魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)
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【プロローグ】新暦65年から94年までの出来事。
【第3章】SSXの補完、および、後日譚。
【第4節】同78年の10月以降の出来事。
そして、10月上旬。今年も、いよいよIMCSの都市本戦が始まりました。
【なお、Vividのコミックス第3巻の巻末にある「インターミドル豆知識④」には、『まず17区に分けられた地区予選で、そこを勝ち抜いた者から20人の代表が選ばれます。都市本戦は、前回の都市本戦優勝者と合わせた21人で戦うことになります。』とありますが、コミックスの中では徹頭徹尾、1組から10組までしか描写されていません。
そこで、この作品では話をより解りやすくするために、IMCSに関しても少し設定を変えて、以下のとおりとします。
1.地区予選は毎年7月下旬から8月下旬にかけて、20組に分けて行なわれる。
(なお、『地区予選11組から20組は、Vividのコミックスでは特に描写されていないだけで、同じ会場を使って別の日程で普通に行なわれていた』ということにしておきます。)
2.都市本戦は毎年10月の前半に、合計四日間の日程で行なわれる。予選各組の優勝者20人と特別枠4人の計24人が出場する。
(特別枠とは、例えば「予選決勝で本当に僅差の判定負けをした選手」など、IMCSの運営本部が『地区予選各組の優勝者たちと比べても何ら遜色が無い』と判断した選手のみに与えられる、いわゆる「復活枠」です。)
3.その24人のうち、優勝者20人の中から「昨年の実績」による上位8人を「シード枠」にした上で、各ブロックに一人ずつシード選手を入れる形で、全員を三人ずつ8個のブロックに分ける。そして、シード選手以外の16人で、一日目に1回戦をブロック順に行なう。(全8試合)
4.二日目には、1回戦の勝者とシード選手とがブロック順に2回戦(全8試合)を行なって、まずはベスト8を決定する。
(原作で言う「ベスト10」は、すべて「ベスト8」に変更します。)
5.三日目は改めて「組み合わせ抽選」を行なった後、午前中に3回戦の4試合を、午後にはその敗者同士で5位~8位決定戦の4試合を行なう。(計8試合)
6.四日目(最終日)は、午前中に準決勝の2試合を、午後に3位決定戦を行なった後、最後に決勝戦を行う。(計4試合)】
さて、一日目は、これといった「番狂わせ」もなく、8試合ともおおむね順当な結果に終わったのですが……事件は二日目に起きました。
ジークリンデ(15歳)は「前年の都市本戦優勝者」として、第4ブロックのシード選手になっていたのですが、初戦(都市本戦としては2回戦)で、ミカヤ(17歳)に勝利した直後に、自分が「クラッシュ・エミュレート・システム」の限界を超えて、ミカヤの右手を「現実に」破壊してしまったことを気に病んで、唐突に次の試合を棄権してしまったのです。
ミカヤの右手も、どう考えても次の試合までの数日で治るような状況ではなかったため、協議の結果、3回戦には、同じブロックの1回戦でミカヤに負けたノムニア選手が代理出場することになりました。
そうしてベスト8が出揃った後、三日目には観客たちが注視する中、開幕早々に選手たち自身の手によって改めて「組み合わせ抽選」が行なわれます。つまり、『選手たち自身も、試合の直前まで誰と当たるのか解らない』という趣向です。
その結果、三回戦の組み合わせは、対戦表の順に、以下のとおりとなりました。
ヴィクトーリア・ダールグリュン(16歳)対ハリー・トライベッカ(14歳)
バオラン・レイザム(18歳)対ノムニア・ガラムド(18歳、代理出場)
ザミュレイ・パブロネア(16歳)対エルス・タスミン(15歳)
ノーザ・ハグディ(18歳)対ジェスカ・リディオン(19歳)
第一試合は、お互いに「決め手」を欠いたまま、最後までボテボテの「泥試合」になってしまいましたが、結果はヴィクトーリアの「余裕の判定勝ち」でした。
その試合の後、ヴィクトーリアはジェスカに呼ばれて、彼女の控え室を訪れました。
ジェスカ・リディオンは「フロンティアジム」におけるヴィクトーリアの先輩です。今年は選手会の代表も務めていますが、当年19歳なのでIMCSに出場できるのも今年が最後で、来年からは運営側に回る予定でいました。
(なお、現在のIMCSでは、ヴィクトーリアやジェスカが所属する「フロンティアジム」と、ノーザやザミュレイが所属する「ホライズンジム」が二大勢力です。)
「ここのモニターで観てたけど、さっきの泥試合は一体何? 何故もっと本気を出さないの?」
「すみません。私の魔法は『非殺傷設定』が今ひとつ上手(じょうず」には組めないものですから」
「ジークリンデ選手と同じようなことはしたくない、と?」
「ええ。私は『強さ』を世に示すことができれば、それで良いのであって、誰かを傷つけたい訳ではありませんから」
(この子は、まだメンタルが甘いなあ。……それとも、これが強者の余裕ってヤツ?)
【なお、物語の都合上、ヴィクトーリアの実力に関しては、若干の上方修正を行ないました。「能力値だけ」で言えば、『この「78年の都市本戦」に出場した選手たちの中では、完全にジークリンデとヴィクトーリアが2強である』という設定です。ただ、この二人はまだ『メンタルに少し問題がある』と言うだけのことなのです。】
その後、第二試合では「武断流、双剣術」のバオランがKO勝利を飾り、第三試合では、エルスが判定負けを喫しました。第四試合は、やや微妙な判定になりましたが、ノーザがかろうじて判定勝ちを収めます。
こうして、午前中の4試合が終了した結果、今年の都市本戦「ベスト4」は、ヴィクトーリア、バオラン、ザミュレイ、ノーザの四人となりました。
また、午後の5位決定戦は、再抽選の結果、まずハリー対エルス。次に、ジェスカ対ノムニアとなりました。
この後、『勝者同士で戦って5位と6位を決め、敗者同士で戦って7位と8位を決める』という方式なのですが、5位から8位の選手は「一日で3試合」をこなすことになるので、疲労の蓄積も相当なものになります。
勝者同士の、ハリーとジェスカの5位決定戦はまたもや微妙な判定になりました。一方、敗者のエルスとノムニアは完全にスタミナ切れで、7位決定戦はまたもや「ヘロヘロの泥試合」になります。
結果は、ハリーが5位、ジェスカが6位、ノムニアが7位、エルスが8位となりました。
毎年、8位の選手は一日で3連敗することになるので、精神的にはかなりキツいのですが、それもまたIMCSの厳しいところです。
(正直なところ、エルスはちょっと心が折れそうでした。)
【一度はベスト8に残ってから三連敗しないと「8位」にはならないので、「Vivid Strike!」でも描写されていたとおり、「8位の人」というのは決して誉め言葉にはならないのです。】
そして、最終日。まずは、準決勝戦の二試合が行われます。
第一試合では、「双剣」のバオランが珍しく防御を固め、ヴィクトーリアはこれを攻めあぐねて判定負けとなりました。
第二試合では、「百節棍」のザミュレイも、男装の麗人であり、同じホライズンジムの先輩でもある「縛縄」のノーザに敗れ去ります。
【ちなみに、バオランは「ややゴツい体型」で、普通の人間ならば「両手を使わなければ持ち上げることもできないほど」の幅広い長剣を、片手でブンブンと振り回して来ます。
(この流儀は、いわゆる「二刀流」とは武器の使い方が全く異なるために、区別して「双剣術」と呼ばれています。)
また、棍とは、「長さが人間の背丈より少し長いぐらいの棒」のことです。槍のような穂先が無いため、上下の区別も無く、どちらの側も同じように使えるのが特徴の武器で、ミッドでは昔から「不殺の武器」として広く用いられています。
中には、「双節棍」とか「三節棍」などといった武器もありますが、実際には、取り扱いがとても難しく、あまり実用的とは言えません。ザミュレイの「百節棍」に至っては、完全に「魔法なしでは全く扱えない代物」です。
(要は、「刃のついていないガリアンソード」のようなものだと思ってやってください。)
一方、ノーザの使う「縛縄」は、『空中に多数のフックを「固定」し、その間にロープを自在に張り巡らせる』という技術です。このスキルも、「空間認識能力」が相当に高くなければ、決して使いこなせません。
なお、フックが空中に固定されるのは、なのはが使う「レストリクトロック」のような捕獲系の魔法と同じ系統の「空間座標固定」によるもので、空士が空中で「踏ん張る」ことができるのも、基本的には同じ原理です。】
続いて、3位決定戦は、ヴィクトーリア対ザミュレイの「16歳対決」となりましたが、結果は、ヴィクトーリアの圧勝でした。
そして、決勝戦は、バオラン対ノーザの「18歳対決」です。
観客席からは、黄色い歓声が響き渡りました。ノーザの公式ファンクラブ「縛られ隊」の女の子たちです。(笑)
しかし、バオランはロープを相手にせず、フックの方を次々に叩き切って行きました。その戦術は大正解で、ファンクラブの女の子たちの熱烈な応援にもかかわらず、ノーザは大差の判定負けとなります。
こうして、今年の都市本戦は、優勝がバオラン、準優勝がノーザ、3位がヴィクトーリア、4位がザミュレイという結果に終わりました。
(バオランはその後、11月の都市選抜には勝ちましたが、12月の世界代表戦では準々決勝で思わぬ不覚を取り、残念ながら5位に終わりました。)
【なお、Vividのコミックス17巻には、「ナショナルチャンプ」とか、「ワールドチャンプ」などといった用語が登場しますが、この作品では、それらの用語を正式に、それぞれ「ミッドチルダ・チャンピオン」、「次元世界チャンピオン」と呼称することにします。】
そして、IMCSの都市本戦が終了した頃、管理局では「三元老」の1回忌が営まれました。
以下は、その後の、クロノとヴェロッサとはやての「秘密の会談」の内容です。
ロッサ「さて、僕たちはそれぞれに三元老から『例の話』を聞かされてしまった訳だけれど」
クロノ「やはり、三脳髄の話は「表沙汰」にはできないだろうなあ。(残念そう)」
はやて「私らの立場では、ミゼットさんたちの遺志を踏みにじる訳にもいかんやろ」
ロッサ「それ以前の問題として、証拠はもう、すべて隠滅されているよ。(苦笑)」
クロノ「しかし、真面目な話、なのはやフェイトやユーノやカリムには、そろそろ教えておいた方が良いんじゃないのか?」
はやて「私らの他に、この話を聞いとるのは……今のところ、リナルドさんとザドヴァンさんとリゼルさんだけ、という話やったか?」
ロッサ「そうだね。リナルドはもう引退したも同然の身の上だけど」
クロノ「この先、どうなるにしても、理解者は身近にもう少しいた方が良いだろう。問題は、どこまで教えるかだが……そうだな。『プロジェクトFの具体的な工程』などに関しては、まだ一部に不明瞭な点もあり、データの検証も全くできていないから、少なくとも当面は、フェイトたちにも伏せておきたい」
(マグゼレナでの一件に関しては、すでにこの三人の間で情報が共有されています。)
はやて「そうやな。伝えるのは、やっぱり、ミゼットさんたちから聞いた話だけでええやろ」
ロッサ「では、なのは君とフェイト君には、はやてから。ユーノ君には、クロノから。カリムやシャッハには、僕の方から伝える、ということでいいかな?」
ヴェロッサは、クロノとはやての了解を取り付けた上で、もう一つ新たな話題を振りました。
ロッサ「ところで、まだ確認の取れていない情報なんだが、君たちの耳には先に入れておこう。実は、『最近、西方で「伝説の魔導殺し」が復活した』という情報があってね」
クロノ「それは……どういう連中なんだ?」
ロッサ「通常の魔法が利かない特殊な連中で、一説によると、衰退したジェブロン帝国を最終的に滅ぼしたのも、彼等の仕業なんだそうだ」
はやて「なんや、〈ゆりかご〉も300年以上は昔の話やったけど、今度は600年以上も昔の話かいな」
【この作品では、『エクリプスウイルスもまた、古代遺物の一種である』という設定で行きます。詳しくは、「プロローグ 第5章」の冒頭部を御参照ください。】
こうした経緯があって、同10月の下旬、はやては、なのはとフェイトを自宅へ誘いました。
そして、つい最近になって増築した「防音性の高い特別室」で、はやてはミゼットから死の直前に託された「遺言」とも言うべき映像資料を(最後の「私信」の部分は除いて)なのはとフェイトに見せます。
二人は、ここで初めて「三脳髄」のことを知り、愕然となりました。
フェイト「小6の時に『秘密のお茶会』で初めてお会いしてから、もう10年か」
なのは「あの時はまだ、相手が誰なのかも解っていなかったけど……元老になってから20年以上もの間、ずっと静かに『三脳髄』への抵抗を続けていた人たちだったんだね」
はやて「三脳髄を『管理局の闇』を代表する存在とするならば、彼等は『管理局の光』を代表する存在や。まさに『闇に囚われても、その小さな灯火は消えることなく』といったところやな」
はやては、ミッドでは有名な古典詩の一節を引用しながらも、日本式に合掌して頭を垂れました。なのはとフェイトも、思わず同じ所作をして、今さらながら三元老の死を悼みます。
続けて、はやては「自分たち三人以外で、この話を知っている人物」を列挙していきました。
まず、長らく「三元老の御世話役」を務めたリナルド・アリオスティ(55歳)は当然に最初からすべてを知っています。彼も元々は「三脳髄の側から送り込まれた監視役」だったのですが、後に三脳髄を密かに裏切って、三元老の協力者となりました。
そして、三元老とリナルドは、三脳髄に対しては引き続き、忠誠と従順を装いながらも、裏では着々と「三脳髄の暗殺と管理局の改革」についての計画を組み立てていったのです。
(暗殺に関しては、現実には、ドゥーエに先を越されてしまった訳ですが。)
三元老の死後、「陰の功労者」はみずから選んで閑職に退き、今では早々と「余生」のような静かな生活を送っているそうですが、彼は今も、周囲の人々からは「元、三元老の側近」として、あるいは尊敬され、あるいは敬遠されています。
今しばらくは、そっとしておいてあげるべきでしょうが、はやてたちもいつかは彼に協力を仰ぐ日が来るかも知れません。
次に、ザドヴァン・ペルゼスカ(43歳)は、今では〈上層部〉法務部のお偉いさんです。はやてたちは三人とも、面識はありませんでしたが、何かの時に頼る機会もあるかも知れません。
そして、リゼル・ラッカード(39歳)は、三年ほど降格処分を受けていましたが、この10月から「提督」に復帰しました。離婚歴が二回もありますが、彼女はクロノの遠い親戚でもあり、やはり頼もしい味方と考えて良いでしょう。
他には、クロノとヴェロッサと八神家の面々です。
そこで、はやては、なのはとフェイトに以下のような説明をしました。
まず、『クロノとロッサは、自分と同じように、先ほど見せたような映像資料を〈三元老〉から直接に託されたのだ』ということ。
次に、『今回は、この二人とも話し合った結果、なのはやフェイト、ユーノやカリムとも情報を共有しておこう、という話になった』ということ。
そして、『この話は、当分の間、他の人たちに対しては、秘密にしておきたい』ということ。
なのはとフェイトは、それらをすべて了承しました。
その上で、三人はまたさらに会話を続けます。
なのは「三脳髄は、他にも一体どれだけ多くの事実を隠蔽して来たんだろう?」
はやて「正直に言うと、それも、よぉ解らんのや」
フェイト「ミッドの地下に〈ゆりかご〉が眠っているという話が、単なる伝説のように思われていたのも、長年に亘る彼等の情報操作のせいだったのかな?」
はやて「おそらくは、そうなんやろうねえ」
なのは「私も、ベルカに向かう航路は今もすべて『封鎖』されていて、まだ『技術的に』渡航は不可能なんだとばかり思っていたからさ。一昨年に、いきなり『発掘調査のため、ベルカに人員を送る』という話になった時には、随分と驚いたよ」
はやて「実は、管理局創設の頃から『技術的には』もう可能になっとったらしいなあ」
フェイト「となると……もしかして〈最後の移民船〉の伝説も、三脳髄が隠蔽していただけで、本当は事実だったりしてね」
なのは「え? それ、どういう伝説?」
フェイト「船が沈む時、船長はすべての乗客と乗員を降ろしてから、最後に自分が船を降りるでしょう。それと同じで、ベルカ滅亡の際にも、聖王家直属の重臣たちは、すべてのベルカ人を脱出させてから、自分たちも〈最後の移民船〉でベルカを離れたのよ。まあ、ここまでは、間違いなく史実だろうと思うんだけど……。
その際に、〈最後の移民船〉が単独で、ベルカにつながる航路を『謎の技術』ですべて封鎖したという話になって……そこから、その船が、最初にベルカを離れた〈ゆりかご〉と対を成す存在であるかのように考える人たちが現れて……そのうちに『実は、その船は〈ゆりかご〉に匹敵するほどの、聖王家秘蔵の戦船だった』という伝説が生まれたのよ」
はやて「ちょぉ待ってや。まさか、あんなバケモノが実はどこかにもう一隻ある、なんて話や無いやろうな?!」
フェイト「まあ、『ゆりかごに匹敵』は、さすがに話を盛りすぎだろうと、私も思うけどね」
なのは「で、その船は? それから、どこの世界へ行ったの?」
フェイト「それが、全く解らないのよ。どの世界にも、その船がここに来た、という伝承は残されていないの。だから、『どこかの無人世界で今も眠り続けているのだ』と言う人もいるけれど、中には『そんな特別な船は、最初から存在していなかったのだ』なんて言い出す学者もいるぐらいで」
なのは「じゃあ、本当に単なる伝説かも知れないのね」
はやて「ホンマ、そうであってほしいわ」
【この〈最後の移民船〉の問題は、新暦102年になって、ようやく最終的に解決されることとなりますが、それはすでに「この作品の守備範囲」ではありません。】
はやて「それよりなあ。ロッサが言うには、今、西方で不穏な動きがあるらしいんや。また近いうちに『専任の独立部隊』を立ち上げることになるかも知れんのやけど、二人とも、その時には、また力を貸してくれるか?」
フェイト「今さら何を言ってるのよ。そんなの、当たり前じゃないの。(笑)」
なのは「と言うか、その時になって、はやてちゃんから声を掛けてもらえなかったら、私、泣いちゃうよ?(笑)」
(私は「その日」が来るまで、ヴィヴィオのために「できる限りのコト」をしてあげよう。)
なのはは、そんな会話をしながら、そう決意したのでした。
【この作品では、『なのはがVividのシリーズで、やたらとヴィヴィオをかまっているのも、ひとつにはこのためだった』という設定で行きます。
実際の「特務六課」の立ち上げは、これから2年あまりの後、新暦81年2月のことになりますが、〈ヴォルフラム〉の建造は、この頃にはすでに始まっていました。】
はやて「ところで、また話は変わるんやけどな。ルーテシアがこの一年たらずで、カルナージに宿泊施設やら訓練施設やら、いろいろ揃えたらしいんよ」
フェイト「あの無人世界に? 全部、一から造ったの?!(吃驚)」
なのは「まったく……あの子は、才能の宝庫だねえ」
はやて「で、誰かに一度、実際に『宿泊と訓練』をしに来てほしい、とか言うとるんやけどな。二人は来月あたり、時間、空いとるか?」
なのは「私は、前半なら空いてるよ」
フェイト「ごめん。私は来週から、また長期の仕事が入っているわ」
はやて「やっぱ、執務官は忙しいお仕事なんやなあ」
フェイト「でも、来月なら、確か、エリオとキャロは時間が取れると思うわ。ティアナは、別件でまだしばらくは身動きが取れないみたいだけど」
なのは「スバルも『有給休暇が溜まってる』とは言ってたけど……動けるかなあ?」
フェイト「ところで、ルーテシアで思い出したんだけど。……リンカーコアにエネルギー結晶体とか、他人のリンカーコアとかが融合したままになってる人って、今のところ、はやてとルーテシアの二人だけなの?」
はやて「いや。まだ詳しいコトは、よぉ解らんのやけどな。今は教会本部の方に引き取られとる〈冥王〉イクスヴェリア陛下も、どうやら何かのエネルギー結晶体が、リンカーコアに融合しとるらしいで。……なんや、フェイトちゃん、気になることでもあるんか?」
フェイト「いや。三脳髄が死んだ後で、本当に良かったな、と思って。もしもまだ生きていたら、彼等は絶対にルーテシアや冥王陛下のことも何かに利用しようとしていただろうし」
なのは「そう考えると、はやてちゃんも『真の実力』を三脳髄に知られずに済んでいたのは、本当に良かったよね。新暦66年の時には、リンディさんも三脳髄の存在まで察知した上でああいうことを言った訳ではなかったんだろうけど」
はやて「言われてみれば、ホンマにリンディさんのおかげやなあ。……となると、やっぱ、三脳髄の件はリンディさんにも伝えておくべきやろか?」
フェイト「急ぐ話でもないんだし、取りあえず、クロノやロッサとも相談してからの方が良いんじゃないかな?」
なのは「うん。私もそう思うな」
はやて「じゃあ、また近いうちに相談してみるわ」
そうした会話の後、なのはとフェイトは自宅に帰って行きました。
その後で、リインはふと、はやてに問います。
「最後の『私信』の部分は、なのはさんたちに見せなくても良かったんですか? 地球が関係しているとなると、なのはさんやフェイトさんにとっても、決して無縁とは言い切れない話だと思うんですけど」
「確かにそのとおりやけど、まだ確定情報がひとつも無い話やからなあ。こちらでもう少し調べてからの方が、ええやろ。これこそ、特に急ぐ話でも無いんやし」
「まあ、それもそうですね」
リインは軽い口調で納得してみせましたが、内心では、ミゼットからの「私信」の内容に「何かしら妙にひっかかるもの」を感じていたのでした。
【実は、その感覚は「アインスから受け継いだ何か」に基づくモノだったのですが……その話も、また「第三部」でやります。】
それと同じ頃、ヴェロッサは、カリムの執務室を訪れ、わざわざ「人払い」をした上で、カリムとシャッハだけに同じ映像資料を見せました。
二人は驚愕に声を失いましたが、それでも、クロノたちの考えに全面的に協力することを約束してくれます。
また、クロノも同じ頃、みずから無限書庫の管理室に出向き、完全に二人きりの状況で、ユーノに同じ映像資料を見せました。
ユーノはしばらく頭を抱えていましたが、やがて、『うん。……そうか。なるほど……。そういうことだったんだね』と納得してくれます。
「それから……僕の子供たちがミッドに引っ越して来たり、君自身が入院していたりで、話をするのが随分と遅くなってしまったんだが……」
そう言って、クロノはユーノにも、〈永遠の夜明け〉の「マグゼレナ本部」を殲滅した時の話をしました。ユーノも事件の概要は聞き及んでいましたが、クロノはさらに細かい話をした上で、ユーノにこう頼み込みます。
「レニィの話に出て来た、〈グランド・マスター〉と呼ばれる人物について、調べてみてほしい。本当に、あの〈アルカンシェル〉を造った人物かも知れないんだ」
「しかし、綽名だけでは、雲をつかむような話だね」
「そこを何とか頼むよ」
また、クロノはさらに、それとは別件で「ヴァルブロエム三姉妹」についても調べるように、ユーノに頼み込みます。
「ヴァルブロエムとは、また珍しい苗字だね」
「そうなのか?」
「うん。そもそも、OEという二重母音自体が、あまり多くはないんだよ。『主要な管理世界の公用語』に限って言えば……マグゼレナ共通語か、さもなくば、カロエスマールで使われているクレモナ標準語ぐらいのものだろう。
その上で言うけど……苗字がM音で終わるということは、やはり、この姉妹はマグゼレナ系の血筋の人物なのかな?」
「ああ。マグゼレナ人には、これといった『遺伝子マーカー』が無いから、判別は難しかったが、どうやら、そのようだ。鑑識からの報告によると、多少はベルカ系の血筋も混じっていたらしい。どちらも、特に急ぐ話ではないんだが……まあ、よろしく頼むよ」
今ひとつ気が乗らない話ではありましたが、それでも、ユーノは不承不承、クロノの依頼を引き受けました。
【なお、それぞれの世界における「遺伝子マーカー」の有無については、「背景設定4」を御参照ください。】
そして、翌11月になると、はやてとリインとシャマルとザフィーラは、なのはやスバルやエリオやキャロとともに、八人で〈無2カルナージ〉を訪れ、ルーテシアが造った宿泊施設と訓練施設を堪能しました。
宿泊施設の方は、一階に四人部屋が三つ、二階に二人部屋が六つ。合わせて24人が同時に宿泊可能となっています。
(四人部屋にもう一人ずつ押し込めれば、最大で27人ぐらいまでは何とかなるでしょう。)
名前は「ホテル・アルピーノ」でしたが、構造的には、それは「メガーヌやルーテシアが日常的に暮らしている家屋」とほとんど一体化した建物でした。
なのはは実際に使ってみた上で、訓練施設に関しては幾つかルーテシアに提案をし、ルーテシアも『なるほど』と感心して、その案を採用します。
そして、はやては、また翌年の早いうちに今度は八神家七人全員で来ることをルーテシアに約束したのでした。
また、トーマ(12歳)は昨年の7月からミッドの「特別養護施設」に入っていましたが、この年の11月には、初等科の課程をすべて修了しました。
普通の小児より「8か月遅れ」ですが、ヴァイゼンで「10か月ものブランク」があったことを考えれば、むしろ優秀な方だと言って良いでしょう。
トーマも浮浪児をしていた頃には、性格が少しばかり荒んでいましたが、その施設で通信教育やカウンセリングを受け続けた結果、今ではもうすっかり「本来の穏やかな性格」を取り戻しており、ミッドチルダ標準語やミッド式のマナーもひととおりは身についていたため、同11月には、施設の方からもようやく「一般面会許可」が下りました。
そこで、スバルは(カルナージからスプールスへ帰るには、どのみちミッドを経由して行くことになるので)エリオとキャロ(13歳)も連れて、久々にトーマと面会しました。
その結果、(今までずっと周囲に「同年代の小児」がいなかったため)トーマにとっては、エリオとキャロが「初めての、同年代の友人」となります。
実を言えば、エリオとキャロにとっても、ルーテシアを除けば、トーマが「初めての、同世代の友人」でした。
そこは割と自由の利く施設だったので、スバルはまた後日、トーマにナカジマ家の面々やティアナやアルトたちを紹介し、翌12月には、『いずれは、トーマもナカジマ家の養子に』という話がまとまりました。
施設の側からも『では、彼が中等科の課程を修了したら、すぐにでも』という話が出て、トーマも俄然やる気を出し、以後、彼はわずか2年でその課程を修了することになります。
【そうして、80年の12月には、トーマは無事、ナカジマ家に引き取られることになるのですが、その2年の間にも、スバルやゲンヤを始めとするナカジマ家の面々は、休日の度に入れ代わり立ち代わり、トーマの許を訪ねてくれたのでした。】
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