リュカ伝の外伝
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アーティストとエンジニア:四限目『起業秘密』
(グランバニア城:地下・開発室)
ラッセルSIDE
「はい! 希望が見えて参りました♥」
下げたくもない頭を下げざるを得ないなんて……
偉くなるのも考え物だ。けどあの男だったら問題無く感じる。
「じゃぁリューナには直ぐにでも開発研究作業に取りかかってもらうんだけど、ちょっとでも難しく感じたら直ぐに報告をしてね。武闘大会までに全てを整えるには本当に時間が足りないだろうから」
「解りました」
「でね、それとは別にまだ面倒事を君には引き受けてもらいたいんだ」
「……ま、まだ何かあるんですか!?」
父親からのお願いなら何でも喜んでいたリューナも流石に顔を顰める。
「凄ー面倒臭いんだけどぉ~……民間企業の社長に就任してほしい」
「はぁ~!?!?!? な、何を言ってるんですか!」
本当に何を言ってるんですか!?
「まぁ民間企業と言っても殆ど半民半官の企業なんだけど」
「いや、今そこじゃないですから! 私が社長になるってとこですから!!」
能力面は頭が良いから問題無い様な気もするけど、若すぎやしないか?
「ん~っとねぇ……取り敢えず一から説明するね」
陛下は両手で我々を制する様に落ち着かせ説明体制に入る。
如何な説明が出てくれば、この場の皆を納得させられるだろうか?
「現在は僕の希望で色んな物が発明・開発されている。一番分かりやすい物と言えば魔道灯だよね。ドワーフ族(ザイル)の技術で水晶に光(レミーラ)の魔力を込めて闇を照らすアイテム。それらのエネルギーを蓄えて伝達するのにも水晶を使ってて、それらは“魔道結晶”と呼ばれてる。同じように冷気(ヒャド系)の魔法を込めた魔道結晶や熱気(メラ系)の魔法を込めた魔道結晶など色々あって、それらを日常生活に活用している。今は王家の直接管理で販売製造を行っているが、そうなると地方への供給が遅れがちになる。だって皆は城まで買いに来なきゃならないからね。それらを民間に委託する事によってスムーズな流通や販売形態を構築したいと考える。だから……ね。よろしく頼むよリューナ♥」
「そこまでの説明で『はい、解りました♥』ってなると思いましたか?」
「思わなかったけど、面倒臭くなってきちゃって……テヘ(笑)」
『テヘ』じゃないと思う。
「ゴホン! まぁ手始めにプーサンのポケットマネーを資本金にして小さいながらも事務所を構える。そうしたら直ぐにでも国から補助金なりを出させるから、規模を大きくしてもらう。正直言ってリューナには社長としての活躍は期待してない。エンジニアとして研究開発に尽力して欲しい」
「言いたい事は概ね理解しましたけど、そんな行き当たりばったりで何とかなる様な事ではないでしょう!?」
「そうでもない。現在グランバニアは困った状況に陥りつつある」
困った状況?
「取り敢えず国力を増大させる事に注力した結果、とある企業に頼りすぎた。勿論サラボナだ……言うまでもないよね」
確かに世の中にサラボナ商会は溢れている。
「このままだとサラボナにグランバニアの屋台骨を握られかねない。国家を大きくし無茶を言ってくる商人(サラボナ商会系)に武力で威圧を掛けても、その武力たる軍部が補給の殆どをサラボナ系列に頼っていたら、国としてサラボナに意見も言えなくなる。とても良い事とは言い難いよね。だから早急に内需を活性化させたい。その初期段階がリューナに任せる民間企業って事だ」
「初期段階って事は、これから色々と別の手法も取り入れられてくと……?」
「当然だ! だからリューナの会社には儲けを上げさせる気はない。赤字で商品を世の中に出回らせる。既に作ってある音響装置やMP等……便利な物・生活に潤いが出る物を人々の生活に行き渡らせ、そこから皆の購買意欲を促進して内需を活性化させる。だからリューナは新製品の開発に注力してくれれば良い。とは言え赤字当然の会社とは言え、それなりに経営を学んできている者を副社長に据えたいなぁ。会社を乗っ取ろうとする野心が皆無な人物だと大助かりだね」
「陛下には、そんな都合の良い人物に心当たりはあるのですか?」
「ラッセン~……そんな都合の良い人物に心当たりがあれば、もうプロジェクトは進んでいたんだよ。寧ろお前等の学生ネットワークで、そんな人物をピックアップしてくれよぅ」
「お、俺等しがない学生に、そんなネットワークがあるわけ無いじゃないですかぁ!」
「何言ってんだい。お前は既に宮廷画家として進路が確定してるから問題無いだろうけど、学友の殆どは卒業後の就職先に頭を悩ませているだろ? そんな連中の話題の中に、経営高校出身で起業した奴の話でもない? もしくはこれから起業しようとしてる奴とか?」
「無いですねぇ~……俺の周りは皆“芸術バカ”ですから。働き口が見つからなくても、最悪“路上で似顔絵を描く”事で日銭を稼ごうと考えてますからね」
将来の事をちゃんと考えてる奴なんて少数だ。
「馬鹿ばっかりじゃねーか! はぁ~……と、まぁこんな感じで今のグランバニアは働き口が少なくなりつつある。発展途中ではあるから肉体労働は、まだまだ需要が多いんだが……専門的に学んだ者達への受け皿が成長しきってない。問題が表面化する前に手を打たなきゃならない懸案だよね」
「そういう理由も相俟って私に起業させたいとお考えなのですね?」
「希望理由の三割程度だけどね。残り三割はサラボナの台頭を抑えたい事……更に三割は世の中に出回る便利な発明品の管理をしておきたい事」
「……一割足りませんけども?」
俺でも解る算数の問題。
思わず陛下に聞いてしまった。
「親馬鹿だからだよ(照)」
何か心がホッコリする。
陛下も人の子……いや、人の親である事が分かるな。
「あのぅ……陛下。もし宜しければ私の知り合いに、丁度良い人物が居ますが……」
「マジで!? 是非とも紹介してよアーキちゃん!」
基本的に行く末を見守っているスタンスのグリーバー伍長から推薦。
「た、ただ……まだ学生なんです。まさに経営高校に通っている4年ですけど……」
「いや問題無いよ。だって社長は魔技高校の1年生だよ。寧ろ4年生なんて半年後には社会人じゃん! ……卒業予定は立ってるよね?」
「その点は大丈夫です。私の幼馴染みなんですけど、頭だけは良い男の子なんで……」
「なるほど。野心は……大丈夫?」
「その点も大丈夫です。ドン引くくらい小心者なんで」
「なるほど。言われた事だけをやる秀才か……特筆すべき性格はある?」
「これと言って……例えるのなら、嫌味を言わない(言えない)総参謀長閣下の様な人柄です。なので宰相閣下とは関わらせないであげて下さい。直ぐ壊れます」
「……いじめられっ子かい?」
「子供の頃はよく苛められてました。その度に私が助けてた記憶があります」
「興味本位で下世話な事を聞いちゃうけど……付き合ってるのかい?」
気になってた! 俺もそれは気になってた!! だって伍長の口調は、好きな男子の事を語る口調だったんだもの!
「は、はい……ダメですかね?」
「全然ダメじゃないよ。良い事だよ。その彼は幸せ者だねぇ……幼馴染みで年上の彼女が居るなんて。僕と共通点がありそうだ(笑)」
「いえ陛下……共通点はそれだけで、彼はいじめられっ子です。陛下とは……ちょっと……」
「そうッスよね。陛下はどちらかと言えばいじめっ子気質ですもんね」
伍長の好きな男子を語る仕草が可愛くて、少し調子に乗ってしまったかも……リューナの視線が痛い。
「失礼だな。僕はいじめっ子じゃないよ。僕は弱い者苛めはしない……弱い者苛め苛めはする(笑)」
「な、なんッスかソレ?」
聞き慣れない言葉だぞ。
「弱い者を苛める者……を苛める者だ! 弱い者を苛めて自分が強くなった気で居る者に『お前も弱者だ』と解らせてやるのが楽しい。特に自らを“神”とか名乗ってる奴は苛め甲斐がある(笑)」
笑えません。
「へ、陛下……彼を苛めないで下さいね!」
「僕の話を聞いてましたか? その彼が副社長という地位を笠に着て部下を苛めない限りは苛めないよぉ~」
相手が男というだけで、少し不安になるけど……まぁ陛下に気に入られたら、それはそれで気苦労が多いけどね。
「では後日、その者を紹介致します」
「うん、宜しく。因みに副社長(候補)の名前は?」
「はい。彼は“ヨシーリ・マーモット”と言います」
「ふむ……男の名前だから忘れそうだ」
じゃぁ何で今聞いたんですか?
「名前と言えば……新たに立ち上げる会社の名前は如何にしますか陛下?」
「いや、社長が決めてくれて構わないんだけども?」
「いえ、半民半官と言う事で半分は国営企業ですから、王様の意向は絶対ですわ」
「うわっ、面倒くせ!」
「当分は赤字運営が決まっているとは言え、世界に轟く大企業になる(予定)のですから、社名は重要ですわよ。形ばかりの社長に決められる事ではございません。何卒陛下が決めて下さいませ」
「何か口八丁で面倒事を押し付けられた気がするけど……まぁ良い」
本気で面倒臭そうな表情をしてたが、流石の陛下も思案に入る。
そして数分後……
「うん。決めた!」
考えが纏まったらしく、手近にあったA4用紙にサラサラと何かを書き出す。
勿論、新企業の社名だろうけど。
「じゃん! 新企業名は“PONY”だ」
「“ポニー”ですか? 何故に馬なんですか?」
俺もリューナもグリーバー伍長も不思議そうに社名の描かれた紙を覗き込む。
だが陛下は、その紙に新たに何かを書き足した。
「これがPONYの社章」
と言って描かれたのは、先日開発したMPの前で白馬が小首を傾げて音楽を聴いている絵だ。上手いとは言い難いが、特徴は捉えられている。
「おいラッセン。お前はこの絵を仕上げろ。見ての通りMPと白馬の絵だ。白馬はウチのパトリシアをモデルにしてくれ。凄ー美馬だし良い娘だからね」
何か突如仕事が舞い込んできた。
「マリーがこれ知ったら何てツッコむかな? 『ソニーじゃん!』かな? 『これビクター犬じゃん(笑)』かな?」
自ら描(書)いた社名と社章を見ながら、何やら独り言を呟く陛下。
マリーとはマリピエのマリーさんだろうか?
まぁいい……
そんな事より俺の彼女が社長になるんだ。
気合い入れて社章を描かねば!
ラッセルSIDE END
後書き
サブタイトルは誤字ではありません。
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