胡蝶の花
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第三章
「何と、ご領主様が倒れたぞ」
「そうなったぞ」
「急だな」
「全くだ」
「しかしご領主様が死んだ」
兵達はそれを見て言った。
「ならな」
「そうだな、娘をどうかする理由もない」
「我等はご領主様の亡骸をお屋敷に戻そう」
「そうしよう」
「だからな」
それでとだ、兵達は。
二人に顔を向けてだ、こう言ったのだった。
「お主達助かったぞ」
「ご領主様がお亡くなりになったからな」
「よかったな、嵐に救われたぞ」
「それなら早く村に戻れ」
「そしてまずは濡れた身体を拭け」
「我等も戻るからな」
二人に口々に言ってだった。
兵達は高倉の亡骸を担いでそのうえで屋敷に戻った、それを見届けて霞朗は文姑に対して言った。
「どうやらだ」
「私達は助かったのね」
「領主様がああなるとな」
「もうね」
「終わりだ、次の領主様は長子殿だが」
高倉のというのだ。
「しっかりした方だ」
「ええ、お父上とは違って」
「そうした方だからな」
「もうこうしたことはないわね」
「悪政もなくなる」
こちらもというのだ。
「そして俺達もな」
「幸せになれるわね」
「きっとな」
こう言ってだった。
霞朗は文姑を抱き締めた、この時嵐が瞬時に終わってだった。
空が晴れた、そこにだった。
つがいの虹色の蝶達が来てその後に数えきれないだけの蝶達が来た、そうして泉の周りのネムノキの花達に寄った。文姑はそれを見て思った。
「まさか領主様が死んで」
「この地の災厄が取り払われてな」
「天の神様達も喜んでいるのね」
「そうかもな、それでだ」
「これだけの蝶達が出て来て」
「そのことを喜んでいるんだな、それに」
霞朗は今はネムノキにいる虹色の蝶達を見て文姑に話した。
「あの虹色のつがいの蝶達は」
「私達かしら」
「俺達を表しているのかもな」
「そうなのね」
「それじゃあな」
「ええ、これからね」
「夫婦になろう」
「そして幸せになりましょう」
二人で抱き合い誓い合った、そしてだった。
二人は結ばれた、そのうえで。
嵐が起こり領主が死に蝶達が出た泉を胡蝶泉と呼ばれる様になった、この日が旧暦の四月十五日頃であったのでこの地ではこの日は男女が出会い結ばれる所謂お見合いの場として胡蝶会というものも行われる様になった、全てはこの時からはじまった。雲南省に古くから伝わる話である。そして泉は今もこの省にある。
胡蝶の花 完
2023・8・12
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