イベリス
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第百二十二話 知れば知る程その十
コーヒーに入れて掻き混ぜた、そのうえで一口飲んで言った。
「一つで」
「甘くなるよな」
「最近それもわかってきました」
「コーヒーって苦いけれどな」
「そこにお砂糖を入れますと」
「やっぱりな」
それでというのだ。
「違うんだよ」
「そうですね」
「地獄の様に熱く絶望の様に黒く」
マスターはこの言葉も出した。
「天使の様に純粋で恋の様に甘いってな」
「確かその言葉はフランスの」
「タレーランが言ったんだよ」
「ナポレオンの家臣だった」
「侍従長で外交の柱でな」
「物凄く有能だったんでしたね」
「とんでもない悪人だったけれどな」
マスターはタレーランのこのことも話した。
「謀略家で賄賂取って女好きでな」
「確かナポレオンも陥れましたね」
「フーシェと一緒にな」
同じくナポレオンの家臣で警察大臣、内政の柱であった。
「それまで仲悪かったのにな」
「ナポレオンを陥れる為にですね」
「手を結んでな」
「本当に陥れましたね」
「ナポレオンですらな」
英雄と言われた彼をもというのだ。
「そうした悪人でな」
「有能な人でしたね」
「まあ普通に付き合うことは出来て紳士で約束は守ったそうだけれどな」
賄賂を貰っても出した方の願いを適えられなかったら返したという、尚タレーランもフーシェも私人としてはそれなりに人望もあったという。タレーランは友人が多くフーシェは教師時代の生徒達から慕われていた。
「だからお付き合いはな」
「プライベートならですね」
「これといってな」
「問題はないですか」
「ああ、ただな」
それでもというのだ。
「政治家としてはな」
「とんでもない人達ですね」
「ああ」
このことは否定出来ないというのだ。
「謀略家でな」
「賄賂も取って」
「ナポレオンだってな」
英雄であった彼もというのだ。
「陥れたからな」
「それ凄いですね」
「そうだろ、それでその片割れの人がな」
「タレーランですね」
「その人の言葉だよ」
「恋の様に甘い、ですか」
「ああ、この言葉をな」
まさにというのだ。
「言ったんだんだよ」
「けれどコーヒーは普通に飲んだら」
砂糖を入れずにというのだ。
「やっぱり」
「苦いよな」
「本当に」
「けれどな」
それでもというのだ。
「お砂糖とかミルクを入れたらな」
「甘くなりますね」
「そうなるんだよ」
その様に変わるというのだ。
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