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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【プロローグ】新暦65年から94年までの出来事。
 【第2章】StrikerSの補完、および、後日譚。
  【第2節】JS事件と機動六課にまつわる裏話。(後編)



 さて、新暦74年の秋に、八神はやては二等陸佐になり、実験的な部隊の新設を正式に認可されました。
 年が明け、新暦75年も2月になった頃には、メンバーの選定もほぼ完了しています。
 そして、スバルとティアナの「陸戦Bランク認定試験」などを経た後に、通常の「年度はじめ」からは少し遅れて、機動六課はようやく正式に発足したのでした。
(実のところ、その認定試験の合否には関係なく、この二人のことは最初から機動六課に引き抜く予定でいたのですが。)
 隊舎はミッド地上の首都クラナガンにも近い海岸部に設けられましたが、形式上の所属はあくまでも「本局の古代遺物管理部」ということになります。


 そして、新人たちの基礎訓練が一段落した頃、機動六課は聖王教会から「ロストロギア回収」の依頼を受けて出張任務に出かけることになったのですが、その行き先は「偶然にも」地球の海鳴市でした。(笑)
【この件に関しては、「リリカルなのはStrikerS サウンドステージ01」を御参照ください。】

 機動六課は本来、(表向きは)「レリック専任」の部隊です。今回の回収対象も『レリックである可能性がゼロではない』ということで、六課に依頼が来たのですが、実際に現地で調べてみると、そのロストロギアは自律行動型の稀少個体、通称「プニョプニョスライム」でした。
『ちょっと厄介なだけで、さほど危険なロストロギアではない』と解ったため、『試しに新人だけで「無傷で」捕らえてみろ』という話になりましたが、四人は「それなり」の成長ぶりを見せて、このロストロギアを巧みに回収・封印します。
 そうして、機動六課の面々は無事にミッドチルダへ戻って来たのですが……その後、ティアナはスバルとともに、いわゆる「少し(あたま)冷やそうか事件」を起こしてしまったのでした。


 やがては誤解も解け、ティアナも涙ながらに謝罪してくれたのですが……その夜のことです。
 なのはが隊舎の屋上でベンチに座り、二つの月を見ながら一人で静かにカップ酒(?)を飲んでいると、そこへザフィーラが獣の姿のまま足音も無く歩み寄って来ました。
「なんだ。酒の匂いがすると思って来てみれば、お前か」
「ミッドでは、お酒は17歳から合法で~す」
 誰も責めてなどいないのに、なのは(19歳)はニコニコ顔で、そんな言い訳(?)をします。
 そして、ザフィーラが声も無く笑いつつ、ベンチの脇にまで歩み寄ると、なのはは、今度は妙にしみじみとした口調でこう続けました。
「いや~。新人の指導って、難しいな~」
「お前が、今さらそれを言うのか。教導隊に入って、もう何年になる?」
「何年やっても、難しいものは難しいんだよォ」
「まあ、今回は丸く収まって良かったじゃないか」
「おかげで、私は個人情報をバラされたけどね~」
「一般論だが、『上司は自分の武勇伝を語るより失敗談を語った方が、むしろ部下はよく伸びる』と言うぞ」
 ザフィーラは、まるで一連の状況を面白がっているかのような口調です。

 すると、なのはは無言でまた一口、酒を飲み……そこでふと何かを思い出したような表情を浮かべて、こう「逆襲」しました。
「ところでさ。話は変わるけど、ザフィーラ。足長おじさんは一体いつになったら、女の子に正体を明かすつもりなの?」
「ん?(ふと自分の脚を見てから)ああ。地球の慣用句か。……ちょっと待て! 何故お前があの件について知っている?」
「え~。はやてちゃんから、フツーに聞いたけど~」
 なのはが小児(こども)のような悪戯(いたずら)っぽい笑顔でそう答えると、ザフィーラは少し困ったような顔をして軽く溜め息をつきます。
「我が(あるじ)も、意外と口が軽いようだな」
「安心して、ザフィーラ。はやてちゃんの口が軽くなる相手は、私とフェイトちゃんぐらいのものだから」
 なのはは、そこでまた一口、酒を飲んでから、ザフィーラが何も答えずにいるので、さらにこう言葉を続けました。
「もしかして……六課でずっとその姿のまま、誰とも(しゃべ)らずにいるのも、ティアナに正体を知られたくないからなの?」
「いや。これは、ただ単に(あるじ)の指示によるものだ。この姿の方が、オレももう慣れているし、新人たちも取っつきやすいだろうからな」

 すると、なのはは何か面白いモノを見た時のような表情で『ふ~ん』と声を上げて、また不意に話題を変えました。
「ところでさ。ザフィーラって、どっちが本来の姿なんだっけ?」
「元々のプログラムでは、人間の姿の方が『本来の姿』なのだが……地球では、かれこれ七年ちかくもの間、ずっとこの姿で暮らしていたからな。今ではもう、魔力消費もこの姿でいた方がむしろ少なくて済むぐらいだ」
「でも、魔力消費なら、『子犬フォーム』の方がもっと少なくて済むんじゃないの?」
 なのはの少しからかうような口調に、ザフィーラはいかにも不本意そうにひとつ鼻を鳴らして、『アレは、慣れておらん』と答えました。
「オレは元々、不器用な男だからな。ヤツほど器用には生きられんよ」
 もちろん、ここで言う「ヤツ」とは、アルフのことです。
 彼女はフェイトの補佐官をスッパリと()めて、今では小児(こども)の姿でカレルとリエラ(3歳)の世話をしているのですから、ザフィーラから見れば、これは確かに「器用な転身」と(うつ)ることでしょう。

 なのはは『なるほどね』とばかりに小さくうなずくと、また話題をズラします。
「そう言えばさ。動物に変身する魔法って、実は結構、レアなんだね。私は、最初に出逢った魔導師がユーノ君だったし、アルフやザフィーラも身近(みぢか)にいたから、これって、ミッドじゃ、もっともっとポピュラーな魔法なんだとばかり思ってたよ」
「そうだな。オレやヤツは、そもそも人間ではないし……。ユーノのような通常の人間の中にも、動物に変身するスキルの持ち主など、探せばそれなりにいるはずだが……昔のベルカでも、決してポピュラーな魔法では無かった。このスキル自体は、捜査や探索にならばともかく、戦闘にはそれほど向いていないスキルだからな。
 中でも、『本来の姿よりも小さな姿に変身する』というのは……確かに、慣れてしまえば、魔力消費も(おさ)えられるのだが……『本来の姿よりも大きな姿に変身する』ことに比べて、技術的にはむしろ難しい魔法になる」

「そうなんだ。……ところで、『大きな姿』って、どれぐらいの大きさなの?」
「そう何倍にもなれる訳ではないぞ。せいぜい『小児(こども)が「将来の姿」を先取りして、大人の体格になれる』という程度のスキルだ」
「そう言えば、私、『オトナ変身』って言葉を聞いたことがあるんだけど?」
「ああ。正確には『大人モードへの変身魔法』だな。もちろん、多少の資質は必要だが、それは、さほど難しいスキルではない。ただ、基本的には『体格に応じて体力や魔力出力を底上げする』という魔法だからな。魔力消費も意外と多めで、一般に長時間は()たない。これも……時間に制限のある『試合』とかならば、まだしも……実際の戦闘には、あまり向いているとは言い(がた)いな」

 そんな会話の後、ザフィーラは先に部屋に戻ることにしました。
「あまり飲み過ぎるなよ。明日も仕事だからな」
「うん。この一本だけにしておくよ。て言うか、私が『母さん譲りの肝臓』の持ち主だってこと、ザフィーラもよく知ってるよね?」
「そう言えば、お前の母親も蟒蛇(うわばみ)だったな」
 何年か前の「地球での一件」(お花見の席でのレティ提督と桃子の飲み比べ)を思い出して声も無く笑いながら、ザフィーラは隊舎の屋上を(あと)にします。
 そして、なのはももう少しだけ月見酒を楽しんでから、寝室に戻ったのでした。

【以下、StrikerSの物語は、ほぼTVシリーズのとおりに展開します。つまり、翌7月には、ヴィヴィオが機動六課に保護され、9月には、いよいよ最終決戦が行なわれることとなります。】


 一方、クロノ提督はもう何年も前から犯罪結社〈闇の賢者たち〉の掃討作戦を進めていたのですが、まずは昨年のうちにその下部組織(テロ実行部隊)である〈炎の断罪者〉を殲滅し、この年の8月には、ついに〈管29ジルガーロ〉で〈闇の賢者たち〉の本体をも壊滅へと追い込みました。
(長らくこうした一連の案件に忙殺されていたせいで、クロノ自身は「機動六課」の活動にあまり深くは関与することができなかったのです。)
 最後の「基地殲滅戦」は熾烈(しれつ)を極め、単艦でそれに(のぞ)んだ〈アースラ〉は、その戦闘自体には勝利して、無事に〈本局〉まで帰投はしたものの、あまりにもあちらこちらが傷つきすぎていたため、とうとう「廃艦」が決定されました。

【ただし、ここで言う「廃艦」は、「武装などを(はず)した後、メンテナンス無しで放置される」といった程度の意味合いであって、必ずしも(ただ)ちに「解体処分」になる訳ではありません。通常の場合、次元航行艦は解体するにも相応の費用がかかるので、そのための予算が()りるのを待たなければならないのです。】

 そこで、XV級の新造艦〈クラウディア〉が、クロノ提督の新たな御座艦(ござぶね)となりました。
 また、9月12日の六曜日には、敵勢力の奇襲によって機動六課の隊舎が壊滅してしまったため、以後、〈アースラ〉は「最後のお(つと)め」として「機動六課の臨時隊舎」という役目を(にな)うことになります。


 そして、新暦75年9月19日の一曜日。ミッド地上では「一連のJS事件」における最後の決戦が行なわれました。
【以下の描写は細部において、原作とは微妙にズレておりますが、何とぞ御容赦ください。】

 まず早朝には、ドゥーエがスカリエッティの指示に従って、ついに「三脳髄」を殺害しました。彼女は声も無く、満足げな(うす)ら笑いを浮かべて、そのまま静かにその部屋を(あと)にします。
 しかし……ドゥーエは全く気がついてはいませんでしたが……実は、通風孔の内側から、小さな甲虫(むし)がその一部始終を見ていました。と言っても、もちろん、本物の甲虫ではありません。甲虫に偽装した、精巧な虫型のマイクロロボットです。
「それ」は、三脳髄の死亡を確認すると、即座にその際の映像情報を〈本局〉の三元老に伝えたのでした。

 その日、機動六課は「都市部での対テロ防衛戦」の方にも相応の戦力を()かなければなりませんでした。首都クラナガンの周辺で、六課は敵陣営と互いに「同格の駒」を潰し合うようにして、その戦力を()ぎ落とされて行きます。
 エリオとキャロは、ルーテシアやガリューと対峙(たいじ)し、スバルもまた「洗脳されたギンガ」との一騎打ちを()いられました。
 どちらも相応の時間がかかりましたが、(から)くも六課の側の勝利となり、ルーテシアもギンガも無事に保護されます。

 一方、ティアナは敵の結界で動きを封じられ、ただ一人、限られたフィールドの中で三人の戦闘機人(ノーヴェとウェンディとディード)の相手をせざるを得ない状況へと追い込まれました。
 しかも、姿は見えませんが、この結界を張っている「後方支援タイプの戦闘機人」がもう一人、どこかにいるはずなので、実質的には「四対一」の圧倒的に不利な状況です。
 しかし、そこへ不意に「念話で」メッセージが届きました。
《後方支援の戦闘機人は、こちらで排除する。お前は目の前の戦いに集中しろ。》
確かに、六年前に兄の墓の前で聞いた「あの」思念(こえ)です。
 何者なのかは、今はまだ解りませんでしたが、ティアナはその思念(こえ)(はげ)まされて、粘り強くその戦いを続けました。
 そして、「謎の人物」が後方支援のオットーを排除してくれたおかげで、また、ヴァイスの援護射撃にも助けられて、ティアナは残る三人に(から)くも勝利します。
 しかし、その一方で、ついにあの〈ゆりかご〉が起動してしまったのでした。

 ちょうどその頃、フェイトとシャッハとヴェロッサは、ゲランダン地方にある「スカリエッティのアジト」に突入していました。
 スカリエッティたちは、すでにこのアジト全体を〈ゆりかご〉の内部に転送すべく準備を進めていたため、周辺の警備はかなり手薄になっています。裏を返せば、手持ちの「少数精鋭の戦力」に相当な自信があるのでしょう。
 それでも、フェイトは激闘の末に、単騎でセッテとトーレを打ち倒し、さらにはスカリエッティ自身をも捕縛しました。
 シャッハもセインを捕らえ、ヴェロッサもウーノを捕らえて情報を引き出します。
 そして、一行はアジトの転送を阻止し、そのアジトの奥で「修理中」のチンクや「昏睡中」のメガーヌたちの身柄(みがら)をも確保したのでした。

 一方、シグナムは騎士ゼストとアギトを追って、ミッド地上本部の指令室へと突入しましたが、そこでは、レジアス・ゲイズ中将が「局員に変装したドゥーエ」に殺害され、そのドゥーエもまたゼストによって(たお)されていました。
 ゼストは元々、死ぬべき戦場(ところ)で死に(そこ)なった武人です。自身(みずから)の個人的な目的が達成された今、彼にはもう「あえて生き(なが)らえるべき理由」など何もありませんでした。
 ゼストは、シグナムにルーテシアとアギトのことを頼むと、『もはや思い残す事柄(こと)も無い』とばかりに、そのままシグナムと戦い、討ち取られます。
 シグナムにしてみれば、これは『(たお)した』というよりも、むしろ『介錯(かいしゃく)(つかまつ)った』といったところでしょう。

 また、その頃、なのはとヴィータは、はやてとの合流を待たずに〈ゆりかご〉の内部へと突入していました。
 ヴィータは単騎で〈ゆりかご〉の中央機関区に突入し、巨大な「メイン駆動炉」の破壊に挑みましたが、何故か機関区内部の自動防衛システムは作動していませんでした。おそらくは、遠い昔に聖王オリヴィエに破壊されたまま修復されていないのでしょう。
 駆動炉の本体はさすがに堅固でしたが、それでも、ヴィータはすべての魔力(ちから)を一気に使い切るほどの「渾身(こんしん)の一撃」で、かろうじてその本体に「小さな傷」をつけました。
 ヴィータは本当に魔力(ちから)が尽きて、ただ落ちて行きましたが、はやてはそこへ遅ればせながらも駆けつけ、空中で彼女の体をそっと抱き止めます。
 そして、巨大な駆動炉は『(あり)の穴から堤防(つつみ)が崩れる』ように、ヴィータがつけた小さな傷から大崩壊を始め、はやてとヴィータは大急ぎでその中央機関区から脱出したのでした。

 一方、なのはは侵入者迎撃役のディエチを返り討ちにして捕縛した後、ついに「玉座の間」へと突入して〈聖王モード〉のヴィヴィオと対決します。
 なのはは激闘の末、自分の寿命(いのち)を削るような「自己ブースト」まで使って、ヴィヴィオのリンカーコアに融合していたレリックを「莫大な魔力照射」で強制的に分離し、破壊しました。
 これでもう、残る敵は〈ゆりかご〉の奥底に身を(ひそ)めているクアットロただ一人です。


 さて、三脳髄は元々、「自分たちが脳髄のままで生存し続けるために必要不可欠である施設」を丸ごと〈ゆりかご〉の内部に転送させるつもりで、〈ゆりかご〉の船腹に広大なスペースを()けさせていました。
 しかし、スカリエッティはその指示に従うふりをして彼等の計画を流用し、自分たちのアジトを丸ごと収容できるようにそのスペースを改造していたのです。
 大昔には例のドローンたちの格納庫として使われていた空間(スペース)だったので、「ゆりかごの失われた諸機能を修復する作業」に比べれば、その空間(スペース)の改装そのものは実に簡単な作業でした。
 スカリエッティの側に幾度か「中途半端なドローンの運用」があったのも、『この空間(スペース)()けるためには、余分なドローンを事前に「ある程度まで」消費しておく必要があったから』だったのです。

 そのようにして「やや強引に」()けられたその広大な空間(スペース)の艦首の側には、今では〈ゆりかご〉全体を操作するための「仮設の艦橋(ブリッジ)」のような設備が整えられていたのですが、クアットロは、(ひと)りそこに(じん)取っていました。
 後方の「玉座の間」とは直線距離で1キロメートルちかくも離れており、しかも、両者の間には何枚もの重厚な隔壁が新たに(もう)けられています。
『だから、たとえ居場所を(さと)られたとしても、攻撃がここまで届くはずは無い』
 クアットロは最後までそう信じていたのでした。

 それでも、なのはは「自分の肉体(からだ)にのしかかる負担」など(かえり)みることも無く、手持ちのカートリッジをすべて使い切って、はるか彼方のクアットロめがけて渾身(こんしん)のスターライトブレイカーをブチ込みます。
 莫大な魔力の奔流は、すべての隔壁を問答無用で撃ち貫き、一撃の(もと)にクアットロの意識を深く刈り取りました。
 なのは自身もすでに疲れ果てていましたが、まだ普通に飛ぶ程度のことはできます。
 なのはは、今しがた自分で撃ち抜いたばかりの穴を通ってクアットロの許へ飛び、完全に意識を失っている彼女の体を回収して、またヴィヴィオの待つ「玉座の間」へと戻って来ました。こちらの方が、はるかに「脱出口」に近いからです。

 そこへ折り良く、ヴィータを抱いたはやても合流しました。
 しかし、そのタイミングで「玉座の間」の唯一の出入り口が唐突に隔壁で閉鎖され、つい先程、スターライトブレイカーで()けたばかりの壁の穴までもが自動で素早く修復されてしまいます。
 そして、大変に強力なアンチ・マギリンク・フィールド(AMF)が艦内の「居住区」全域に展開されました。先ほどのスターライトブレイカーで「仮設の艦橋(ブリッジ)」が破壊されたため、壊れかけの自動防衛システムが「不完全ながらも」作動したのです。

【なお、〈ゆりかご〉の「サブ駆動炉」は、ヴィータが破壊した「メイン駆動炉」に比べれば相当に小さな代物でしたが、それでも、通常の次元航行艦の魔力駆動炉に比べれば格段の大きさです。
 それら二基のサブ駆動炉は、当然ながら「居住区」の外側にあったため、AMFの影響を受けることも無く、〈ゆりかご〉はクアットロが最初にプログラムしたとおりに、そのまま上昇を続けたのでした。
 ただし、あくまでも「サブ」なので出力は不十分でした。結果として、〈ゆりかご〉の動きは、スカリエッティたちの想定よりも「さらに」ゆっくりとしたものになったのです。】

 魔法が全く使えないのでは、これほどの隔壁はとても破れそうにありません。
 なのはたちにとっては絶体絶命の窮地でしたが、そこへティアナとスバルが大型のバイクで駆けつけました。戦闘機人のスバルが振動破砕で隔壁をブチ破って来たのです。
(ウイングロードもまた、ISであって魔法ではないので、AMFの影響は受けませんでした。)
 一同は全員でそのバイクに乗り、途中でディエチをも回収した上で、〈ゆりかご〉の中から脱出しました。8人乗りは明らかに定員超過でしたが、AMFの外に出てしまえば、なのはとはやては自力で飛べるので、それ自体は大した問題ではありません。
〈ゆりかご〉は何故か非常にゆっくりと飛行しており、この時点でも、まだ成層圏にすら到達していなかったので、なのはたちは普通に助かりました。
 成層圏では魔力素も薄く、大気そのものも大変に希薄なので、もしもこの時点で〈ゆりかご〉がすでに成層圏にまで上昇していたら、特にティアナやヴィヴィオは、低温と減圧で(のど)や肺などが決して無事では済まなかったことでしょう。
 あるいは、スカリエッティのアジトを丸ごと転送するためには、〈ゆりかご〉が低空を超低速で飛行していることが絶対に必要な条件だったのかも知れません。
 それはともかくとして、〈ゆりかご〉は全くの無人となった後も、サブ駆動炉だけでゆっくりと上昇を続けていったのでした。


 なお、この巨大な次元航行艦が〈ゆりかご〉と呼ばれていた理由は、古代ベルカ聖王家の人々の多くが……決して「すべて」ではないけれども「多く」が……「この艦の中で遺伝子を調整され、(らん)の段階から小児(しょうに)の段階まで一貫して、この艦の特殊な培養槽(ばいようそう)の中で育てられた人間」だったからです。
 基本的には、そうやって生まれた子の方が身体的にも魔力的にも優秀であり、それ故、当然に「聖王家における、王位の継承順位」も高く、また、〈ゆりかごの玉座〉への適合率も高くなっていました。
 だから、普通に母親の(はら)から産まれたオリヴィエは、幼児期の魔導事故で両腕などを欠損するまでもなく、最初から「継承順位の低い子」と見做(みな)されていたのです。
(だからこそ、シュトゥラ王国へ送られたりもしたのです。)
 彼女の「ゆりかごの玉座への適合率」が100%を超えていたのは、あくまでも「極めて例外的な事例」でした。

【この辺りの事情に関しては、Vividのコミックス第11巻を御参照ください。
なお、第二部では、「オリヴィエの遺産」とも言うべき彼女の聖王核が、いささか重要な(?)アイテムとして登場する予定です。】

 そして、実を言うと、その培養槽(ばいようそう)は、スカリエッティの手によって部分的に修復されており、そこでは(ひそ)かに〈管理局の創設者たち〉の特殊なクローンが培養されていたのです。
 しかし、ドゥーエが〈三脳髄〉を抹殺した直後に、それらの培養体もクアットロによって破棄されていました。

【ごく大雑把に言えば、三脳髄の計画は、『それらの「培養体」のリンカーコアにレリックを融合させた上で、単に自分たちの「記憶」をその脳に転写するのではなく、自分たちの「意識」を丸ごと上乗せすることによって、自分たちの「本体」は別個に維持したままで、その培養体をいわゆる「アバター」として(自分の意思で自分の肉体(からだ)のように動かせる「新たな肉体」として)自在に使役することができるようになる。そこで、そのアバターとともに〈ゆりかご〉でベルカ世界へと赴き……』といった内容でした。】

 だから、なのはたちが脱出した時点で、〈ゆりかご〉の中にはもう「生命反応」は全く存在していなかったのです。
〈ゆりかご〉は、なのはたちが使った脱出口も()けっ(ぱな)しのまま、成層圏へと上昇して行きました。
(空気の流出に対しては、艦内通路の隔壁だけで対処したようです。)


 
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