イベリス
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第百二十一話 毎日見たいのでその八
「けれどな」
「そうした場合はですか」
「していてな」
それでというのだ。
「聞かせてもらうな」
「そうなんですね」
「ああ、だからな」
「そうした時はですね」
「俺でよかったらな」
「お話すればいいですね」
「何でもな、聞くだけでもな」
ただそれだけでもというのだ。
「いいよな」
「そういえばお話って聞いてもらえるだけで」
咲はマスターの今の言葉に気付いて言った。
「違いますね」
「そうだろ」
「それだけで」
「そうなんだよ、アドバイス貰えても嬉しいけれどな」
「悩みや苦しみ、悲しみを聞いてくれるだけで」
「人間は有り難いんだよ」
そうだというのだ。
「救われるんだよ」
「胸のつかえが取れるってことですか」
「ああ、だからな」
そうしたものだからだというのだ。
「話を聞いてくれる人がいたらな」
「それだけで有り難いですね」
「俺は若しアドバイス出来なくてもな」
その場合でもとだ、マスターは咲に話した。
「聞かせてもらうからな」
「そうしてくれますか」
「最初から最後までな」
それこそというのだ。
「じっくりとな」
「そうですか」
「だからな」
それ故にというのだ。
「本当にな」
「若しもの時はですね」
「ツケでもいいからな」
コーヒー若しくは紅茶の代金はというのだ。
「来てくれよ」
「そうさせてもらいます」
咲も確かな声で応えた。
「私も」
「そういうことでな」
「宜しくお願いします」
「ああ、あとどんな辛いこと苦しい時があってもな」
マスターはこうも言った。
「それは一時だよ」
「終わるんですね」
「絶対にな」
そうしたことそれに時はというのだ。
「そうなるからな」
「だからですね」
「ああ、絶望することなくな」
「やっていくことですね」
「いたんだ、知り合いで」
ここでだ、マスターは苦い顔になって話した。
「奥さんと折り合いが悪くなってな」
「それで、ですか」
「もう何から何まで言われる様になって」
そうしてというのだ。
「鬱になって絶望してな」
「あの、まさか」
「多くは言わないさ」
咲にこう前置きして答えた。
「嬢ちゃんが思ってる通りだよ」
「そうですか」
「それ位なら一時的でも逃げたらいいんだ」
「逃げることもいいですね」
「逃げたら駄目な時があってもな」
それでもというのだ。
「どうしてもって時はな」
「逃げることですか」
「どうしようもない、そうしないとやっていけないならな」
そうした時はというのだ。
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