嘆きの木
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第一章
嘆きの木
太陽と芸術の神アポロンはこの時キュパリッソスという少年に夢中だった。縮れた感じの金髪を短くし青く澄んだ目と高い鼻に中性的な白い顔と長身にすらりとした身体を持っている彼をアポロンは兎角愛していた。
だが彼はそのキュパリッソスについて自分と同じくオリンポスに住んでいる愛と美の女神アフロディーテにこう漏らした。
「優しく愛情深いが」
「そのことがなのね」
「かえって心配になる」
こう漏らすのだった。
「それが過ぎる、死を見ると」
「嘆くのね」
「あまりにも。先日死んだ小鳥を見てな」
そしてというのだ。
「涙を流しながら埋葬したが」
「その嘆きが凄かったのね」
「そうだった、そうしたものを見るとな」
「心配になるのね」
「私としてはな」
「その心は仕方ないわ」
アフロディーテは達観した顔でアポロンに答えた。
「もうね」
「人の性格のことはだな」
「諫めてもね」
他の者がというのだ。
「変わるのは本人だから」
「それでだな」
「貴方が言っても慰めてもね」
「彼が変わらないとか」
「どうにもならないわ」
「そうだな、しかしな」
「貴方としては心配ね」
「どうしてもな」
その心配している顔で言うのだった。
「そうだ」
「貴方に出来るのは彼を大切にすることよ」
「そうしていくことか」
「彼に何があっても」
それでもというのだ。
「そうしてあげることよ」
「そうだな、では私はな」
「彼を大切にしていくわね」
「彼が死ぬまでな」
人であるキュパリッソスの命はすぐに消える、だが神である自分は違う。このことを踏まえて答えた。
「そうする」
「ええ、ではね」
「これからも彼を愛する」
そして大切にするとだ、アポロンは誓った。そのうえでだった。
キュパリッソスと共にいる時間を楽しみ彼を大切にした、キュパリッソスはケオス島に住みその野山をだった。
散策したりそこで狩りをするのが常だった、その際はいつも。
「友人とだな」
「はい、イオスとです」
「ヒヒン」
金色の角を持つ雄鹿と共にアポロンに応えた。
「一緒に行きます」
「そうするな」
「彼は僕が生まれた時から一緒にいる友人でして」
それでというのだ。
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