リュカ伝の外伝
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またまたマリオネット・マリー
前書き
ヘッポコハートの子守歌には
幻の3番が存在しますw
(グランバニア城:国王執務室)
ピエッサSIDE
「え~っとぉ……あのぉ~……実はぁ~……」
日頃の行いの所為か、中々言い出せなくて歯切れが悪い。
陛下は忙しいみたいだから、早く言っちゃってほしいわ。
「あ……そ、それより先刻『新曲』って言ってたけど、如何な曲!? 聴きたいわぁ~」
あからさまに話をはぐらかしたわ。
「……いいよ。聴かせてやる」
一瞬だけ何かを考えてから承諾。
本当は早くしてほしいのだろうけど、マリーちゃんから言わせないと意味が無いことなので、陛下は我慢して『新曲』を聴かせるみたいだ。
そして徐にアカペラで歌い出した。
♪ちっちゃな頃からクソガキで♫
♪15で王家に返り咲く♫
♪ナイーブみたいに言われたが♫
♪やる事なす事、仇(アダ)になる♫
♪ああ、分かってくれたの嫁だけだ♫
♪そんなにオレはヘッポコか?♫
♪ララバイ、ララバイお休みよ♫
♪ヘッポコハートの子守歌~♫
♪恋したあの娘(こ)が気になって♫
♪獄卒相手に喧嘩売る♫
♪あっという間に囲まれて♫
♪力任せに、殴られた♫
♪ああ、分かっていたけど弱かった♫
♪こんなにオレはヘッポコだ!♫
♪ララバイ、ララバイお休みよ♫
♪ヘッポコハートの子守歌~♫
♪オヤジが過労で死んだのさ♫
♪とっても良い父だったのに♫
♪脱獄した後知ったから♫
♪青春アバよと、泣いたのさ♫
♪ああ、分かっていたけど最悪だ♫
♪奴隷のオレはヘッポコだ!♫
♪ララバイ、ララバイお休みよ♫
♪ヘッポコハートの子守歌~♫
「どう?」
歌いきり感想を求められる。
曲は良いが歌詞が最悪だ。
でも私の口からは言える訳無い。
「ギザギザハートの子守歌ね……良いわね」
良くない。
「ううん。『ヘッポコハートの子守歌』だよ。良いでしょ」
絶対に良くない。
「でも3番はヤバくない?」
「そう?」
「流石にオヤジの死は……」
「……そう? 僕なんか目の前で死んだよ」
「リュカさん……その歌をこれから行く先の大親友に聴かせるんですよね?」
「うん、そうだよ」
「止めて下さい。絶対にヘンリー陛下がブチ切れます!」
「何で? ヘンリーの名前は出してないよ」
「“ヘッポコ”って言ってるじゃないですか!」
「ヘンリーは“ヘッポコ”って名前じゃないよ」
「あんた普段から『HH』って呼んでるじゃないですか!」
「……記憶にございません」
「今までの記憶はもう良いですけど、これからの発言には留意して下さい!」
「分かった……3番は幻の歌詞にしとく」
「全部だよ!」
「……分かった。検討します」
“検討”するだけ?
「さてさてマリーさん。ご希望通り新曲は教えてあげた。次は君の番だよね?」
「当番制?」
「おいマリー! 俺達も暇じゃ無いんだから、サッサと欲望吐き出して叱られろ!」
「え、何? 叱られる様なことを言いに来たの?」
「ち、違うわよ! 別に悪い事じゃ無いモン!」
「じゃぁ何?」
「“印税”が欲しいの!!」
「印税!?」
確かに叱られる様な事ではないが、ストレートすぎるマリーちゃんの考えに流石の陛下も苦笑いが浮かび上がる。
「リュカさん……如何やら最近、音楽界隈ではマリピエの影響でポップスミュージックを演奏する者達が頻発しているそうなんです。でも流行の発信源であるマリピエの様に、自らはオリジナル曲を作り出せない愚か者共は、既に才能を開花させて世間に素晴らしい楽曲を発表しているマリーの曲を無断で使用して金儲けをしている輩が大勢いるそうです」
「でもそれはマリピエの作り出す曲が素晴らしいから、リスペクトを兼ねて普段コンサートには行けない方々にも届けてあげてるだけなんじゃないのかな?」
「確かに世の中に素晴らしい音楽があることを広めて、尚且つ自身の成長を促進させてるだけであれば問題は無いのでしょうが、連中はそこに幾ばくかの金銭が絡んできてるんです。リュカさんはご存じないかも知れませんが、ストリートミュージシャンは正式な職業では無く、金銭の授受は支払う側の意思に委ねられてるんです。だから金額は低くても、他人の功績で報酬を得ているんですよ」
「でも素晴らしい曲を広めたくなる気持ちは解るだろ?」
「別にその気持ちを否定してるのではなく、他人の功績で財産を築こうとしているのが問題だと思います。斯く言うこの生意気そうな女(アイリーン)も、仕事先のナイトバーで夜な夜なマリピエの名曲を勝手に披露して報酬と名声を得ているんです。その内『私が作った曲だ』とか言い出しかねませんよコイツ」
「え~……彼女はピエッサちゃんのお友達でしょ? そんな事する様な娘には見えないけどなぁ~」
「リュカさんは女に甘いからそう見えるんですよ。俺には分かります……コイツは何時かは盗作をするだろうって!」
「このやろう……」
予定通り“作詞”や“作曲”をした者の権利を守る為の法を作る為の小芝居なのだが、性格の悪い閣下から受けなくても良い被害を受けてしまうアイリ。
本当に前科があるだけに強くは言い返せない様子……まぁマリーちゃんは知らないから、話をややこしくしない様に大人しいだけかも。
「う~ん……まぁ言わんとしていることは理解出来たけど、具体的には如何したいのマリー?」
「えっ!? あ~……え~っと……だからね……」
陛下と閣下の舌戦だと思い、高みの見物をしていたから、急に話を振られて戸惑うマリーちゃん。何所までも他力本願だな。
「アレよ、アレ!」
「ドレよ、ドレ?」
『アレ』ではなく、如何してもマリーちゃんから言わせたい言葉がある。
私達が宰相閣下の下へ赴く前に発したアノ言葉。
「ちょ……著作権……的なモノを……作り出して欲しいなぁ……なんて(テヘペロ♥)」
マリーちゃんの性格(内面)を知らずに、この上目遣いでの仕草を見たら男女関係なく大概の者は惚れてしまうだろう。
隣に立ってる宰相閣下などは鼻の下が伸びている程だからね。
でも目の前のお方は、この美少女の父親だ。
他人になら効果のある仕草でも陛下には効き目が無い……普段であれば。
今回は違う。
「そっか~……著作権かあ~……確かに制定しとく必要があるかもね著作権法」
「で、でしょでしょでしょぉ~! 別にぃ~、他人が作った曲を披露しちゃダメってワケじゃぁ~、無くてぇ~……最初に作った人の功績に報いましょうって事なのよぉ~♥」
「うん。それ凄く重要!」
「流石パパぁ! 分かってくれると思ってたわ」
嘘吐け。叱られるのが怖くて言い出し辛かったクセに。
「音楽関係だけじゃ無いよな。最近魔技高校の生徒が頑張ってくれていて、色んな道具を発明しているし、それら全てを保護する目的で『特許』ってモノを制定しちゃおう。“特許庁”を設立して、その中で“著作権法”を運用すれば良いんだし」
「わぁ素敵。流石パパぁ♥」
こういう時だけ可愛らしく『パパぁ♥』とか言って陛下の腕に抱きつく。
そういう性格だから嫌われるのよ。
「いやぁ~……そんな……照れるなぁ……」
あの巨乳を腕に押し当てられてデレデレと照れてる陛下……でも目は笑ってない。
完全にマリーちゃんを煽ててるだけだ。
「よ~し。出来上がった著作権法は、制定に多大なる尽力をしてくれた人物の名前を充てちゃおうぜ」
「え~、誰だれぇ~?」
陛下はもっと巨乳なリュリュ様から抱きつかれてもデレデレしない。
何故、煽てられてるって気付かない?
「うん。特許の法は別にして音楽関係……作詞と作曲に関しては『マリー法』と呼ぶことにしよう!」
「え、マッジぃ~!? 私の名前が後世まで語られちゃうのぉ~! すっご~い♥」
うん。本当に凄い。
何が凄いって、当人は何も解ってないことが凄い。
この世で一番この法を破りそうなのはマリーちゃんだ。
そのマリーちゃんの名前を冠した法律を制定する。
もし破れば、未来永劫マリーちゃんの名は語り継がれる。
勿論悪名として。
だが……それに気付いた時は手遅れであろう。
陛下はマリー法が発布されて直ぐに動く。
一気にマリーちゃんの人気のシェアを奪っていくだろう。
そこでマリーちゃんは自分の名前の法律に阻まれる。
他人の功績を横取り出来なくなることに気付く。
対抗するには猛練習をして実力を上げるしか方法は無い……
だが彼女の性格からして真剣に練習してくれるだろうか?
分からない……
マリピエとしては分の悪い賭けである。
ピエッサSIDE END
後書き
次話はプックル視点があります。
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