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イベリス

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第百二十六話 言葉を受けてもその三

「幸せにはなれないかと」
「辛いこと悲しいことを忘れないと」
「そうしたものに心を囚われると。自分自身がです」
「辛く悲しいままだと」
「幸せである筈がないので」
「例えお金持ちであっても地位があってもですね」
「源氏の君は幸せに終わったか」
 源氏物語の主人公である彼はというのだ。
「位人心を極めましたが」
「帝のお子に生まれられて」
 咲も源氏物語の話に応えて言った。
「それで凄い美形で頭も欲て魅力もあって」
「多くの女性に愛されましたが」
 そうした傍目から見れば幸せそのもの人生だったがというのだ。源氏物語をあらすじだけ見ればそうなる。
「しかしです」
「果たして幸せか」
「それはどうだったか」
「やっぱり違いますね」
 咲も知っていて答えることが出来た。
「あの人は」
「特に最後は」
「何かいつも悩んで苦しんで」
「人の世の憂いの中にありましたね」
「そうでしたね」
「憂いに心を支配されていても」
 そうなっていてもというのだ。
「やはりです」
「幸せじゃないですね」
「そうです、愛別離苦も」
 源氏の君の生涯にはというのだ。
「非常に多く」
「一生の間に」
「どう見ても幸せではです」
「なかったですね」
「源氏物語は恋愛小説ですが」 
 俗に言われていることである。
「同時に仏教小説でもあります」
「仏教の教えがですね」
「非常によく出ている」
 そうしたというのだ。
「宗教的色彩もです」
「強い作品なんですね」
「その中心にいた源氏の君は」
「幸せじゃなかったんですね」
「そうでした、位人心を極め美貌も人望も資質も備えていても」
 そうであってもというのだ。
「ご本人が憂いを感じてばかりでは」
「幸せじゃないんですね」
「はい」
 まさにというのだ。
「そうなのです」
「自分がどうかなんですね」
「あくまで、ですから」
「私もですね」
「常に幸せだと感じられる様に」 
 その様にというのだ。
「お心をです」
「持っておくことですね」
「そして辛いこと苦しいことがあっても」
「一瞬で忘れて」
「前を向かれて」
 そうしてというのだ。
「そのうえで、です」
「生きていくことですね」
「是非共です」 
 絶対にというのだ。
「その様にされて下さい」
「一瞬ですね」
「反省して覚えておくべきこともあります」
「辛いこと悲しいことの中には」
「それが人生の糧になるので」
「教訓ですね」
「それになるので」
 だからだというのだ。 
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