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語り合って

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第一章

                語り合って
 ミクロネシアに伝わる話である。
 最初世界は海だけだった、その中に一匹の蜘蛛がいた。
 蜘蛛は年老いていた、その彼が海の中にシャコガイを見付けて興味を持って中に入った。するとだった。
「おや、わし以外にも世界に誰かいたか」
「それは僕の言葉だよ」
 シャコガイの中にいた蝸牛はこう蜘蛛に返した。
「まさかね」
「この世界にか」
「僕以外にも誰かいたなんてね」
「お互い思ったか」
「そうなるね」
「そうだな、しかしだ」
 蜘蛛はここで蝸牛にこう言った。
「わし等以外にもひょっとしたらな」
「誰かいるかも知れないんだね」
「そう思ったが」
 今しがたとだ、蜘蛛は答えた。
「どうだろうか」
「そうだね、じゃあ探してみようか」
「この貝の中をだな」
「そうしたらひょっとしたら」
 蝸牛は蜘蛛に話した。
「僕達以外にもね」
「誰かいるかも知れないな」
「うん、二匹だけだとね」
「どうにも寂しいな」
「そうだしね」
「なら一緒に探すか」
「この中を歩いてね」
 そうしてと言ってだった。
 蝸牛は動きはじめた、蜘蛛もついていった。そうしてシャコガイの中を歩いて探すと蚯蚓が一匹いた。 
 蚯蚓は二匹を見るとこう言った。
「あら、私以外にも誰かいた」
「おや、わし等と同じことを言うな」
「そうだね」
 蜘蛛と蝸牛は蚯蚓の言葉を聞いて言った。
「これまた」
「思うことは同じか」
「そうだね」
「面白いことだな」
「そうね、けれど」
 ここで蚯蚓は二匹に言った。
「こんな調子で他の生きものもね」
「いるかも知れないか」
「そうなんだ」
「ええ、それにね」
 蚯蚓はさらに言った。
「今私達の周りにあるのは海とシャコガイだけね」
「他には何もないな」
「本当にね」
「随分と味気なくないかしら」
 こう言うのだった。
「それだと」
「ふむ、そうだな」
「言われてみればね」 
 蜘蛛も蝸牛も蚯蚓の言葉に頷いた。
「随分とね」
「そうした状況だな」
「私達でもっと賑やかにしましょう」
 蚯蚓は二匹にこうも言った。
「ここはね」
「そうだな、ではだ」
「具体的にどうするかね」
「今から話すか」
「そうしよう」
 蜘蛛と蝸牛もそれならとなった、そしてだった。
 三匹で話した、その中で蚯蚓は言った。
「多分シャコガイの殻を持ち上げたら」
「そうしたらか」
「その分か」
「上の殻と下の殻が何かになって」
 そうしてというのだ。
「私達以外の命がね」
「そこに満ちるか」
「そうなるんだ」
「そうなると思うから」
 だからだというのだ。
「ここはね」
「殻を持ち上げるか」
「僕達が今いるシャコガイのそれを」
「そうしましょう」
「よし、ではだ」
「皆に力を合わせて殻を上げよう」
 こうして三匹で殻を持ち上げた、するとだった。 
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