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美形兄の現在

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第一章

               美形兄の現在
 荻野優の兄である幸一はかつては美形として学校で女子達から人気があった、細面で優し気な中性的な顔立ちで茶色の髪の毛は鳥の巣の様で一七五位の背ですらりとしている。
 子供の頃から評判で大学生になってもそうだった、だが。
 OLになった妹は自衛官になった彼を見て首を傾げさせて言った。
「あの、自衛官ってね」
「よく身体動かすね」
「それでね」 
 二重の切れ長の吊り目で濃い色の眉は奇麗なカーブを描いている、形のいい顎で黒髪を長く伸ばし紅の大きな唇である。背は一六四程でスタイルはいい。職業は図書館の書士である。
「何で今はね」
「いや、幹部になって」
 妹に実家に帰った時に笑って話した。
「他の国の軍隊で言うと士官だね」
「管理職よね」
「言うならね、それで潜水艦に配属されて」
 穏やかな顔で言うのだった。
「狭い中でずっと食べるけれど」
「身体動かさないの」
「狭い中にずっといて」
 潜水艦の中は狭いことで海上自衛隊では知られている。
「そんな風だから」
「太るの」
「それで三十になったら」
「三十一ね、今」
「急にね」
「中年太りね」
「それでだよ」
 その全体的にふくよかな身体で言うのだった。
「こうなったんだ」
「全く。昔はあんなにすらりとしてたのに」
 妹はそんな兄を見て口をへの字にさせて述べた。
「それがね」
「太ったっていうんだね」
「そうよ」
 まさにというのだ。
「面影は残ってるけれど」
「それでもなんだ」
「太ったわね、自衛隊に入ったら」
「身体鍛えるのも仕事のうちだしね」
「それで実際に身体動かすのに」
 そうした職業だがというのだ。
「そこまで太るなんて」
「今九十キロだよ」
「大学時代七十キロだったのが」
「二十キロ太ったね」
「かなりね、中年太りで潜水艦に乗って」
「あと幹部って座ってするお仕事多いしね」
 所謂デスクワークである。
「作業は基本監督だから」
「身体動かさないの」
「それでだよ」
「太ったのね」
「そうなるね」
「全く、学生時代は痩せていて美形で」
 妹は今度はやれやれという顔で話した。
「しかも自衛官になったのに」
「太るなんて」
「予想外よ、けれど結婚してるし」
「奥さんにも言われるよ」
 小柄で大きな目で茶色がかった髪の毛をボブにしている彼女を見て話した。
「美奈代さんからもね」
「お家にいる時はいつも私のご飯美味しいって言って食べてくれるの」
 その妻も言ってきた。 
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