義弟が握った寿司

　　　　　　　　　　　　　　　　義弟が握った寿司
　弁護士遠藤力丸の妹優の夫速水実篤の仕事は寿司職人だ、その話を聞いて遠藤と同じ事務所にいる若手弁護士松本友康は言った。
「一度行きたいですね」
「そういえば行ったことなかったよ」
　遠藤は言われて気付いた、真面目そうな眼鏡をかけた顔の中肉中背の中年男で黒髪を左で分けている。
「彼のお店に」
「そうなんですか」
「じゃあ今度仕事が一段落したら行こうか」
　今時の若い青年風の松本に答えた。
「そうしようか」
「今のお仕事がですね」
「一緒にやっている」
「そのお祝いに」
「それでどうかな」
「いいですね」
　松本は笑顔で応えた。
「それじゃあ」
「うん、彼にも話しておくから」
「じゃあお仕事頑張って」
「まずはね」
「やり遂げましょう」
　こう話してだった。
　二人は今一緒にやっている民事の話を頑張った、そしてだった。
　その仕事が終わってからだった、速水がやっている店を訪れた。その店は北新地の中でもかなりいい場所にあり。
　松本はその店の前に来てだ、遠藤に言った。
「僕こんなお店は」
「入ったことないかな」
「お寿司って回転寿司しか」
「僕もだよ、大抵はね」
「そうしたお店ですよね」
「弁護士だから儲かるか」　
　俗にそう言われているがというのだ。
「そうそう贅沢出来ないからね」
「そうですよね」
「だから僕も」
　遠藤は自分から言った。
「そうそうね」
「こうしたお寿司屋さんはですね」
「入れないよ、けれど今日は」
「お仕事が一段落したお祝いに」
「入ろう」
「それじゃあ」
　こうした話をしてだった。
　二人で入った、すると。
　面長で小さな細い目の白い服の職人がカウンターの中から挨拶してきた。
「いらっしゃいませ」
「うん、今日はね」
「お客さんですね」
「それで宜しくね」
「こちらこそ」
「はい、うちに来るのはじめてですよね」　
　速水の方から言って来た、隣には彼の妻で遠藤の妹優がいる。大きな目でやや面長で黒髪を後ろで束ねた明るい感じの美人だ。
「そうでしたね」
「そうだよ、こうしたお店自体」
「滅多に」
「そうだしね、それじゃあ」
「今から」
「いただくよ」
「どうぞ」　
　カウンターに座ってこうした話をしてだった。