裁きの楓
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第一章
裁きの楓
イギリスに伝わる話である。
ドーヴァーの街で門番をしているアンドリュー=クライドルは仕事帰りにパブに入って言った。
「この前トミーが死んだな」
「ああ、あいつか」
同僚で一緒に飲んでいるヘンリー=リーが応えた。クライドルは黒い髪で四角い顔で青い目でリ0は茶色の髪と目で細長い顔だ。二人共かなりの大柄である。
「頭を何かで殴られてな」
「多分殺されてな」
「死んだな」
「酷い奴だったからな」
クライドルは街の兵士の一人だった彼のことをこう言った。
「本当にな」
「ああ、女癖が悪くてな」
リーもエールを飲みつつ応えた、二人で同じ酒を飲んでいる。
「酒癖もな」
「それで底意地が悪くてな」
「弱いものいじめをしてな」
「ケチでお貴族様には諂って」
「人の手柄を横取りして」
「自分の不始末を押し付けてな」
「最低な奴だったな」
リーもこう言った。
「あいつは」
「だから正直殺されてもな」
それでもというのだ。
「もうな」
「自業自得だな」
「ああ、だからな」
それでというのだ。
「あいつが殺されてもな」
「特に思わないな」
「天罰だよ」
クライドルは言い切った。
「もうな」
「そうだな、しかしな」
それでもとだ、リーは言った。
「殺人だからな」
「自業自得じゃ済まないな」
「これが雷に打たれたんならな」
殺された彼がというのだ。
「別にな」
「どうってことはないな」
「ああ、けれどな」
それがというのだ。
「殺人だ、それで俺達も街の警察と一緒にな」
「犯人を捜してるな」
「そうしてるだろ」
「そうだよ、しかしな」
それでもとだ、クレイドルは言った。
「肝心の手掛かりがな」
「何処にもないな」
「あいつを怨んでる奴は多過ぎてな」
「もう街の全員だからな」
「兎に角悪いことしかしてなくてな」
その為にというのだ。
「徹底的に嫌われ憎まれて」
「あいつは敵しかいなかったからな」
「疑わしい奴なんてな」
彼を殺したというのだ。
「もうな」
「それこそごまんといるな」
「疑わしい奴がいるのも困ったものだ」
犯人を捜すにあたってというのだ。
「本当にな」
「全くだな」
リーもそれは同意だった。
ページ上へ戻る