決め付けが生むもの
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第一章
決め付けが生むもの
彼には前科があった、それでだ。
高校生の成田成司大柄で鋭い目をして長方形の顔で髪の毛の左右と後ろは刈って上は伸ばしている彼は言った。
「あいつしかないだろ」
「今回の犯人はか」
「あいつか」
「あいつしかいないか」
「ああ、あいつ前科あってな」
それでとだ、成田は周りに話した。
「普段から評判悪いだろ」
「そうだな、確かにな」
「あいつは前にもああしたことやったしな」
「それで今も素行悪くてな」
「評判悪いしな」
「だったらあいつか」
「あいつがやったに決まってるだろ」
成田は断言した。
「だからまずあいつを調べるんだよ」
「そうするか」
「あいつに決まってるしか」
「それで証拠出たら間違いないか」
「あいつがやったってわかるか」
「だからまずあいつを調べような」
サークル内の盗難事件について言った、そして。
実際に周りと一緒にその疑わしい人物を全員で調べて証拠を手に入れようとした。そうしてであった。
動こうとしたがここでだった。
サークルの部長の奥平清正茶色のショートヘアで卵型の顔に大きな少し垂れた目に穏やかな感じの眉と微笑んだ口元の一七〇位の背で痩せた彼が成田達に言った。
「見込み捜査はよくないよ」
「けれど部長あいつ前科あるんですよ」
成田は奥平に真剣な顔で言った。
「人のもの盗んだ、それもです」
「何度もだね」
「しかも普段の行いもですよ」
これもというのだ。
「悪くて評判も」
「そうだね、しかしここは慎重にかつ公平に調べよう」
「誰が犯人か」
「幾ら前科があっても」
それでもというのだ。
「誰かを犯人と決め付けて取り調べを行って」
「そうしてですか」
「違ったらどうするかな」
「そいつが犯人じゃなかったら」
「真犯人がいたら」
「その真犯人が罪から逃れますか」
「そうなるよ、そしてその真犯人がね」
奥平はさらに話した。
「悪事をするかも知れないよ」
「言われてみれば」
「だからね」
「ここは、ですか」
「前科とか評判は全部忘れて」
そうしてというのだ。
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