勉強すればよくなる
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第一章
勉強すればよくなる
すこぶる頭が悪い、角田最市はよくこう言われていた。
「また赤点かよ」
「それも全教科か」
「あいつ本当に頭悪いな」
「そうだよな、うちの学校県内でも最下位だっていうのにな」
「そこで全教科赤点ってな」
「どれだけあれなんだよ」
周りもこう話した、兎角勉強が駄目でだ。
所謂馬鹿と言われていた、太っていて背は一六五位で芽は小さな吊り目で眼鏡をかけていて黒髪を左で分けている。勉強の出来なさが兎に角有名であった。
兎に角勉強が出来ない、だが。
その彼を見てだ、兄である大学生の友一は言った。彼も小さな吊り目で太っていて眼鏡をかけているし髪型も似ている。だが背は彼は一七〇位ある。
「あいつの勉強はよくなるよ」
「そうか?」
「そうなるのかしら」
「なるよ」
自分の両親にも言った。
「絶対に」
「そう言うけれどな」
「あの子はずっとああでしょ」
「小学校に入った頃からだぞ」
「成績はビリなのよ」
「それでな」
「よくなるかしら」
両親は疑問符を付けて言うのだった。
「あの子が」
「勉強が出来る様になるか」
「なるよ、あいつ次第で」
こう両親に言った。
「なるよ」
「そうなのか?」
「あの子次第で」
「そうなるよ」
「アルファベットの小文字も満足にわからないのにか」
「割り算出来ないのに」
「あいつ次第でなるよ」
友一の言葉は変わらなかった、だが変わらなかったのは彼の言葉だけではなく最市の成績もであった。
やはり県内でも有名な偏差値の低い学校でもだった。
最下位の方だった、そのまま卒業して海上自衛隊に入隊したが。
「あいつ三曹にはなれないな」
「勤務態度も評判も悪いしな」
「それ以上に試験に通らないぞ」
「あれだけ頭悪いとな」
「勉強出来ないにも程があるだろ」
「教える人が駄目出ししたらしいしな」
自衛隊の中でもこう言われていた、そして実際にだった。
彼は海士長になってもそこから中々昇進しなかった、海士長の上の三曹つまり下士官になれば定年まで自衛隊にいられるのにだ。
「万年士長だな」
「遂に三十になってそうなったな」
「このまま三十四までいて辞めか」
「そうなるか?」
自衛隊では三十四歳まで士長なら退職となるのだ。
「あいつは」
「よくある話だけれどな」
「あいつもそうなるか」
「まあそうなってもいいか」
「勤務態度も悪いしな」
こうしたことを言われていた、だが。
最市は三十四歳で合格した、それで奇跡と言われたが。
その話を聞いた友一、サラリーマンになっていて家庭も持っている彼は言った。
「もっと早いうちにな」
「三曹になれていたか」
「そうだったの」
「そうだよ、誰だって勉強すれば」
そうすればと両親に話した。
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