまでだ」
 今度は笑って言った。
「靖国に入ってな」
「英霊になってですか」
「それで終わりだ、まああの人とは他に会うこともないだろ」
 例え何があってもというのだ。
「だからいいさ、しかし川上さんはそんな人か」
「正直部隊で好きな人はいないですね」
「そのことは覚えておくな」 
 丹波は笑って言った、彼はこの時は川上についてはこう聞いただけだった。だが彼は川上から見て立場が下であり。 
 言われた通りにきつくあたられた、何かあると言われ鉄拳制裁もよく振るわれた。それで頬も晴らしたが。
「いやあ、まただよ」
「川上さんに殴られたんですか」
「職業野球の人の拳は違うな」 
 最初に川上のことを教えてくれた部下に笑って話した。 
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