イベリス
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第百十二話 九月が進みその八
「ですから」
「言われないですか」
「はい」
そうだというのだ。
「そうなので」
「私も飲んでいいんですね」
「そうです」
こう咲に話した。
「ただお家の中で飲まれることです」
「未成年ですから」
「そのことはです」
「内密にですね」
「小山さんもそうされていますね」
「一度従姉とこっそりお店で飲みましたけど」
愛とスパゲティを食べた時にそうしたことも話した。
「けれど」
「はい、やはり内密でとなりますね」
「そうですね」
「ですからそうした時はです」
「お家で、ですか」
「飲まれて下さい」
こう言うのだった。
「宜しいですね」
「わかりました」
咲も強い声で答えた。
「そうします」
「お酒は溺れては駄目ですが」
「その溺れるっていうのは」
「もうそれがないといられない、何も出来ないという様な」
この場合の溺れるとはどういった意味かとだ、速水は話した。
「中毒と言ってもいいですね」
「ああ、中毒ですか」
「そうなるとです」
それならというのだ。
「もうです」
「溺れていますか」
「楽しむ、そして嫌なことを洗い流して忘れるならです」
「嫌なことからですね」
「悲しみ、苦しみ、怒り、憎しみといったものを」
そういった感情をというのだ。
「洗い流すならです」
「いいんですね」
「お酒はその為にあります」
まさにという口調での言葉だった。
「ですから」
「私もですね」
「そうした時は飲まれて」
そしてとだ、速水はさらに話した。
「忘れてまた動かれて下さい」
「飲んで忘れて」
「そのうえで」
あらためてというのだ。
「お酒は前を向く為にあるものなので」
「前をですか」
「はい」
速水はさらに話した。
「そうした時は思う存分飲むことです」
「忘れてまた前に進む」
「人は時として立ち止まることもあります」
速水は達観した顔で話した、その右目には彼がそれまで見て来たものが映し出されていて彼自身が見ている。
「しかしまたです」
「前に進むことですか」
「そうあるべき生きものなので」
それ故にというのだ。
「悲しみ、苦しみ、憎しみを抱いても」
「そこで立ち止まっても」
「思う存分です」
そうした感情に支配された時はというのだ。
「飲まれて下さい」
「そうしていいんですね」
「そうです、長い人生です」
速水はこうも言った。
「山あり谷ありです」
「色々なことがあって」
そしてというのだ。
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