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お祖母ちゃんの時計

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第二章

「赤と青でな」
「本当に角みたいだな」
「エムブレムか?変だな」
「ちょっとな」 
「何かあるのか?」
「だとしたら何だろうな、この十年ずっと気になってたけれどな」
「お祖母さんに聞かなかったか」
 森は後藤に問うた。
「そうしなかったのか」
「いや、聞こうと思ってもいつも忘れてな」
「それで聞かなかったか」
「ああ、けれど今度聞いてみるな」
「お祖母さんご健在か」
「九十になるけれどな」
 それでもというのだ。
「元気だよ、じゃあ聞くな」
「そうしろよ」
 森とこう話してだった。
 実家に帰った時に祖母の佳代短い白髪で丸眼鏡をかけた小柄な彼女に時計を見せて尋ねた、そのマークのことを。
「それバファローズのマークよ」
「オリックスか?」
「近鉄よ、お祖母ちゃん近鉄ファンでね」
 それでというのだ。
「初優勝の時に記念で作ってもらったの」
「自分でか」
「そうよ、買った時計にマークを入れてもらったの」
「そうだったんだな」
「ずっと弱くて万年最下位で」
 祖母は孫に笑って話した。
「初優勝が嬉しくてね」
「買った時計に入れたんだ」
「そうなのよ、けれど近鉄じゃなくなって」
 祖母はこのことは悲しい顔で話した。
「野球は阪神になったしあんたが高校に入ったし」
「それでか」
「あんたに譲ろうと思ってね」
「くれたんだな」
「そうなのよ、大事に使ってくれてるわね」
「近鉄のことは知らなかったけれどな」
 それでもというのだ。
「ものはな。祖母ちゃんのものだったし」
「大事にしてくれてるのね」
「そうだよ、じゃあこれからもな」
「その時計大事にしてくれるのね」
「これからもな」
 笑顔で答えた、そしてだった。 
 後藤は森に会社で祖母と話したことを彼に話すとこう言われた。
「近鉄か、なくなったけれどな」
「祖母ちゃんファンだったんだよ」
「思い出の品なんだな」
「それを俺に譲ってくれたんだな」
「孫でか」
「そのこともあってな。じゃあ尚更な」  
 祖母の思い出の品だからだというのだ、後藤は森にその時計を見つつ温かい顔と声でこの言葉を出した。
「大事にしていくよ」
「そうするんだな」
「ずっとな」
 こう言って実際に時計を大事にしていった、それは祖母が亡くなって彼が家庭を持ってからもだった。彼はずっとその時計を大事にしていったのだった。


お祖母ちゃんの時計   完


                    2023・12・22 
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