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八条学園騒動記

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第七百十七話 三つ目の蜥蜴その十二

「あの戦闘に特化した」
「贅沢を極めて嫌ったな」
「あの国の様ですね」
「贅沢を嫌うということでは似ているかもな」
 大尉は否定しなかった。
「二十世紀の彼等は国民皆兵だったしな」
「イスラエルは」
「そうだったしな」
 このこともあってというのだ。
「考えてみるとな」
「彼等はスパルタの様ですか」
「スパルタは戦闘に特化してだ」
 そうしてというのだ。
「そうなったがな」
「ユダヤ教はどうして極めて禁欲的か」
「それは環境だ」
「環境ですか」
「ヘブライの地は荒野だった」
 ユダヤ教が生まれたその地はというのだ。
「何もないな」
「過酷な環境だったのですね」
「余裕なぞだ」
 それこそというのだ。
「全くだ」
「存在せず」
「そしてだ」
 そのうえでというのだ。
「贅沢なぞな」
「罪だったのですね」
「紀元前の荒野だ」
「生産力は極めて乏しいですね」
「様々な技術もなかったからな」
 このこともあってというのだ。
「実にな」
「貧しかったのですね」
「その通りだ、しかも周りには敵が多い」
 旧約聖書にも多くの敵が出て来る、その中で戦って生きねばならなかったのは歴史から見ても確認されている。
「それならな」
「尚更ですね」
「禁欲的になりな」
 そしてというのだ。
「そのうえでだ」
「生きていくしかなかったのですね」
「しかも厳格にな」
「そういうことですか」
「さもないとな」
「滅んでいましたか」
「そうなっていただろうな」 
 大尉はこう返した。
「ヘブライ人達は」
「そうでしたか」
「それで食材もな」
「何かとですね」
「制約があってな」
「今もそれが残っていますか」
「そういうことだ、だが私はな」 
 大尉は自分の考えも話した。
「食べられるならな」
「何でもですか」
「食べるという連合全体の考えがな」
 ユダヤ教徒以外のというのだ。
「いいとだ」
「思われていますか」
「貪欲で見境がないがな」
 エウロパから見ればだ。
「しかしな」
「何でも食べてこそですね」
「人は生きられ食べる喜びもだ」
「得られますね」
「そうなるからな」 
 だからだというのだ。
「いいと思う」
「そうなのですね」
「この亀にしてもな」
 今度はゾウガメを見た、ガラパゴスゾウガメだがほぼ動かず眠そうな顔でその場でじっとしている。
「食べるのだ」
「連合の殆どの者は」
「必要故の禁欲はいい」
「自分を戒めたりですね」
「それが生活を圧迫するのならな」 
 それならというのだ。
「すべきだが」
「意味のない禁欲はですか」
「無意味と考えている、それでだ」
「連合全体のそうした考えの方がですね」
「いいと思う、だがな」
「はい、我々にとってはですね」
「連合は言うまでもない」 
 敵だというのだ。
「好きになる筈がない、しかし認めるべきところはな」
「認めることですね」
「やはりな、ではな」
「次の生きものの方にですね」
「行こう」
 こう言ってだった。
 大尉は上等兵を連れて次の場所に向かった、そしてまた別の生きもの達を観るのだった。


三つ目の蜥蜴   完


                  2023・5・24 
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