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ドリトル先生の落語

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第四幕その六

「これもまたね」
「面白い様にすることだね」
「そうだよ、だからあの番組はね」
「尚更いいんだね」
「失敗も面白いネタにすることもね」
「そうだね」
「そう、けれど自分を貶めるとね」
 先生は微妙なお顔になってこうも言いました。
「卑屈になるからね」
「よくないね」
「そうなんだ」
 こう言うのでした。
「それはそれでね」
「そうなんだね」
「そこから自分を哀れむと」
「どうなるのかな」
「この前読んだ漫画であったよ」
「漫画で?」
「うん、そこで主人公が先輩に言われていたんだ」
 そうだったというのです。
「自分を哀れんだらそこからは無間地獄だってね」
「地獄でも一番辛い地獄だね」
「そこに入ってしまうってね」
「そうなるんだ」
「自分を哀れむよりは他の人を憎んだ方がいい」
「憎むことってよくないよ」 
 王子はそのことは頭から否定しました。
「絶対にね」
「そうだね、人を憎むとね」
「それが人でなくてもね」
「それはとても悪い感情で」
「嫌う以上にね」
「心を蝕んでいくよ」
「そして憎しみに心を支配されると」
 その時のこともです、先生は言いました。
「復讐鬼になるね」
「復讐鬼だね」
「そうなるとね」
 先生は王子に深刻なそれでいて哀しさを含んだお顔でお話しました。
「もうね」
「碌なことにならないね」
「それこそかちかち山の兎になるよ」
「日本の童話のだね」
「あの童話の狸も確かに酷いけれどね」
「兎はやり過ぎだよね」
「卑怯で残酷で陰湿だよね」
 先生はその兎のことも言いました。
「お婆さんの仇討ちにしてもね」
「やり方が酷いね」
「これは太宰治が言ってたけれど」
 昭和の日本を代表する小説家の一人であるこの人がというのです。
「あの兎は仇討ちにしてはおかしいんだよ」
「日本の仇討ちって正面から出て来て名乗り挙げてね」
「堂々となるね」
「そうだよね」
「太宰もそれを言っていてね」
「あの兎はおかしいっていうんだね」
「そこからあの人なりのかちかち山を書いたけれど」
 そうしたけれど、というのです。
「あの兎は復讐鬼なんだよ」
「憎しみに心を支配された」
「そうなんだ、憎しみに心を支配された」
「そうした兎なんだね」
「あの兎を見てどう思うか」
「普通はやり過ぎだって思うね」
「卑怯で残酷で陰湿でね」
 先生も言います。
「執拗だってね」
「仇討ちってさっきも言ったけれど名乗りを挙げてね」
 王子はまたこう言いました。
「正面から正々堂々向かって」
「刀でばっさりとだね」
「終わらせるよ」
「相手を苦しめないね」
「普通はそうだよね」
「けれどあの兎はね」
 本来の仇討ちはそうであると思われるのにというのです。 
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