最期の祈り(Fate/Zero)
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銀色の真実
フランスの首都パリの郊外。その中でも、少し淋しい場所に「泰山」はあった。その店の主旨は「辛い」その一言に尽きる。店長のジョージ・ナカタ氏は25年間の修行全てを唯それだけの為に費やしてきた。
「私には、誰も幸せにすることは叶わない」
早くから自身の限界に気付いた氏は、せめて誰もが辛いと言えるような料理を作ろうとした。
――怒りも憎しみも 、嘆きも絶望も覆い尽くす程の辛さを。食べている最中は辛いが、食べ終わった後本人と合わさり「幸せ」になれるように――
唯、それだけを望んで辛さを……麻婆豆腐を追い求めた。彼の戦いは全戦全勝だった。どんな客も食べている間は全てを忘れることが出来た。やり方は少々……どころかかなり問題アリだろうが、その信念に陰りは無かった。私の麻婆豆腐は絶対に、誰の心にも刺さり、解す事が叶うはず。そう信じて疑わなかった……少なくとも、3年前までは。
今、またジョージ店長及び「泰山」のスタッフはその表情を苦々しく歪めていた。
「龍之介〜、何故あの場で言ってしまったのです?」
「泰山」のスタッフ、ジョージ・ナカタ、青髭、そして龍之介は「シャルル」の秘密を知っていた。彼等とシャルルが出会ったのが3年前、シャルロットが「シャルル・デュノア」になったのが2年前。事情は聞いていた。
「ん〜でもさ、やっぱアレ可笑しいよ」
「と、言うと?」
やはり険しい顔のまま、尋ねるジョージ。彼も青髭も、龍之介の行為が意図的なものである事には気が付いていた。ただ、その意図が解らない。
「幾らシャルロットちゃんだって、旦那の麻婆豆腐3人前食って顔色一つ変えないなんて……絶対に自分がシャルル君で在ることに苦しんでるよ」
「むむ……」
そう言われると立つ瀬がない。氏の料理ですら彼女の苦しみを一時忘れさせる事すら叶わなかったのだから。
しかし、
「何も他人の前で言う必要も無かったのではないか?」
そう。これは彼女のトップシークレット。シャルロットとしての人生を破壊するかもしれない。
「いや、自分が女の子だって言えないのも十分辛いよ。……「彼」の前じゃ特にさ……」
「龍之介、失礼ながら……何故、あの少年の前だとその様な事に……」
「……ふむ。成る程な……いやはや、彼女も若いという事だよ」
青髭は頭を捻るばかりだが、ナカタ・ジョージは何かに気付いたのか笑みを浮かべた。
「よーするに、シャルロットちゃんは切嗣君にホの字だってこと!」
「お、おお……!そう言う事だったのですか!」
龍之介が教えるまで本当に気付かなかったのか青髭は感極まった声を上げた。しかし、それは次の瞬間怒りに変わった。
「何と憐れな……初めての恋を遂げるどころか告げる事すら叶わぬとは……神よ!貴方はどこまで残酷であらせられるのか!?」
「……やりきれんな」
答えるジョージの声も暗い。
当然だろう。先程青髭の神に対する暴言が全てを語っている。だからこそ龍之介は敢えて全てをぶちまけたのだろう。人生のやり直しは、まだどうにかなる。だが、恋は……初めての恋はどうなる?それを叶えられずに去っていく辛さは筆舌に尽くしがたい。なればこそ龍之介は全てを語ったのだろう。
「それに、彼なら何とかしてくれるよ」
そう言うと、龍之介は優しく笑った。
sideシャルロット
「……はぁはぁ」
バレた。一番気付いて欲しくて、一番知られたくない人に知られてしまった。
龍之介さんが僕が「シャルロット」であると言ったその後、切嗣を置いて逃げ出してしまった。全力で走って、呼吸するのも辛い。でも止まれない。今止まれば、切嗣と会ってしまうかもしれない。
――もし、切嗣に拒絶されたら?――
嫌だ!!そんなの絶対に嫌だ!!
まだ切嗣と一緒にいたい。切嗣の事をもっと知りたいし、切嗣にもっと多くの事を知って欲しい。もっと、切嗣と……
…………
何時間も走って歩いて、走ってを繰り返した末、気が付くと、いつもの見慣れた公園に立っていた。
「……」
ふらふらと近くのブランコに近づいていく。それは相変わらずの不協和音を鳴らし、僕を迎え入れた……まるで、ここが僕の居場所だというように。
そのままブランコに腰を降ろす。雨が降ったわけでも無いのに、湿っていた。
ふと上を見上げる。もう太陽は沈みきり、空には銀色の月が空を蹂躙していた。
「何で……どうしていつも奪うんだ!?」
思わず叫んでしまった。世界は優しくなんか無い。優しければ、母さんや……切嗣を奪ったりしない。いつの間にか頬を涙が濡らしていた。
「何をしたって言うんだ!
いったい僕が何を……」
怒りを、天高く在る月にぶつけた。しかし、それは届くはずもなく消え去る。
――憎い。大切な人を奪っていく世界が憎い。まるで嘲るかの如く高く輝く月が憎い――
しかし、どれ程憎もうと、絶望しようと世界は何も応えない。世界は優しく何かないから。
しかし彼女は未だ気付かない。優しさを返すのは世界何かではなく、いつも人だということを。
「そうだ。君は何もしていない」
返る筈の無い答えが返ってきた。
「きり……つぐ?」
振り返ると息を切らした切嗣が立っていた。
丁度雲で月の光が隠れて彼の顔が分からないのが恐かった。もし、怒っていたら?嘲笑っていたら?
「い、いや!」
想いは形となり表れた。
――拒まれたく無い。受け入れて欲しい――
もう無理だと分かっているのに、それでも諦めたくないと渦は大きくなる。
「……うっ、たす……けてよ……切嗣」
……切嗣は、何も言わず此方に寄って、
「……え?」
ただ、手を差しのべた。
「おいで」
一言、そう添えて。
「いいの……?」
恐る恐る手を伸ばす。思わず確認してしまう。
「本当に……いいの?僕……」
でも最後まで言い切れなかった。切嗣が手を握ってくれた。
その時になって、漸く切嗣の顔が見れた。雲が晴れ、月に照らされた彼の顔は……泣いていた。
そこまでが限界だった。
「う……うぁ……」
涙が……叫びが止まらず、切嗣の腕にすがって泣いた。
「あぁぁ……!」
切嗣は何も言わず、黙ってなすがままになってくれた。それだけで、どれ程……救われたか。
――――――――――――――――――――――――
「切嗣は……怒って無いの?」ひとしきり泣いた後、僕は今、切嗣と公園のベンチに座っている。……ベンチが思ったより小さかったので、必然と体が密着している。
「怒っているとすれば、それはシャルロットの回りに居た人間……君を苦しませた人達に対してかな」
「どうして?僕は切嗣を騙してたんだよ?」
「ふふ、まぁシャルロットが女の子じゃないかっていうのは薄々勘づいていたから……騙しただなんて考えなくていいよ」
「そ、そうなんだ……」
出会ってほんの数日でばれてる……でも、それを聞かされてもさっきまで感じていた恐怖は消えていた。それに何だか嬉しい。
「それに騙すのは僕の専売特許だ。今更気にしないよ」
「あ、あはは……」
つい苦笑が漏れる。騙すのが得意って……
「だからシャルロットは余計な事は考えなくて大丈夫だよ」
切嗣は息を吐き出すように笑った。
「……でも、駄目かもしれない」
僕が女だとバレた以上、フランス政府が黙っていないだろう。一応、純粋な実力で代表候補生にはなっているが、虚偽の申告をしてしまった以上それも怪しい。
でもいい。少なくとも切嗣はシャルロットを受け入れてくれた。なら、思い残す事は無い。そう、その筈。
「何を泣いているんだか……」
そう考えた矢先、呆れ口調で切嗣が呟いた。
「え?」
また頬を涙が伝っていた。
「大方、フランス政府の干渉があるから日本に行けないと考えていたんじゃないかい?」
「そ、それはそうだけども……!」
はっきり言って、こればかりはどうしようもない。嘘を付いていたのは完全に此方の非だし、誰に何と言われても文句は言えない。
「忘れた?僕の専売特許はなんだったか」
「騙す事って……まさか!?」
思わず叫んでしまう。騙すって……フランス政府を?
「政府を敵に回すつもり!?だ、駄目だよ!そんなことしたら切嗣まで……」
「大丈夫だよ。……一度学園に入ってしまえば、基本的に何処の国も干渉は出来ない。だから、それまで女の子だってばれなければ大丈夫だから」
そうは言っても限度が在るだろう。無理矢理にでも介入して来るはず……
「まだ、不安が残ってる見たいだね」
「当然だよ。もし仮に上手くいっても、切嗣が目を付けられたら……」
しかし、僕が言い終わらない内に「やれやれ」と言ってベンチから立ち上がった。
「そういえば、僕はシャルロットに一つ言って無い事があったね」
「言って無い、こと?」
「うん……僕はね」
銀色に輝く月を背に切嗣は告白する。
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「魔法使いなんだ」
後書き
一番最後に、stay night の有名なシーンを入れてみました。
えーと、本当は第一話で書くべきことなんですけど書き忘れてしまったので、今書かせて頂きます。
これは僕の処女作品です。なので誤字脱字は兎も角、文法及び文章は余りにも拙いと思いますので、至らない点が在れば指摘してください。今後ともよろしくお願いします。
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