イベリス
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第百十一話 喫茶店での出会いその十二
「いいものがあるか」
「そうした会社に」
「学校の部活でもだろ」
マスターはこうしたところの話もした。
「顧問や先輩が暴力振るったり無茶苦茶やったりな」
「そんな部活にいてもですね」
「いいことはないからな」
だからだというのだ。
「そうしたところだってわかったらな」
「すぐに辞めることですか」
「さもないと自分が酷い目に遭うからな」
「暴力とかですね」
「暴力に我慢しろ、逃げるなって言う奴は馬鹿なんだよ」
マスターは断言した。
「家庭でもDV旦那から殴られて蹴られてな」
「そんな奥さんやお子さんいますね」
「それで殴られて蹴られて我慢しろって言ってみろ」
マスターはその言葉に怒気を含めて言った。
「言った奴はまずお前が殴られろだ」
「そうなりますね」
「自分が若い頃はそうだったとか言ってもな」
「何かこうしたお話でよく言われますね」
「今は今はで昔が間違っていたんだ」
「若い頃はそうだったじゃないんですね」
「じゃあ若い頃ヒトラーやスターリンの時代だった人達はどうなんだ」
当時のドイツやソ連と言われた国家にいた人達はというのだ。
「若い頃が正しい時代か」
「言えないですね」
「学生だった頃がどうでもな」
「その頃が間違っていて」
「それでそんなこと言ってもな」
「その人の方がおかしいですね」
「だからそんな言葉は気にするな」
一切、そうした風にまた断言した。
「ブラック企業もおかしな部活もな」
「そうだとわかったらですね」
「逃げるんだ、訳もなく酷い扱いを受ける場所にいいものがあるか」
「ある筈がないんですね」
「そうだよ、だからうちの店も休むしな」
店員がというのだ。
「お巡りさんだってな」
「お休みの日がありますね」
「けれど大抵この時間に来るよ」
咲にこのことを笑って話した。
「それは言っておくな」
「そうなんですね」
「ああ、そうだよ」
笑顔で咲に話した、そして咲にあらためて尋ねた。
「それでうちのコーヒーどうだい?」
「美味しいです」
咲は笑顔で感想を述べた。
「凄く」
「そうか、学生割引あるからな」
「あるんですか」
「学生証見せてくれたらな」
それならとだ、マスターは咲ににこりと笑って話した。
「半額だよ」
「半額になるんですか」
「だからよかったらな」
「はい、またですか」
「コーヒーだけじゃなくて紅茶もそうなるからな」
こちらの飲みものもというのだ。
「よかったらな」
「はい、また来させてもらいます」
咲は半額という言葉に芽を輝かせて応えた、そしてだった。
自分の学生証を出して半額にしてもらった、そのうえでまたこの店に来ようと笑顔で誓ったのだった。二つの楽しみが出来たので。
第百十一話 完
2023・5・15
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