魚の食べ方が汚い兄
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第一章
魚の食べ方が汚い兄
双子の兄内田智治は食いしん坊だ、何でも食べて魚も大好物である。刺身もフライも焼き魚も煮魚も食べるが。
兄の食べた後を見てだ、弟の智一は言うのだった。二人共小学生でやや茶色がかった黒髪を短くしていて大きな目と唇を持っている。
「兄ちゃんのお魚食べた後って」
「汚いか?」
「骨バラバラになっていてさ」
「隅から隅まで食ってるからな」
兄は弟に何でもないという口調で返した。
「だからな」
「いいんだ」
「そうだよ、食える場所はな」
夕食の場で言うのだった。
「とことん食わないとな」
「目玉とか唇とか脳味噌まで?」
「そうだよ、アラとかも美味いだろ」
魚のというのだ。
「だからな」
「全部食べて」
「汚くてもな」
見れば彼の皿の上は肴の骨が散乱している、最早原型を留めていない。
「いいんだよ」
「奇麗に食べたいな」
弟はこう思った。
「どうせなら」
「全部食える方がいいだろ」
「そうかな」
「そうだよ」
魚の身体の部分だけ食べる弟に言うのだった。
「さもないと身体大きくならないぞ」
「僕もお魚好きだけれど」
「けれど食える場所は全部食うんだよ」
あくまでこう言うのだった、そしてだった。
二人は成長していったが智治はやがてだった。
小魚、鰯等は頭から骨ごと食べる様になった、秋刀魚や鮎もそうする様になった。そのうえで言うのだった。
「骨だって食えるならな」
「食べるんだ」
「ああ、それが一番美味くてな」
そしてというのだ。
「身体にいいんだよ」
「カルシウムだからだね」
「そうだよ、だからな」
「鰯もなんだ」
「こうして食うさ」
鰯を頭から食べつつ言うのだった。
「お前は頭とか骨残すけれどな」
「僕はね」
「人の食い方はそれぞれだけれどな」
「お兄ちゃんはそうするんだね」
「そうするさ」
「それはいいけれど骨食べらないお魚は」
弟は兄にどうにもという顔と声で言った。
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