魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)
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【プロローグ】新暦65年から94年までの出来事。
【第7章】八神家が再び転居した年のあれこれ。
【第5節】キャラ設定7: メルドゥナ・シェンドリールとその家族。
前書き
さて、執務官とは、管理局員の中でも特別に優秀な人材が「超難関」と言われる試験に合格して初めて就くことのできる職種であり、当然ながら、彼等は一人の例外も無く、実戦においても極めて優秀な魔導師なのですが、それでもやはり、「執務官という枠組み」の中では相対的に「二流」という扱いを受けてしまう人物もいます。
その実力は、もちろん、一般の空士や陸士などよりは格段に高いのですが、他の執務官に比べるとやや見劣りがする……。その経歴も、もちろん、並みの捜査官などよりは遥かに華々しいのですが、他の執務官に比べると今ひとつパッとしない……。
そんな「二流の執務官」を物語に登場させたくて、私は今回、こんなキャラクターを設定してみました。
と言っても、このキャラクターは、この作品の「本筋」とは全く関係が無いサブキャラなので、ほとんど「プロローグとインタルードとエピローグ」にしか登場しないのですが。(苦笑)
さて、「魔力の強さ」はもちろんのこと、「リンカーコアの有無」それ自体も、実は、必ずしも遺伝するものではありません。つまり、両親がともに「魔力の持ち主」だからと言って、その子供も「当然に」そうなるとは限りません。
正確な統計はありませんが、「魔導師の子供が、また魔導師になれる確率」は、せいぜい五割程度でしょうか。
両親がともに魔導師であっても、この確率はさほど変わらないようです。
(古代ベルカの王族のように『特別な能力や資質が、血筋によって現実に「かなりの高い確率で」継承されてゆく一族』というのは、本当に特殊な存在なのです。)
それでもやはり、『同じ一族の中で、何世代にも亘って魔導師が現れ続ける』というのも、しばしば起きる現象です。
もちろん、それは『結果として、そうなる』場合もあるというだけの話で、ただ単に確率の問題であり、当然ながら「多産系の一族」ほど、そうなる確率は高くなります。
(いわゆる『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』というヤツです。)
さて、「背景設定2」の末尾でも述べたとおり、IRで終わる苗字は(古代ベルカでは)もっぱら職人階級の苗字であり、決して貴族階級の苗字ではあり得ません。
だから、「父系の祖先がベルカ系」であるシェンドリール家も、決して「特別な血筋の一族」という訳では無いのですが、それでも、旧暦の末からすでに四世代に亘って「それなり」に優秀な魔導師たちを世に送り出して来ました。
メルドゥナの父方の曽祖父であるグロムゼル・シェンドリール(前35年~54年)も、突然変異にしてはなかなか優秀な空士だったそうですが、その末子ガドレウス(新暦2年~86年)はさらに優秀な魔導師で、後に「それなり」の執務官となりました。
【ちなみに、彼の二人の兄は、残念ながら魔力を全く持っておらず、彼の姉もまた、『多少は念話が使える』という程度の、ごく微弱な魔力しか持っていませんでした。】
ガドレウスは、16歳で空士となって首都圏に配属された後、23歳で執務官になった次の年にはベルカ自治領出身の女性陸士ラゼルミア・ブラスケイド(20歳)と結婚し、その後も二十年あまりはそのまま首都圏で暮らし続けていたのですが……。
彼は、愛妻との間に3女と2男をもうけた後、47年の春には長子(第二子)ハウロン(15歳)の中等科卒業を機に、兄たちに代わって「年老いて介護の必要な身となってしまった両親」の世話をするために、妻子とともに(一家七人で)生まれ故郷のソルダミス地方に戻りました。
ガドレウスは両親の家の「すぐ近く」に自分の家を新築しましたが、彼自身はまだ「外回り」の執務官であり、いつも仕事で他の世界を飛び回っていたため、実際に彼の両親の世話をしたのは、主に妻のラゼルミアと長女のトゥネーリア(19歳)でした。
(11歳の次女と8歳の三女も、それなりの「お手伝い」はしてくれたようです。)
【なお、ガドレウスの子供たちの中で魔力を持っていたのは、長子ハウロンの他には、三女のアルジェンナだけでしたが、結局のところ、彼女は管理局には入らず、祖父母の死後、大恋愛の末に20歳で〈ヴァイゼン〉の首都ジェランドールへと嫁いで行きました。】
一方、ハウロンは、空戦の資質にこそ恵まれてはいませんでしたが、転居先のソルダミス地方ですぐに最寄りの陸士訓練校に入った後、翌48年には16歳で三等陸士となり、そのまま現地の陸士隊に配属されました。
彼は、単に陸士として優秀なだけではなく、人望などにも恵まれていたため、それからは順調に昇進を続け、七年後には早くも陸曹長となって分隊を率いるようになります。
そうして、23歳の秋には、火災現場からの救助がきっかけで「しっかり者」の令嬢マデッラ・レグゼール(18歳)から求婚され、喜んでこれを受け容れました。
しかしながら、レグゼール家はミッド貴族の血を引く「由緒の正しい」家柄です。分家筋とは言え、家格には相当な差があり、若い二人もそれなりの困難を覚悟していたのですが……その後、思いがけず、レグゼール家の両親からも無事に理解と祝福を得ることができ、ハウロンとマデッラは翌56年の春には幸福な結婚をしました。
【ちょうど「地球では、なのはが生まれた頃」の出来事です。】
なお、ガドレウスは、54年の夏と冬に八十代の両親が相次いで亡くなると、兄たちや姉の了承の許に、七年余に亘る介護の代償として、両親の住んでいた家を単独で相続していました。
そして、翌55年、長女が良縁を得て近隣の名家に嫁ぐと、残る二人の娘を自宅の側に引き取り、両親の家(築20年)を全面的にリフォームして、56年からは新婚のハウロンとマデッラをそこに住まわせました。
もちろん、いくら改修などしてみたところで、レグゼール家の「お屋敷」には(そもそも、敷地の広さからして)遠く及ばなかったのですが、それでも、その家屋は一般の民家に比べれば、なかなかに立派な家屋です。
マデッラは『私の後に、まだ妹たちも控えているのですから』と、両親からの援助をあえて辞退し、その「いささか古びた家」で質素ながらも幸福な新婚生活を送ることとなりました。
また、ハウロンは、57年の秋には「一般キャリア試験」に合格して、58年からは尉官となり、さらに、65年には「上級キャリア試験」にも合格して佐官の資格を得ました。
そして、67年の春には、正式に三佐の辞令を受けて、エルセア地方へと異動し、35歳の若さで「陸士387部隊」の部隊長となります。
そして、ガドレウスは、次女と三女も58年と59年にそれぞれ嫁いで行き、さらに、67年に長子ハウロンとその妻子がエルセア地方へ転居すると、ハウロンが住んでいた「元両親の家」をまたリフォームして、改めて次女ソルヴィエに生前分与し、しばらくは、その家のすぐ近くにある自宅で、そのまま愛妻ラゼルミアや末子ヴァルジェロスと三人で暮らしていたのですが……。
71年の春にそのドラ息子が28歳でようやく結婚すると、やがて「嫁と姑の不仲」が明らかになったことも手伝って、翌72年の春にガドレウスが70歳で定年を迎えるのに合わせて、ラゼルミアも66歳で早期退職します。
そして、ガドレウスとラゼルミアは住み慣れたその自宅(築25年)を末子に生前分与すると、夫婦二人で穏やかな余生を過ごすため、クラナガンの東部郊外に「二人だけで住むには少々広すぎる物件(築15年)」を購入し、そこへ転居しました。
二人にとっては、実に25年ぶりの、首都圏での生活となります。
また、ハウロンは妻マデッラとの間に4女と1男をもうけましたが、その中で、長女と次女と末子は、それぞれに優秀な魔導師になりました。
(マデッラは最初から計画的に、4年に一人ずつ子供を産んだのですが、三女と四女は残念ながら魔法の資質には恵まれていませんでした。)
まず、ハウロンの長女デュマウザは、新暦58年の生まれです。
デュマウザが産まれた頃には、その祖父母であるガドレウスとラゼルミアももう五十代になっており、危険な「外回り」の仕事からは身を退いて、毎日定時に帰宅することのできる「内勤」の仕事に就いていました。
また、彼女が物心ついた頃には、『父ハウロンは仕事で多忙を極め、母マデッラも第二子の育児で手一杯』という状況だったため、彼女はごく自然に、すぐ近くの家に住む祖父母の手で育てられる形となりました。
また、「6歳児の集団検診」で、デュマウザが「それなりの魔力の持ち主」だと判明すると、祖母ラゼルミア(58歳)は喜んで、お得意の「近代ベルカ式の近接攻撃魔法」を彼女に教えました。
その後、デュマウザは9歳の春に、祖父母や叔父と別れ、両親や妹たちとともにエルセア地方に引っ越しましたが、翌68年の夏には、古代ベルカでは「人生における重要な儀式の一つ」と考えられていた「十歳の祝い」として、祖母から格闘用のデバイス〈クラッシュフィスト〉をプレゼントされました。
(クイントの〈リボルバーナックル〉ほどゴツい代物ではありませんが、やや似た感じの格闘用デバイスです。)
そして、デュマウザは初等科学校を卒業した後、すぐに現地で陸士訓練校に入りましたが、そのデバイスのせいで(?)ギンガと同室にされ、二人はすぐに親友となって、卒業後も最初の一年間は、ハウロンの率いる陸士387部隊で、後の(すぐお隣の386部隊における)スバルとティアナのような「名コンビ」を組んでいました。
(例の「空港火災事件」の直後の一年間、つまり、「新暦71年度」のことです。)
また、新暦72年の春に、ゲンヤ・ナカジマが首都圏の「陸士108部隊」の部隊長に抜擢されると、ギンガもその部隊へ異動となってしまいましたが、その後も、二人の友情が薄れることはありませんでした。
一方、ハウロンは、最初に「部隊長」となってから10年後、新暦77年には再び辞令を受けて、今度は首都近郊の「陸士104部隊」の部隊長となりました。
(新暦71年には、「八神はやて一尉」が研修先として一時的に在籍していた部隊です。)
偶然にも、その職場となる隊舎は、ガドレウスとラゼルミアの住居からも割と近くだったため、ガドレウスは最初から生前分与のつもりで、自宅に隣接した土地を購入し、そこに自分の家よりも一回り大きな家を新築して、その土地家屋を長子ハウロンに与えました。
ガドレウスの自宅もそれなりの広さでしたが、今後、可愛い孫娘たちが婿を取って同居する可能性なども考慮し、最初から複数の家屋を準備しておいてくれたのです。
【話が前後しますが、後述のとおり、この時点で、ハウロンの次女メルドゥナ(15歳)が、すでにガドレウス(75歳)やラゼルミア(71歳)と同居しています。】
また、デュマウザは74年の春には(ギンガよりも「一年遅れ」で)陸曹待遇の捜査官となっており、77年の春に、父ハウロンとともに首都近郊の部隊に異動すると、また改めてギンガと親交を深め合ったりもしました。
同77年の10月には、『彼女の直属の部下バルクサス・ドルミラン二等陸士(16歳)が、すでに絶縁したはずの「毒親」に刃物で刺されて死にかける』などという事件もありましたが、その毒親たちが車で逃走中に事故死した後、彼女はバルクサスが17歳になるのを待って、翌78年2月に20歳で早々と結婚し、「天涯孤独」の身となった彼をシェンドリール家に迎え入れて、後に2男と1女を産みました。
【その三人の中で両親の魔力を受け継いだのは、80年生まれの長子テリオスだけで、84年生まれの次子ガルファスと88年生まれの一女ゼスパレアは、残念ながら、魔法の資質には恵まれていませんでした。
なお、このテリオスは(父バルクサスと同様に)十代のうちに早々と少し年上の女性と結婚し、その後は(祖父ハウロンにも似た)堂々たる人生を歩むことになります。】
次に、ハウロンの次女メルドゥナは、新暦62年の生まれです。
(つまり、ヴィクトーリアと同い年です。)
彼女は5歳の時にエルセアに越して来て、そのまま現地で初等科学校を卒業した後、74年の春には(すでに空戦スキルが発現していたので)一昨年に首都圏へ転居していた祖父母を頼って、首都圏の空士訓練校に入学し、翌年には13歳で三等空士となって、そのまま首都圏の東側を担当する部隊に配属されました。
新暦75年の春のことです。
しかし、JS事件の際には、まだ一年目の新人だったので現場に出ることも許されず、悠然と空を行く〈ゆりかご〉を、無力感に打ちひしがれながら、地上からただじっと見上げていました。
その巨大な戦船の中へ突入していった魔導師がいると聞いて、思わず尊敬の念を抱きますが、彼女が「その魔導師の名前」を知るのは、もう何日か後のことになります。
その後、メルドゥナは「祖父母の家」に同居しながら、祖父ガドレウスのような執務官を目指して懸命に努力を続けました。
77年には、両親たちも新築の「隣の家」に引っ越して来て、また賑やかな生活が始まります。
78年の春には、姉デュマウザがいきなり結婚して驚きましたが、その年の暮れには思いがけず、祖母ラゼルミア(72歳)がぽっくりと亡くなってしまい、家族とともに悲しみにくれました。
それでも、メルドゥナは執務官になるための努力を黙々と続けていたのですが、79年の秋には、ふとしたことから「空士として、どうしようもない挫折感」に襲われ、17歳で早々と、一旦はその夢を諦めてしまいました。
以後、二年半に亘って、彼女の人生は迷走を続けました。
翌80年の春には、とある男性と「本気の交際」を始めましたが、結局、その相手とも半年ほどで別れてしまい、81年の3月には(その男性には何も告げぬまま)長女ヴァニエスラ(通称、ヴァニィ)を出産。19歳で、いわゆる「未婚の母」になりました。
しかし、翌82年の3月には、ふとしたことから初心に帰り、『自分もこの子が誇りに思えるような母親になろう。自分にとっての祖父のような「目標」になろう』と奮起して、長かった産休から復職し、娘の育児は「隣の家」に住む母親に手伝ってもらいながら、再び執務官を目指して心身を鍛え直しました。
そして、メルドゥナは、まず83年の秋に「第一種・甲類」の補佐官試験に合格し、ギンガの紹介によって、84年の春からはティアナの許で二年間、現場担当補佐官を務めることになります。
(その際に、ガドレウスは可愛い孫娘の魔法資質をよくよく見極めた上で、彼女の魔法に最適化した特注のデバイス〈ヘヴィロッド〉をメルドゥナに贈与しました。)
【一方、ギンガは同84年の春から、チンクとともに本局所属の広域捜査官になっていました。ギンガとチンクは、その後もメルドゥナとは(主に、仕事の上で)長い付き合いを続けてゆくことになります。】
さて、メルドゥナの背丈は「ミッドにおける成人男子の平均身長」を少し超えるぐらいで、大柄ではあっても「特別に大女」というほどではありません。
(少なくとも、父親のハウロンや後述のロムグリスよりは、少しだけ小柄です。具体的に言うと、177センチ・78キロぐらいでしょうか。)
ただ全体的に骨が太く、筋肉質で、肩幅も広く、胸板も分厚く、全体的に割とゴツい体型で、同じ「ティアナの補佐官」でも、スリムなウェンディの隣に並ぶと、その印象の違いには、あからさまなものがあります。
【なお、彼女の容貌に関しても、個人的には、『笑顔は魅力的だが、「客観的な意味で美人か?」と訊かれると、少し返答に困る』といったところを想定しています。主な問題点は、「太すぎる眉と分厚い唇と頑丈な下顎」でしょうか。】
また、メルドゥナは新暦85年の5月には、〈ゲドルザン事件〉でヴィクトーリア執務官たちとも面識を得ました。
そして、同年の9月には、カルナージでの合同訓練で「憧れのなのはさん」の他、フェイトやアインハルトやルーテシアたちとも面識を得た後、彼女たちからの応援を得て、翌10月には二度目の挑戦で執務官試験に合格します。
各人の成績にあえて順位をつけるならば、彼女はだいぶ下の方でしたが、それでも無事に研修を終えて、翌86年の春には24歳で新人の執務官として独立しました。
【ちなみに、個々の魔導師が持つスキルの多くは、その人物が十代のうちに発現するのが普通であり、大半の場合、二十代前半のうちにはすべてのスキルが出揃います。裏を返せば、25歳を過ぎてから新たなスキルが身につくことは、ほとんどあり得ません。
そのため、執務官試験のような「高度なスキルが要求される資格試験」の受験者に対しては、一般に『25歳を過ぎてもダメなら、もう諦めろ』と言われています。メルドゥナは、執務官としてはかなりの「遅咲き」だったと言って良いでしょう。】
最初の年の仕事は『まあ、何とか、こなせている』というぐらいの状況だったのですが……その年の暮れには、祖父ガドレウス(84歳)と娘ヴァニィ(5歳)が「お出かけ先」で爆発事故に巻き込まれ、老齢のガドレウスは(とっさに魔法も間に合わなかったのか)自分の肉体で幼い曽孫を包み込むようにして庇い、その場で裂傷多数・出血多量によって死亡してしまいます。
おかげで、ヴァニィは肉体的には全くの無傷で済みましたが、目の前で「大好きな曽祖父」が血まみれになって死んでしまったため、心理的には、それがかなり強烈な外傷になってしまいました。
そのため、ヴァニィは年が明けてからも一年ほどの間は、『時間と場所を問わず、「何か物音がした拍子に」いきなり狂ったように泣き叫び始める』など、「相当に手間のかかる、片時も目の離せない小児」になってしまいました。
その頃には、マデッラ(50歳)も更年期障害のせいで『日常的な家事労働すらままならない』という状況に陥っていたため、孫の世話などできるはずもなく、メルドゥナ(25歳)は自分で自分の娘の世話をするため、87年の初頭からしばらくは休職せざるを得ませんでした。
なお、ガドレウスは愛妻ラゼルミアに先立たれて、彼女の個人財産を五人の子供たちに分割相続させた後、賢明にも翌79年のうちに(出来の悪い末子ヴァルジェロスがゴネて来ても大丈夫なように)自分の個人財産の相続に関する「詳細な遺言状」を書き残していました。
そのおかげで、メルドゥナは87年以降も、父ハウロンが無事に相続した「祖父母の家」にそのまま住み続けることができた訳ですが……。
その頃、首都圏では『地方から出稼ぎに来た「住み込みの使用人」が、当然の仕事をサボったり、その家のモノを盗んだりする』といった類の小さな事件が何度も繰り返し起きており、シェンドリール家としても、『ヴァニィの世話のために、赤の他人を家の中に住み込ませる』ことには、心理的に相当な抵抗感がありました。
ハウロンは慎重に「面接と不採用通知」を何度も繰り返した後、87年も5月になってから、ようやくロムグリス・ラカンダル(24歳。魔力の無い普通の人間)を「住み込みの使用人」として雇い入れます。
ゴツい体格と厳つい容貌とスキンヘッドのせいでしょうか。この若者にはいささか悪評がついて回っていたのですが、実際には「巷の評判」とは違って、ハウロンが見込んだとおりの、とても勤勉で誠実で温厚で多芸な人物だったため、「心に外傷を抱えた6歳児のお世話」と「家事労働全般」とを安心して任せることができました。
そのため、8月になると、メルドゥナもようやく彼を信頼して復職したのですが、執務官としてはまだ「実質」九か月ほどの実績しか無いので、ただ黙って待っているだけでは、なかなか仕事が回って来ません。
そこで、次の朝、〈本局〉の「運用部・差配課」へ直接に顔を出したところ、たまたまそこへ飛び込んで来たのが、ギンガとチンクからの〈管14シガルディス〉への「執務官派遣の緊急要請」でした。
その一件をその場で「即座に」引き受けたことによって、彼女はようやく現場に復帰することができた訳ですが……この〈ノグメリス事件〉に関しては、また「プロローグ 第8章」と「インタルード 第5章」で触れます。
そして、翌88年の2月には、メルドゥナは娘ヴァニィ(7歳)の「極めて強い要望」もあって、一歳年下のロムグリスと結婚し、すでに「法定絶縁制度」によって実母や弟妹(および継父)と縁を切っていたロムグリスをシェンドリール家に迎え入れ、後に1男と2女を産み足しました。
【メルドゥナの四人の実子の中では、長女(第一子)のヴァニィと次女(第三子)のジェルマは、魔力を持っていませんでしたが、長子(第二子)のセグディオと末女(第四子)のディムリエは、後に「それなり」の魔導師になりました。
また、第一子と第二子の間が8年も空いてしまいましたが、後に「一人目の養女」となったルビスタは、年齢的にちょうどその中間に入る形となります。】
また、ハウロンの三女カゼーリアは、新暦66年の生まれです。
彼女は、母マデッラが更年期障害に陥ってからは、しばらくの間、シェンドリール家の家事労働全般を一手に引き受けていましたが、87年にロムグリスが家に来てからは、そうした家庭内労働からも解放されて、ようやく家の外へも自由に出歩ける身の上となりました。
そこで、素早く(要領よく?)相手を見つけたのでしょう。
カゼーリアは、下の姉メルドゥナが結婚した次の年(89年)の4月に、23歳で一般人男性のブルング・オクファネス(26歳)と結婚し、タナグミィ地方(広義の首都圏地方)の北端部にあって「北の大運河」に面した「中核都市ノムルゼア」で、ごく普通の「平凡で幸福な家庭」を築いて、後に2男と1女を産みました。
続けて、四女フラウミィ(通称、フラウ)は新暦70年の生まれです。
彼女は中等科を卒業した後、85年の春から「魔力の無い法務官」として管理局のミッド地上本部に務めていましたが、89年の秋には「第二種」の試験に合格して、90年の春からは次姉メルドゥナの「事務担当補佐官」となりました。
そして、さらに93年の9月には、23歳で地上本部に勤務する経理担当の男性局員スレンザン・モルドローラ(30歳)と結婚し、後にやはり2男と1女を産みました。
【後に、カゼーリアとフラウミィの子供たちは六人とも、その父母と同様に、リンカーコアを持っていないことが確認されました。「隔世遺伝」の確率は、それほど高いものではないのです。】
最後に、末子ルディエルモ(通称、ルディ)は、新暦74年の生まれです。
彼は、3歳の時には家族とともに首都圏に引っ越して来ているので、生まれ故郷であるエルセア地方のことはもう何も覚えていません。翌年の「長姉の結婚」や「祖母の急死」についても、記憶はもうかなり朧げなものになっています。
それはともかくとして、ルディは87年の春に訓練校を卒業し、長姉デュマウザと同様に13歳で陸士になりました。祖父ガドレウスが亡くなってから四か月、次姉メルドゥナがまだ娘ヴァニィのために休職していた頃のことです。
また、ルディは一体どういう訳か、生まれつき四人の姉たちよりも背が低く、母親のマデッラも「ミッドにおける成人女子の平均身長」には微妙に届いていないのですが、その母親と同じぐらいの背丈しかありません。
よく見ると、骨太で筋肉質で、肉体そのものは極めて健康で頑丈に出来ているのですが、初等科の頃は「低身長」が相当なコンプレックスで、(今でこそ、とても温和な性格になっていますが)当時は割とキレやすい性格だったようです。
(そのためか、彼には「初等科の頃からの友人」が一人もいません。)
【具体的に言うと、ルディの体格は158センチ・65キロぐらいです。外見はやや「ずんぐり」とした感じで、髪の色も(姉たち四人がみな揃って、父親によく似たベルカ系の明るい色合いなのに対して)彼だけは母親によく似た『いかにもミッド人らしい』暗褐色の髪となっています。】
魔力も『特別に強い』というほどではないのですが、それでも、コロナの「ゴーレム創成」にも似た、ちょっと珍しいタイプの「操作系魔法」のスキルを持っていたので、彼は後に、一般陸士よりも「そのスキルを活かせそうな仕事」の方を選択しました。
つまり、89年の春に次姉メルドゥナが丸一年の産休を取って8月に息子(第二子)セグディオを産むと、ルディエルモは末姉フラウミィと示し合わせて、その年の秋に二人で執務官補佐の試験を受けたのです。
その結果、ルディは「第一種・乙類」で、フラウは「第二種」で合格し、翌90年の春には二人そろって、次姉メルドゥナの産休明けと同時にその補佐官となりました。
また、92年の夏、メルドゥナが再び産休に入って「補佐官」としての仕事が無くなった際には、彼はその「操作系魔法」と「小柄で筋肉質な体格」を見込まれて〈本局〉の技術部に呼び出され、新たに開発された「剛性流体」による個人装備の実用化実験に参加させられたりもしました。
その結果、その個人装備の「実験機・第一号」は彼に贈与され、翌年の夏にメルドゥナが復職すると、彼はその特殊装備を駆使して、それまで以上に姉の仕事をよく補佐するようになります。
こうした弟妹らの協力を得て、メルドゥナは今日もまた「どうにか、こうにか」執務官の仕事をこなし続けているのでした。(笑)
また、メルドゥナは新暦92年の11月に次女(第三子)ジェルマを産んだ後、翌93年の8月には31歳で、「師匠のそのまた師匠」であるフェイト・ハラオウン上級執務官(37歳)や、現地出身のナスパルヴェム・クラムザウガ執務官(49歳)や、その「弟子」である新人のトスカミエム・ゼイドリクサ執務官(19歳)とともに、四人がかりで〈管13マグゼレナ〉の第二大陸における一連の事件を担当しました。
【それは、一言で言えば、〈永遠の夜明け〉の残党たちが「マグゼレナ本部」を復興しようとした事件であり、もっぱら廃都ディオステラの北方に拡がる「ヌミコス高原」を舞台としていたため、後に〈ヌミコス事件〉と名づけられました。】
その事件は11月になってようやく終了し、そこで、メルドゥナは「PT事件におけるフェイト」と同じような立ち位置の「人造魔導師」の少女ルビスタ(当時8歳相当。ヴァルブロエム・ゲイラヴァルデの改造クローンで、ISホルダー)を保護しました。
そして、一連の裁判を経た後、翌94年の3月に、メルドゥナはその少女を「一人目の養女」に迎えることになるのですが……この事件に関しては、また「インタルード 第9章」で詳しくやります。
なお、新暦95年の2月末、フラウが25歳で初めて出産した直後に、メルドゥナは成り行きで、また「差配課」の方から面倒な案件を引き受けさせられました。
事件としての難易度そのものは、決して高くないのですが、『パルドネアとモザヴァディーメとフォルスの間を何度も繰り返し往復せざるを得ない』という、やたらと手間のかかる仕事です。
しかも、事務担当補佐官のフラウは産休の真っ最中で、現場担当補佐官のルディも書類仕事など決して得意な方ではなかったために(つまり、誰も手伝ってはくれなかったために)なおさら時間がかかってしまい、結局のところ、その〈ダンヴェリオン事件〉の報告書を無事に仕上げた時には、もう6月になっていました。
【そんな訳で、メルドゥナは、この作品の「本筋」(新暦95年の3月から5月にかけての物語)には、一切登場しません。】
また、随分と先の話になってしまいますが……。
メルドゥナは新暦96年の9月に34歳で三女(第四子)ディムリエを産んだ後、翌97年には夫や子供らとともに首都郊外の住み慣れた家を離れて、首都圏地方北部の地方都市マグジェスタに転居し、さらに「99年度と100年度の二年間」は、遠くミッドチルダを離れて南方の「第一支局」での勤務を経験しました。
(彼女が、カナタやツバサと本格的に親しくなるのは、この時期のことです。)
また、新暦101年の3月末にメルドゥナたちが無事にミッドへ戻って来た後、翌102年の3月末には、ハウロンが70歳で無事に定年退官しました。
そして、メルドゥナ(40歳)は同102年の秋の〈第二次ヌミコス事件〉の後、「復讐鬼」ヘゼルミエ(13歳)を保護して、翌年の春には、彼女を「二人目の養女」に迎えることとなります。
(彼女は、ルビスタよりも四歳年下の妹分で、メルドゥナの第二子セグディオと同い年になります。)
一方、ルディエルモは新暦96年の8月、次姉メルドゥナが出産する直前に、マグジェスタ在住の「とある女性」と恋に落ち、翌97年の2月には23歳で、メルドゥナの産休が明ける直前に、その女性と結婚する意志を家族に伝えました。
その女性は「連れ子が二人もいる三十路の大女」でしたが、ハウロンとマデッラを始めとするシェンドリール家の人々は『愛さえあれば問題は無い』と、すでに自分の家族とは法的にも絶縁していた彼女を温かく同家の一員として迎え入れます。
【そして、翌98年の春には、ルディの甥にあたる「デュマウザの長子テリオス」が18歳で早くも「元IMCSの選手で、都市本戦の常連でもあった剣士」ヴォロネア・ガルバルト(21歳)と結婚することになります。
話はやや前後しますが、メルドゥナはこの「甥夫婦」に祖父母の家を明け渡すため、97年のうちに前もって、「住居に関しては、事実上の入り婿となったルディエルモ」が住むマグジェスタ市へと転居していたのでした。】
なお、その後、ルディエルモの妻が産んでくれた1男と2女は、彼女の「二人の連れ子(双子の女子)」とともに、五人そろって優秀な魔導師となりました。
結果としては、『ハウロンの「実の孫」は8男8女の16人で、そのうちの6人(3男3女)が魔導師になった』ということになるのですが……さらに言えば、「次女メルドゥナの二人の養女」と「末子ルディエルモの妻の二人の連れ子」まで数に入れると『ハウロンの20人の孫たちのうち、実に半数が魔導師になった』という計算になります。
これはもう立派な「魔導師の一族」だと言って良いでしょう。
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