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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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第一部
  三月の戦闘 Ⅱ

 『二人の剣が火花を散らし・・・”黒の剣”がほんの少しの拮抗の後、断ち切られる』

「嘘だろ!?」

 神器の中でも最高峰の”黒の剣”。神すら切り伏せるその剣が、いとも簡単に壊れる未来を見て、翔希は顔色を変えた。

 後に賢人議会が【至高の魔眼】と名付ける彼の権能は、『未来視』『過去視』『幻影』の三つの魔眼を使い分けることの出来る権能だ。今、彼の真紅に染まった右目には、常に五秒後の未来が映り続けている。その中で見えた、五秒後の未来が『”黒の剣”が断ち切られる』という未来だ。

(流石に、神によって創られた武器と、神の権能そのものとは格が違うってことか!)

 確かに、”黒の剣”の切れ味は凄い。この世のどんな名剣でも敵わない程の力を持っているだろう。それこそ、神すら斬り裂く力を持っている。・・・が、そもそもドニの権能である【斬り裂く銀の腕】は、『自身の銀の腕で持つ刃を、どんな物質でも斬り裂く至高の魔剣へと変化させる』という、概念付加系統の権能だ。

 ”黒の剣”も、神々によって創られた物の為に、かなりの耐久性を持ってはいるが、それでも、『触れた物を斬り裂く』という概念に勝てる程の物ではないのだ。

 【斬り裂く銀の腕】は、最強の矛と言っても過言ではない能力なのである。

(だが、それなら俺にもやりようはある!)

 翔希の権能【至高の魔眼】は、直接的な攻撃力は皆無なものの、近接戦闘においては無類の強さを誇る権能である。

彼が戦闘中常時発動している、真紅の『未来視の魔眼』は、設定した時間の未来を映し続ける。それにより、相手が何をするのか、何処にどんな攻撃をしてくるのかが完璧に分かるのだ。これがどれだけ重要なことかが分かるだろう。

 フェイントも読み合いも無視して、常に最善策を取り続ける事が出来る。しかも、その特性上、『時間の流れを変える』権能相手には何も出来ないが、『自分の速度を上昇させる』神速相手にならば互角以上に戦う事が出来る。相手が見えない程の速度になろうと、何処に攻撃してくるのかが分かるのだから。それさえ分かれば、カンピオーネの身体能力で追いつけない訳がない。なにせ、雷すら避ける事が出来るのだ。

 よって、『相手の剣に触れる』事が悪手ならば、触れなければいい。

「よっと!」

 ドニの突きを、一歩左に動くことで回避する。そうしながら、ドニの胴体がやって(・・・)くる(・・)場所(・・)に剣を配置する。

「えっ・・・!?」

 ”黒の剣”の切っ先が相手の腹部を少し傷つけたその瞬間、恐るべき反射神経を発揮したドニが後方に下がる。・・・否、下がろうとした。

「させるか!」

 しかし、それすらも『未来視の魔眼』で予知していた翔希は、一歩踏み出す。突きを繰り出す為にダッシュしてきていたのを止めて、バックステップしようとしたドニと、最初からこういう状況になることを予知してドニのバックステップに合わせて追撃した翔希。どちらが有利かは・・・語る必要も無かった。

「ぐっ・・・!」

 ギン!と硬質な音が響く。

 ドニの周囲には、何時の間にか無数のルーン文字が浮かび上がっていた。ドニの持つ権能、【鋼の加護(マン・オブ・スチール)】である。鋼鉄よりも硬くなったドニの体に”黒の剣”は阻まれた。・・・が、

「・・・斬鉄か・・・!」

 ドニの、悔しさと嬉しさが混ざり合ったような声が響く。彼の腹部は、翔希の突きにより数センチの傷が付いていた。当然、その程度の傷など気にもせずに反撃してくるドニだが、それすらも『未来視』で視て知っていた翔希は軽々避ける。

「・・・これで終わりにしないか・・・?」

「まさか!そんな勿体ない事が出来るわけないだろう!?凄く楽しくなってきたのに!」

「はぁ・・・。」

 この返答すらも視て知っていたのだが、一縷の望みを掛けて提案してみた翔希は肩を落とす。

『未来視』は、完全無欠な能力ではない。

 これは恐らく、彼が殺した神であるマリーチの眷属であった『ラプラスの悪魔』が既に消滅しているからだと思われる。人に裏切られた恨みと悲しみにより思考を鈍らせたマリーチは、しばしば未来を読み違えていた。元々の彼女の能力は、数百、数千年先の出来事さえも的中させる事が可能な能力であったのにだ。

 翔希の場合は、数秒先の未来ならば何の問題もない。ほぼ百%の確率で的中するだろう。・・・だが、それが一分先や、一時間先。一日先となっていくと、未来の可能性は細分化されすぎて、どれが本当の未来なのかがわからなくなる。

 つまり、『未来視』の能力は、『この先起こり得る可能性を映像として写す』能力なのだろう。当然、視る期間が長ければ長いほど可能性は増え続ける。だから、間違える可能性はゼロではないのだ。

 ・・・が、少なくとも今の場面では、間違っては居なかったらしい。翔希は溜息を吐きながら、右手を向ける。

「ん?」

「ライトニング・エクスプロージョン!」

 翔希たちの所属していた神殿教会(今は教団と名を改めている)は、他の魔術結社と比べても隔絶した権力を持っていた。その理由の一つがコレである。

 攻撃魔術限定ではあるが、技名のみで魔術が発動するのだ。他の結社の魔術では、殆どの魔術が戦闘で使用するには少々長すぎる詠唱を必要とするのに対し、強力な攻撃力を持つ魔術を一詠唱で発動出来る神殿教会の魔術は、結社同士の戦闘行為で常に優位に立つのには十分すぎる能力だった。

 特殊な効果こそ持っていないが、人と人との戦闘行為においては、特殊効果など必要ない。相手より早く、強力な攻撃を。極論だが、それさえ出来れば勝てるのだ。

「う、ええええええ!?」

 そして、今それを発動したのはカンピオーネである長谷部翔希。人間の魔術師百人分でも届かない圧倒的な呪力を内包する存在である。

 本来、カンピオーネには呪術や魔術などは殆ど効果がないのだが・・・圧倒的な攻撃力があれば話は別だ。ライトニング・エクスプロージョンに自身の持つ呪力を惜しみなく注ぎ込む翔希。深夜の海岸は、まるで絨毯爆撃でも受けたかのような惨状へと変化した。

「・・・これでもダメなのか。」

 『未来視』で視たドニは、多少焼け焦げているものの、それ以外のダメージは殆ど存在しない。攻撃力的には十分だった。他のカンピオーネや神々にすら通用するだろう。やはり、【鋼の加護(マン・オブ・スチール)】という権能は厄介すぎた。

「・・・仕方がない。やりたくなかったけど・・・。」

 そう言いながら彼は、先程から使用していなかった深い蒼色になった左目の能力を発動する。

「え・・・っな、何だこれ!?」

 土煙の中から飛び出してきたドニは、四方八方に剣を振り回す。傍から見たら錯乱したのかと疑われる映像だが、そうではない。翔希の権能【至高の魔眼】の能力である。今彼は、突然現れた数十人の腕利きの剣士と戦闘を行っている・・・と、思い込んでいる。

「な、何をしたんだい!?」

「幻影だよ。この権能のもう一つの能力。『対象に強制的に幻影を見せる』能力。敵の網膜に直接映し出す能力だから、例え目を瞑っても防げないぞ。」

 翔希の言葉を聞いて、ドニは剣を振るのを止めた。

「何だ、ただの幻影か。なら別に・・・え!?」

 その瞬間、ドニの左脇腹がパックリと裂けた。そこから血が流れてくる。

「なん・・・で・・・!?」

 ”黒の剣”での攻撃すら、ホンの少しの傷しか与えられなかった【鋼の加護(マン・オブ・スチール)】が、何故こうも深く傷ついたのか?しかも、それをやったのは、翔希の言葉を信じるのなら、ただの幻影なのだ。ドニは信じられない目で翔希を見つめた。

「生物っていうのは、認識に引っ張られるものだ。特に人間はな。例えば、深い催眠状態にある人間に、『コレは真っ赤に焼けた火鉢だ』と言って鉛筆を押し付けると、そこに水膨れが出来る事がある。つまり、自分の脳が、『火傷をした』と認識したから、体がその通りの行動をしたってことさ。・・・長々と語ってしまったが、要は、その幻影に斬られれば、お前の体も『斬られた』と勘違いして勝手に裂けるってこと。」

「・・・つまり、防御不可能の攻撃ってことなのかな?」

「そういう事になる。」

 目を瞑っても防御不可。体が鋼鉄になろうが雷になろうが、『攻撃された』と認識した瞬間自分の体が傷つくのだから回避不可。しかも、その幻影と戦っている間に翔希が攻撃してくるのだ。これほど極悪な権能もあまりない。

「まぁ、本来呪術とかが効かないカンピオーネや神々に強制的に幻影を見せるんだから、呪力の消耗は激しいんだが・・・。」

 と言いながら、翔希は”黒の剣”を構える。

「今、お前を倒すくらいなら、楽勝だぞ・・・?」

 コレはハッタリだ。今の彼は『未来視』と『幻影』の同時発動で、かなりの勢いで呪力を消耗している。全力で戦闘が出来るのは、あと十分くらいか。だが、倒しても倒しても現れる幻影に対処しているドニには、それを考える程の余裕はない。

「これ以上やるなら、本当の殺し合いになる・・・!」

(頼む!帰ってくれ!)

 内心祈りながら翔希はドニを見つめた。既に『幻影』は停止している。

「・・・・・・。」

 ドニの長い沈黙の後・・・

「う~ん・・・。今殺しちゃうと、勿体ないよねぇ。たった一柱のまつろわぬ神を殺しただけで、これ程の力を持ってるんだもんね。」

 うん!と自己納得すると、ドニは眩しい笑顔を向けた。

「今日はこれで帰るよ。次に会うときには、もっと強くなってね!僕ももっと腕を上げるからさ!」

 ハッハッハ!と朗らかに笑いながらドニは去っていった。翔希は、その後ろ姿をポカンと見つめ・・・

「アイツ、絶対自分が勝つと納得してやがった・・・!」

 恐らく、まだ隠している権能があるのだろうが、あの自信はムカついた。彼は、スッキリしない表情のまま、また海を眺めるのだった。
 
 

 
後書き
感想で、それぞれの主人公をひとりに絞ったほうがいいと言われました。
確かに其のとおりかも・・・。と思うのですが、どうしたらいいでしょう?
取り敢えず、その方法でいくとしたら、お・り・が・みの主人公は翔希かなぁ・・・。何か書きやすいし。
カンピオーネ!は護堂さんですかね。それとも、翔希を主人公として、それに護堂さんたちを噛ませる方向のほうがいいですかね? 
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