ヤクザを辞めたきっかけの猫
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第一章
ヤクザを辞めたきっかけの猫
高校を卒業してだった。
赤坂秀太は入社した会社がいきなり倒産という憂き目に遭った、それで高校の先輩の仕事を手伝ったが。
「あの、これって」
「言うなよ」
先輩の佐藤軍司リーゼントでサングラスをかけた四角い顔の一七〇位の背でやや太った身体の彼はパーマで鋭い目つきで眉を小さく剃って面長で険しい表情に痩せた一八〇近い長身の彼に対して言った。
「一応表向きは一般企業でもな」
「所謂企業内舎弟の」
「そうしたところなんだよ」
「先輩ヤクザになってたなんて」
「表向きはサラリーマンだよ」
先輩は赤坂にあからさまな格好で答えた。
「俺も間違えてだ」
「入ったんですね」
「抜けられはするからな」
これは出来るというのだ。
「いいな、次の仕事が見付かるまででもな」
「ここにいろってことですか」
「別にヤクとかやばい仕事はないからな」
実態はアウトローな会社だがというのだ。
「安心しろよ」
「安心出来ないですよ」
「それでも安心しろ」
昔ながらの如何にもという事務所の中でひそひそと話した、仕事は違法スレスレの金融業ヤミ金と言われるかどうかのものであり。
赤坂はそこで働く様になった、幸い取り立て相手は洒落にならないまでの社会不適格者ばかりであり。
ある程度無茶を言ってもこうした連中ならと思えた、だが。
「考えてみますと」
「俺達もか」
「あの借りてる連中と変わらないですね」
「それは言うなよ」
これが先輩の返事だった。
「もうな」
「言ってもですか」
「はじまらないからな、だから言ってるだろ」
「次の仕事が見付かれが」
「それでな」
「抜けろって言うんですね」
「俺もそうするつもりだしな」
自分もというのだ。
「違法スレスレだしな」
「それで、ですね」
「今は我慢しろ」
「わかりました」
赤坂も頷くしかなかった、一応仕事は探していてもだ。
これといってなくそちらの仕事を続けた、それが一年程経った時だった。
ふとだ、街で一匹の白い野良猫に出会った。
「ニャ~~~」
「お前野良か。野良のままだとな」
保健所に送られる、そうなれば未来は知れたものと思ってだった。
彼は一旦白猫を拾った、そして先輩に携帯で相談するとこう言われた。
「俺の知り合いに犬や猫を保護しているボランティアしている人がいるからな」
「その人にですか」
「相談しろ、この前悪質ブリーダーから大勢猫を保護したらしいんだ」
「そうですか」
「今から紹介するからその人のところに行け」
「わかりました」
赤坂は先輩の言葉に頷いた、そうしてだった。
その人のところに猫、雄だとわかった彼を連れて行くとこう言われた。その人はとても穏やかそうな中年女性だった。
「うちで保護して獣医さんにも診てもらって」
「そしてですか」
「新しい飼い主探します」
「そうして野良猫やタチの悪いブリーダーから助けた犬や猫を幸せにしていますか」
「一匹でも多くの子が救われれば」
その人は菩薩の様な笑顔で答えた。
「有り難いです」
「そうですか」
「じゃあこの子はお任せ下さい」
「お願いします」
猫を引き渡した、その後でだった。
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