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イベリス

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第百十一話 喫茶店での出会いその二

「その店の手伝いで働きはじめてその人の娘さんと結婚してな」
「このお店が出来たんですか」
「つまりその人がな」
「マスターのひいひいお祖父さんですか」
「そうなんだよ、縁だよな」
 マスターは笑って述べた。
「これも」
「そうですね」
 咲も利いて頷いた。
「聞いてみますと」
「それでひい祖父さんの味がな」
「マスターにもですか」
「祖父さん親父ってきてな」
 そしてというのだ。
「俺にもってことだな」
「そうなんですね」
「ただちょっとな」
「ちょっと?」
「来年一時閉店するけれどな」
「一時ですか」
「この店も古くてな」
 マスターは咲に笑って話した。
「耐震とかで問題があってな」
「ああ、地震ですか」
「昭和五十年代に建てた店でな」
「今のお店は」
「それまでは終戦直後の建て替えたんだけれどな」
 それがというのだ。
「今はな」
「古くなったんですか」
「観てわかるだろ」
「ええと、昭和ですね」
 咲は店の中を見回してマスターに答えた。
「実際に」
「そうだろ、昭和だろ」
「そんな感じですね」
「実際に建て替えたの昭和なんだよ」
「その頃ですか」
「五十年代でな、丁度西武が強くなりだした時か」
「その時ですか」
「広岡さんの時にな」
 広岡達郎、彼が西武ライオンズの監督だった時にというのだ。
「建て替えたんだよ」
「広岡さんですか」
「それでだからな」
「もう四十年ですか」
「それだけ建ってるとな」
 それならというのだ。
「流石にな」
「耐震が問題ですか」
「東京って危ないだろ」 
 マスターは少し苦笑いになって話した。
「昔から大地震あるからな」
「関東大震災ですね」
「あと幕末もあったしな」
「安政の大地震ですね」
「南海トラフも気になるし幸い金もあるからな」
 肝心のこれがというのだ。
「それでな」
「建て替えるんですか」
「耐震しっかりしたのにな」
「それにですか」
「そりゃ東北の方みたい地震とかな」
「神戸の方とか」
「また関東大震災が起こったりしたらな」
 それならというのだ。
「もうな」
「洒落にならないですね」
「耐震よくてもな」
「無理ですよね」
「そうだけれどな」
 それでもというのだ。
「出来るだけな」
「耐震はいいに越したことはないですね」
「ああ、だからな」
 それでというのだ。 
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