リュカ伝の外伝
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地域の活性化と古い知人の安否
(ラインハット王国:アルカパ)
ビアンカSIDE
「あれぇ? 先刻の男じゃないぞ……誰だぁ?」
信じられない事に当初の計画とは無関係な人間を襲わせている。
あんなモンスター使いが居て、良いのだろうか?
いや、それよりアレで大国の王様なのだから世の中は異常である。
「た、大変だ! モンスターが人を襲っているぞ!!」
振り返ると、中年というよりかは少し若い女性を連れたスネイ町長が戻ってきていた。
当然だが目の前の事象に驚いている。
「リュ、リュカ! 止めさせて……プックルを止めて!」
「え? いや……でもぉ~……今更止めて『人違いでしたゴメンちゃい♥』って言っても許してくれないだろうし、証拠隠滅も兼ねてプックルに骨も残さず食べさせちゃった方が……」
「ふにゃぁ!?」
手加減して引きずり回してたプックルもリュカのトンデモ発言に驚きナンパ貴族野郎から口を離してしまう。
その隙を逃さなかったナンパ貴族野郎は、乱れまくった衣服も、汚れまくった身体もそのままに脱兎の勢いで逃げ出した。
情けない声で「ひえぇぇぇ~~~っ!」とか叫びながら逃げていく。
そんなナンパ貴族野郎の姿を見て腹を抱えて笑っているリュカ……
如何やら本当は人違いではなく、私が強引なナンパされてるのを見ての行いだった様だ。
「い、一体……何が……!?」
状況に思考が追い付かない一般人であるスネイ町長が、至極真っ当な疑問を口にする。
私の置かれている環境が、如何に異常なのかを痛感するわ。
「おいコラ。お前が美女を一人放置してどっか行っちゃうから、変な悪い虫が集まったったんだぞ! ……つーか、アイツ何処かで見た様な気がしないでもない気がするなぁ。本当に誰だ?」
何故そこで彼に因縁を付けられる?
「あ……いや……そ、それは申し訳ないが……そのモンスターって……もしかして……!?」
そりゃぁ先刻の会話で昔に苛めてた子猫を連れてくるって事になったのだから、目の前の大きなモンスターが昔の子猫だったのかと理解し始めるわよね。
「そうだぞ。あん時の子猫ちゃんだ! さぁプックル……子供の頃にお前を苛めてた男はコイツだぞぅ。積年の恨みを晴らす絶好のチャンスだ! この機を逃すな、行けぇー!(笑)」
「グルルルルゥ!」
間違いなく悪乗りしているプックルも、初見さんが見たら漏らす勢いで牙を剥き出し威嚇する。楽しんでるわねぇ……
「止めなさい! もう……プックルも悪ふざけが過ぎるわよ。子供達に見せられないでしょ、こんな姿」
「……ふにゃぁ」
「あ……この野郎、寝返りやがった」
プックルの威嚇を咎め、この子が無害である事をスネイ町長に示す。
そんなプックルを更に咎めるのは、こんな楽しい事(本人談)を逃さない男。
言われて私の後ろに隠れる巨大な猫……仲が良いわねぇ、相変わらず。
「あ~あ……見損なったよプックルぅ。強い者に巻かれる男だと思ってなかったぜ……この権力者の犬め!」
「猫よ!」
「ふにゃぁ!」
「おぉ……上手い!」
私の一言にビシッと指を指して褒める夫。
ドッと笑いが起こった。
「あ、あの……ど、如何やら本当に危険ではない様だね」
そんなほのぼのを見たスネイ町長が恐る恐るながらも納得してくれる。
隣に居る多分奥様だと思われる女性の肩を抱き落ち着かせている。
「驚かしてごめんなさいね。改めて紹介するわ。夫のリュカと、あのときの子猫ちゃんのプックル……私達の大切な家族の一員よ」
「ぅにゃん!」
礼儀正しく(?)挨拶するプックルと肩を竦めて挨拶代わりにするリュカ。
「あ……あぁ! こ、これはご丁寧にどうも。旦那さんは殆ど憶えてないでしょうから“はじめまして”と挨拶させて頂きます。私はアルカパの町長をしておりますスネイと言います。こっちのは私の妻です」
「初めまして奥様。昔この町に住んでいたビアンカと申します」
「初めましてじゃないんですよビアンカお姉さん」
「えっ!?」
私はこれ以上印象を悪くさせない様に低姿勢で挨拶をしたが、それが功を奏したのか落ち着いた声で初見でないことを伝える奥様。もしかして奥様も、この町の出身?
「私、子供の頃にビアンカお姉さんに遊んでもらったことがあるんですよ」
「申し訳ない、紹介が遅れました。彼女は幼馴染みのクリスチーネ。よく一緒に遊んでた親友ジャイーの妹さんなんだ」
「まぁ……ジャイーの妹のクリスチーネちゃんだったのね!? あらあら懐かしいわぁ。お兄さんは元気かしら? 彼は町一番の問題児だったけど、流石に落ち着いたわよね」
「いえ……それが……」
「ジャイーは『一旗揚げてやる』と言って町から出て行ったきり、20年以上音沙汰が無いんだ。元気だと良いんだけど……」
「あら……ごめんなさい、知らぬとは言え失礼だったわね」
つい懐かしくて時間の経過という残酷な事実を忘れて喋りすぎてしまったわ。
「まぁ大丈夫だよビアンカ……そんなに気にしなくてもさ。そいつ悪ガキだったんだろ? “憎まれっ子世にはばかる”と言って、嫌われ者ほどしぶとく長生きするから。短命なのは僕みたいに万人に好かれる人間くらいさ」
悲しい気持ちになってしまった私を慰めてくれてるのか……
それとも本気で面識の少ない人間を貶しているのか……
その辺りが未だに判りづらいのよね……私の旦那って。
でも貴方が短命なのは本当に困るのよ……私的にも、世の中的にも。
「あ……その……ど、どうも……です。心配ではありますが、何だか元気(?)が出てきました」
無理しなくて良いわよクリスチーネちゃん。
この人は一般人の常識では推し量れない非常識者だから。
「うん。それよりさ、お前ってこの町の町長なんだって? 丁度良いからさぁ、相談に乗ってよ」
「あ……は、はい。何かアルカパの事で問題でも?」
確かに……偶然とは言え昔の知り合いが町長なのは好都合ね。
「実はさ、僕等は現在グランバニアに住んでるんだけど……」
「え!? グランバニアって、あのグランバニア王国ですか!?」
「他にあんの?」
「い、いえ……無いですねぇ。ただ……かなり遠いなと思いまして。本日はご旅行ですか? お泊まりはここの宿屋ですか?」
「ううん、ルーラ。知ってる? ルーラって言う瞬間移動魔法」
「申し訳ございません。魔法には詳しくないもので……」
そうよね、ルーラって高度な古代魔法だから、知らない人の方が多いわよね。
「まぁ知らなくても問題無いけど、便利なんだよルーラって。だって僕等はグランバニア王国の王都、グランバニア一丁目一番地に住んでるのに、一瞬で往復できるからね」
「あ、はぁ……良い所にお住まいで」
多分解ってないわね。遠回しにグランバニア城に済んでいるって言ってる事に。
「んでさ、そんな遠くにも隣村サンタローズの噂が聞こえてきててさ、アルカパ出身の奥さんが羨ましがっちゃってさ」
「べ、別に羨ましがってるんじゃなくって、この町も発展して欲しいなって思っただけでしょ!」
「ツンデレ?」
「何でそうなるのよ!」
あぁもう。話が進まないわぁ……リュカの一言一言に一々反応しちゃダメなのは解ってるのに!
「まぁそういう訳でさ……サンタローズも僕が少しアドバイスしたら活気づいちゃったし、何か出来ないかなぁって思って視察に来たワケ」
「なるほど! ありがとうございます。正直私もサンタローズの活性化振りには驚いておりましたし、このアルカパも後に続ければ良いと考えておりました。何かご協力頂けるのでしたら、とても幸いであります」
「でね、先刻から宿屋を見てて思ったんだけど、ここの宿屋って昔ビアンカのお母さんが植えたブドウでブドウ棚を作って育ててたでしょ。それを引き継いだ今のオーナーが、ブドウの香りを染み込ませて“安眠枕”ってのを連泊した宿泊客に配ってた記憶があるんだけど……アレってまだやってるのかな? 僕は連泊しなかったから貰えなかったんだけど、そういうのを観光名物とかに出来ないもんかねぇ?」
えー……そうなの!?
お母さんが育ててたブドウで、何かお土産を作ってたのね!
でも人気が無いのかしら……あまり噂は聞かないわね?
「安眠枕はまだやってるらしいですけど、作り方がブドウ棚に枕を陰干しして匂いを付けるってだけみたいなので、生産性も低いですし香りも少しずつ薄れていきますから、それほど人気にはなってないみたいですね」
そうなの、何か残念ね。お母さんのブドウが人気になってくれると嬉しいけど……
「なるほどね。確かにそれじゃ生産性も悪いし、入手した所で直ぐに普通の枕になっちゃうし、宣伝性は無いなぁ」
「何か他の方法でお母さんのブドウを有名に出来ないかしら?」
「ブドウは健康や美容に良いらしいからね……過剰摂取さえしなければだけど、ワイン・ジュース・スイーツとかにして売り出せれば、人気が出るかも知れないけど……」
「そうですね、何かしらの名物があるのが一番観光地としては推しやすい事だと思います。私も町長として、その考えには辿り着いた事があるんですけど……」
「何かしらスネイ町長……何か歯切れが悪いけど? 売り出せない問題でもあるの?」
「量だよビアンカ。宿屋の二階のベランダで栽培してる程度の量では、とてもじゃないけど世の中に流通させる事は出来ない」
「じゃぁ時間はかかるけど栽培量を増やせば問題は解決するんじゃないのかしら?」
「お金だよ、お・か・ね! 小さい町の宿屋が個人でブドウ棚を広げるのには資金が無さ過ぎるし、町挙げての一大プロジェクトにするにしたって、成功する見込みが低いからそんなに資金が集まらない。結局の所は増産させても販売できなきゃ意味が無い。特に効果的な販売促進、つまり宣伝だけど……これにも金がかかるし、伝とかが無いのは厳しい」
「じゃぁ折角リュカに相談したけど、結局は何も出来ないって事?」
「これこれそこのマダム。君は自分の夫の事を過小評価しすぎだよ。妻や美女に頼られたら頑張ってしまうって習性を」
“妻”だけに限定しといてほしいわ。
「先ずはそうだなぁ……資金の確保だな。金持ちに出資してもらおう」
「簡単に言いますけど、こんな地方の町興しに出資してくれる様な奇特な人なんて居りますかね?」
スネイ町長の意見は尤もである。まぁ多分、この国の王様であるヘンリーさんに出させるんだろうなぁ……強引に。
「居るんだよ……そんな奇特で便利なハゲが!」
「だ、誰ですか……ハ、ハゲって!?」
言っとくけど、一応あの人は私達の結婚の恩人よ!
ビアンカSIDE END
後書き
追伸:
ビアンカさんよりお願い。
『ジャイーの情報を求む』
スネイとジャイーには元ネタあり。
勿論クリスチーネにも!
元ネタのヒント。
主人公:野比リュカ太
ヒロイン:源ビアンカ
ネコ型:プクえもん
金持ちのいじめっ子:スネイ
力自慢のいじめっ子:ジャイー
ジャイーの妹:クリスチーネ剛田
劇場版には出演できない秀才:ウル杉
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