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歩いて自転車に乗って

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第一章

                歩いて自転車に乗って
 松井治五郎は定年してから毎日朝と夕方は雨が降っていても散歩する様にしている、そして買いものもだ。
「遠いでしょ」
「遠くてもな」
 妻の日紗子に話した、二人共穏やかな顔立ちで背はそれなりだ。白髪になっていて治五郎の髪の毛はかなりなくなっている。
「どうしてもという時以外はな」
「自動車じゃなくて」
「自転車で行くよ」
「そうするのね、毎日歩いて」
 実はそちらは妻も一緒だ。
「自転車にも乗って」
「運動しないとな」
 夫は妻に話した。
「やっぱりな」
「駄目ね」
「ああ、そう思ってな」
「定年してからなのね」
「意識してだよ」
 そのうえでというのだ。
「歩いて自転車に乗って」
「身体動かしてるのね」
「だから今もな」
「自転車に乗って」
「行って来るよ」
 こう言って買いものに行った、兎角だった。
 彼は意識して歩いて自転車に乗って身体を動かしていた、そうしていたがある日妻は夫に夕食を食べている時に尋ねた。
「何で定年になってから余計に歩く様になったの?」
「自転車に乗ってか」
「働いてる時はそんなにね」
「身体動かす様にしていなかったな」
「そうだったわね」
「いや、あの頃は営業で毎日外で歩いていて」
 夫はおかずのせせりと南瓜を煮たものを食べつつ応えた。 
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