傀儡
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第三章
渡部は無職になってからかつての腹心達会社の重役であった彼等に言った。
「あいつは何でも前からな」
「ああだったんですね」
「責任感が全くなく」
「何も仕事をしない」
「そんな奴だったんですね」
「後で調べるとな」
それでわかったことだがというのだ。
「仕事はどんなことでも全く出来なくてな」
「ああした無責任というか」
「責任把握能力がない」
「何も出来ないし余計なことしか言わない」
「そんな奴だったんですね」
「ああ、あいつの上司も同僚も部下も知っていたらしい」
苦い顔で言うのだった。
「既にな」
「俺達だけが知らなかった」
「そういうことですね」
「あいつがどんな奴か」
「ああ、だから俺達はこうなった」
渡部は苦々しい顔で言った。
「大企業の役員、重役だったのがな」
「今じゃ無職です」
「再就職もままなりません」
「家でも女房子供から白い目です」
「俺なんか離婚されそうです」
「近所付き合いもしてもらえなくなりました」
「俺は昨日娘に死ねと言われた」
渡部は自分の家庭のことを話した。
「凄い顔でな、そして言い返せなかった」
「ですよね」
「もう何もないですよ」
「これからどうなるか」
「わかったものじゃないです」
「まともな社長だったらな」
自分達が据えたのがとだ、渡部は心から後悔して言った。
「傀儡でもな」
「はい、それが務まる位のです」
「そんな奴だったらです」
「こうはならなかったですね」
「俺達も」
「会社もな、確かに偉そうにしていたが」
会社の中でというのだ。
「皆愛着はあっただろ」
「ありましたよ」
「ずっと働いてきてです」
「何十年もいました」
「色々ありましたし」
「愛着がない筈がないです」
「そうだったな、会社をよくしたいとも思っていたしな」
渡部にしてもだ。
「俺なりに」
「俺もです」
「俺もですよ」
「俺もでした」
「皆そうでしたよ」
「俺達なりに思っていました」
「俺は権力も好きだったが会社をよくしたいとも思っていた」
その両方があったというのだ、自分の中に。
「そうだったがな」
「ええ、それで余計なことを言う奴が社長になればです」
「厄介だと思いました」
「それであいつを社長にしましたが」
「お飾りとして」
「傀儡でな、しかし傀儡もな」
こう呼ばれる存在もというのだ。
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