ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜
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ALO編ーフェアリィ・ダンス編ー
19.二と二の刀
前書き
第19話投稿!!
シルフ、ケットシーの会談を襲うサラマンダー。
それを食い止めようとするシュウとキリト.........果たして間に合うのか?
「俺、リーファのこと好きだよ。友達になりたいと、例えどんな理由があっても、自分の利益のために俺は相手を切ったりはしない」
「シュウくん.......キリトくん......」
(この二人といるととても安心する。胸のドキドキが止まらない)
「........ありがとう」
「ごめん、偉そうなこと言って。悪いくせなんだ。俺もキリトの癖が移ったかも」
「ううん、嬉しかった」
「時間がないんだろ、ユイ走るからナビゲーションよろしく」
キリトくんの胸ポケットからユイちゃんが顔を覗かせる。
「了解です」
「シュウ、リーファを頼むぜ」
「おう、ちょっと手を拝借」
シュウくんが私の手を掴む。
「えっ、あのーーー」
「行くぞ!!」
「しっかりつかまってろよ」
地面を強く蹴っ飛ばし走り出す。
今までの速度とは比べものにならないくらいの速度でシュウくんとキリトくんは駆ける。
「わああああ!?」
洞窟内に絶叫が響く。
「あの、あの、モンスターが」
前方にモンスターの群れが現れるが、シュウくんとキリトくんはスピードを落とさない。
「わああああ!?」
モンスターの合間をすり抜け、モンスターの群れを超える。
「出口だ!」
キリトくんの声に前をみると眩しい光が差し込んでくる出口だ。
「うわあああ!?」
出口に出ると目の前に大自然が広がる。慌てて翅を広げ、滞空姿勢に入り、息をいっぺん吐き出した。
「ぶはっ!!」
後方では洞窟からモンスターたちが外へ落下していっている。
「寿命が縮んだわよ!」
「まぁ、時間短縮になったからいいじゃないか」
「全く、もう」
あっ、と声を漏らしてしまった。
目の前には雲の上まで突き抜けるほどの巨大な白い木が.......世界樹だ。その大きさに圧倒されてしまう。
私もシュウくんもキリトくんも言葉を一斉に失う。
「領主会談の場所ってのはどの辺りなんだ?」
「そうね.......えーっと......」
メニューウインドウからマップで領主会談の場所、蝶の谷の位置を確認。
「北西のあの山の奥よ」
向こうの方の山を指差し位置を知らせる。
「残り時間は?」
「.......二十分」
「間に合ってくれよ.......」
さらに加速し、やっと蝶の谷の上空までさしかかる。
「サラマンダーたちより先に到着出来るか微妙だな」
「そうね。警告が間に合っても領主だけをなんとか逃がせるか、もしくは揃って討ち死だと思うよ」
少し黙り込む.........
するとユイちゃんが再び胸ポケットから顔を出す。
「プレーヤー反応です!前方に大集団六十八人。これがおそらくサラマンダーの強襲部隊です!」
その言葉に耳を疑う。
六十八人!!!
蝶の谷の会談会場が見えてきた。
「さらにその向こう側に十四人、シルフ及びケットシーの会談出席者だと思います。双方が接触するまであと五十秒です!」
ユイちゃんの言葉で間に合わないことが.........
「間に合わなかったね.......ありがとう、シュウくん、キリトくん、ここまででいいよ。君たちは世界樹に行って、あたしはサクヤを助けにいくから。.......短い間だったけど楽しかった......ありがとう。.......また会えるといいね」
無理やり作った笑顔でそれだけ言い、ダイブ体勢に入ろうと翅を畳むとシュウくんとキリトくんがの不適な笑みを浮かべ言った。
「ここで逃げ出すのは性分じゃないんでね」
「決着がつくまでは諦めるきはねぇんだよ」
「えっ?」
シュウくんとキリトくんが同時に急降下し、会談の会場に突っ込んで行く。
空中に浮かぶ、サラマンダーの大部隊、会場で武器を構えるシルフとケットシーの小部隊。サラマンダーの一人が手をあげると大部隊が一斉に巨大なランスを構える。そして、手を振り下ろした瞬間、サラマンダーとシルフ、ケットシーの間に黒い影が二つ落下して行く。
「「双方、剣を引け!!」」
その場にいた皆が二人の黒衣の剣士の登場に驚く。私も地上に降りる。
「サクヤ」
「リーファ!?どうしてここに!?」
緑色の浴衣を着たシルフ領の領主、サクヤに話しかける。
「簡単には説明出来ないのよ。ただ一つ言えるのは.......あたしたちの運命はあの人たち次第ってことだわ」
私はシュウくんとキリトくんの背中をみる。
「.......何がなにやら.......」
キリトくんが大きな声を出す。
「指揮官に話がある」
サラマンダー部隊の中央部が割れ、二人のサラマンダーが姿を現す。
シュウくんとキリトくんは、上空へ飛び上がり、サラマンダー部隊に近づく。
「スプリガンとインプがこんなところで何をしている。どちらにせよ殺すには変わりないが、その度胸に免じて話だけは聞いてやろう」
キリトくんとシュウくんは、臆することなく大きな声で叫ぶ。
「俺の名はキリト」
「俺はシュウだ」
「スプリガン、インプ同盟の大使だ。この場を襲うということは、我々四種族との全面戦争を望むと解釈していいんだな?」
(......うわぁ)
絶句した。
ハッタリにも程がある。
愕然とした顔でこちらに視線を向けるサクヤとケットシーの領主、アリシャ・ルーに両手を振り、私は何も知らないとモーションをする。
「スプリガンとインプの同盟だと.......護衛の一人もいないお前たちがその大使だと」
サラマンダーの指揮官が驚いた表情のあと、バカにしたような笑みを浮かべる。
「ああ、そうだ。この場にはシルフ、ケットシーの両陣営との貿易交渉に来ただけだからな」
「だが、会談が襲われたとなれば、それだけじゃすまねぇぞ!四種族で同盟を組んでサラマンダーに対抗することになるだろう」
しばしの沈黙が.....
「たった二人、たいした装備も持たない貴様をにわかに信じるわけにはいかないな」
サラマンダーの指揮官が背中に背負われる剣を抜き、構える。
「俺の攻撃に三十秒耐え切ったら、貴様を大使として信じてやろう。インプはお前に任せるぞ、シータ」
「了解しました。ユージーン将軍」
サラマンダーの指揮官とともに出てきた男も腰に収められた長剣を抜く。
「キリト、指揮官の方は任せるぞ」
「おう」
シュウくんとキリトくんが互いにサラマンダーと向き合う。
「まずいな.......」
「え......?」
「あのサラマンダーの両手剣と長剣、レジェンダリーウエポンの紹介サイトで見たことがある。《魔剣グラム》、《妖刀村雨》.........ということはあの男、ユージーン将軍とシータだろう。知ってるか?」
「.........な、名前くらいは.....」
息を飲む。
「サラマンダー領主、モーティマーの弟.......ユージーン。リアルでも兄弟らしいが、知の兄に対して、戦闘力の弟、純粋な戦闘力では、全プレーヤー最強と言われている」
「全プレーヤー最強........」
「それだけじゃない。シータは、ユージーンと互角に渡り合える腕の持ち主..........。とんでもない二人が出てきたな」
「........シュウくん、キリトくん」
空中で対峙する二組みの戦士たち。雲が流れ、日差しが幾つもの光の柱を作り出し、その一つがサラマンダーの剣にあたり、まばゆい反射。その瞬間、ユージーンとシータが急に動き出す。
赤い大剣を大きく振りかぶりキリトに振り下ろす。キリトくんも流石の反応速度で黒の大剣でガード........だが、赤い大剣は、黒の大剣に当たる瞬間、その実態が消え去り、再び実体化。
爆音が鳴り響き、キリトくんが壁に激突する。
向こうでは、同様にシータの攻撃に反応したシュウくんだが、シュウくんも爆音とともに壁に激突する。
「.....いまのは!?」
「魔剣グラムには、《エセリアルシフト》っていう、剣や盾で受けようとしても非実体化してもすり抜けるエクストラ効果があるんだヨ!」
アリシャが説明をする。
サクヤも同様に説明し出す。
「妖刀村雨も同様にエクストラ効果があるんだ。あの剣と鍔迫り合いをすれば確実に負ける。あの剣は、剣と触れ合った瞬間、ものすごい衝撃波を生むんだ」
「そ、そんな.......ムチャクチャな」
シュウくんとキリトくんのHPバーを確認しようと眼を凝らすも土煙のせいで見えない。するとほぼ同時に土煙の中から雄叫びをあげながらシュウくんとキリトくんが姿を現す。
そして空中で激しい剣撃戦を繰り広げるが、明らかに二人とも押されている。
「厳しいな......。プレーヤーの技術は互角とみるが、武器の性能が違いすぎる」
「それでも........、それでも.......シュウくんとキリトくんなら......」
(あたしは信じてる、二人を!!)
二人とも押されている。ユージーンにもシータにも攻撃はほとんど当たっていない。
そしてキリトくんが急にスペルを唱える。すると黒い煙が爆発する。幻惑魔法なのだろう、黒煙はもくもくと広がり空域を覆い尽くし、地上にいるあたしたちの場所まで覆い尽くす。
「リーファ、ちょっと借りるぜ」
「わっ!?」
突然、耳元で囁き声がした。それと同時に、腰の鞘から愛刀が抜かれる感覚が。
「き、キリトくん!?」
慌てて振り向くが、すでに誰もいない。すると、上空から何かが地上に勢いよく落ちてくる。その勢いで地上を覆い尽くしていた黒煙が晴れる。地面に爆音が響く。
その光景にまたも絶句した。
私の隣に突き刺さるシュウくんの槍。そして、倒れこむシュウくんの姿が.......
「シュウくん!?」
「お、おう......リーファ......その槍とってくれないか」
シュウくんは痛みに堪えながらも立ち上がり、メニューウインドウを開き、何かを確認している。
「よしっ!!リーファ、槍を!!」
「う、うん」
シュウに槍を投げる。
すると、彼は右手に片手剣、左手に槍を持ち空高く舞い上がり、スペルを唱える。するとシュウくんの姿が消える。
多分、シュウくんはスペルを確認し、消視魔法で姿を眩ましたのだろう。
「いないヨ!」
そこには、キリトくんの姿もシュウくんの姿も見えない。空中には、敵のサラマンダーが浮かぶだけだ。
「まさか、あいつら、逃げ......」
背後で、ケットシーの一人が呟く。その言葉が終わる前に強く叫んだ。
「そんなわけない!!」
祈るように眼を瞑る。
(シュウくんとキリトくんが逃げるわけない)
すると、上空から飛翔音がだんだんと大きくなる音と徐々に聞こえてくるカタコトのスペルが聞こえる。
「スライ......アメイ.....イット.....イエット....ノオ....メイ....テイル....ウント......メイン......ウボン!!!」
上空を見上げるとそこには、太陽と重なり落下してくる黒衣の剣士と徐々に姿を現す、黒衣の両腕と武器が黄金に光る剣士が姿を現す。
「シュウくん!!キリトくん!!」
ユージーンとシータも上空へ飛び上がる。キリトくんの黒の大剣をエセリアルシフトによって透過した刃が、キリトくんの首に当たる.......寸前に金属同士がぶつかり合う音がする。
それは、私の愛刀の長剣だ。
長剣がグラムを弾く。
キリトくんは紛れもなく二刀流だ。二本の剣を同時に装備してそれで剣撃を繰り出している。二刀流の連続攻撃がユージーンを襲う。
そして向こうでは、黄金に光る刀と槍.......いや、刀と槍というよりは、体の一部に近い.......。手刀というものに近い。
右の手刀が村雨に当たった瞬間、左の手刀がシータの体を襲いかかる。右の手刀は村雨に当たった衝撃で後ろに飛ばされるがそこから右を突き刺す。そしてさらに生まれた隙で左の手刀、右の手刀と連続で剣撃を繰り出す。
二人の二刀流使いが最強のサラマンダーを襲う。そして上空で二つの爆発が起こりそこから火の玉が二つ地上へ向けて落下して行く。
世界を沈黙が支配する。
最初の口火を切ったのはサクヤだった。
「見事、見事!!」
サクヤが扇子を前に突き出す。
「すごーい!ナイスファイトだよ!」
アリシャ・ルーに続き、すぐ背後の十二人も加わった。
周りのサラマンダーたちも関心したような声をあげている。空中に浮かぶシュウくんとキリトくんをみつめる。
(勝ったの?........勝った!!)
「わぁ......!」
笑顔が溢れ出てくる。
サクヤさんがユージーンとシータを蘇生させ、ユージーンとシータが立ち上がりこちらを見てくる。
「見事な腕だな。俺が今まで見たなかで最強のプレーヤーだ、貴様は」
「そりゃどうも」
「お前も凄かったぞ、俺を追い詰めたのはユージーン将軍いらいだ」
「あんたも強かったぜ」
「貴様らのような男がスプリガンとインプにいたとは.......。世界は広いということかな」
「俺たちの話、信じてもらえるか?」
ユージーンは黙り込む。
まだ疑っているようだ。
「ジンさん、ちょっといいか」
その時、サラマンダー部隊の中から、一人のプレーヤーが歩み寄ってくる。
「カゲムネか、何だ?」
何処かで聞いたような名だ........
記憶を辿り思い出す。その名は確か........昨日の夜、リーファを襲ったあいつか!!
俺は一度リーファと顔を合わせる。
「昨日、俺のパーティーが全滅させられたのはもう知ってると思う」
「ああ」
「その相手がそこにいるインプなんだ。......その時にスプリガンのこともチラッと漏らしてたんだ」
(カゲムネというサラマンダーが話を合わせてくれているのか?)
「........そうか。そういことにしておこう。確かに現状でスプリガン、インプと事を構える気は、俺にも領主にもない。この場は退こう。........だが、いずれ貴様とは決着をつけるぞ」
「望むところだ」
キリトとユージーンが拳を合わせる。
「俺たちも決着をつけよう」
「まぁ、俺が勝つけどな」
俺とシータも拳を合わせる。
そうして、サラマンダーの大群は帰っていった。
「サラマンダーにも話のわかるやつがいるじゃないか?」
「まぁ、あの嘘ばれてると思うけどな」
「.....だろうな!」
俺とキリトは拳を合わせる。
「すまんが状況を説明してもらえると助かる」
サクヤさんから声をかけられた。
静けさを取り戻した会談状の中央で、俺たちは状況を説明する。俺たちの話が終わると揃ってため息を吐く。
「......なるほどな。シグルドの態度にいらだちめいたものが潜んでいたのは私も感じていた」
「いらだち?何に対して?」
リーファが問う。
「たぶん、彼には許せなかったんだろうな。勢力的にサラマンダーに後塵を拝しているこの状況が」
「........」
「シグルドはパワー思考の男だからな。キャラクターの数値、能力だけでなくプレーヤーとしての権力を深く求めていた」
「でもだからって.......何でサラマンダーのスパイなんか?」
「もうすぐ導入される《アップデート5.0》の話は聞いているか?ついに《転生システム》が実装されるという噂がある」
「.......じゃあ」
「モーティマーに乗せられたんだろうな。領主の首を差し出せばサラマンダーに転生させてやると」
「それでどうするの、サクヤ?」
サクヤは少し考えた後、アリシャ・ルーに話す。
「ルー、たしか闇魔法スキルを上げてたな?」
サクヤの言葉に、アリシャ・ルーは大きな耳をパタパタ動かして肯定の意を表した。
「じゃあ、シグルドに《月光鏡》を頼む」
アリシャ・ルーの月光鏡によりシグルドのやったことを洗いざらい話、最終的にサクヤさんはシグルドをシルフ領から追放......つまり、レネゲイドにした。
再び静寂が訪れてもサクヤさんは、考え込んだような顔でそっとリーファに話しかけた。
「.....私の判断が間違っていたのか、正しかったのかは次の領主投票で問われるだろう。ともかく礼を言うよ、リーファ」
「あたしは何もしてないもの。お礼ならシュウくんとキリトくんにどうぞ」
「そうだ、そう言えば.......君たちは一体......」
並んだサクヤとアリシャ・ルーが、あらためて疑問符を浮かべながらシュウくんたちの顔をまじまじと覗き込む。
「ねェ、キミたち、スプリガンとインプの大使........ってほんとなの?」
俺とキリトは自信満々にこう言った。
「勿論大嘘、ブラフ、ハッタリ、ネゴシエーション」
「俺らが大使なんてありえねぇよ」
「「なーー.......」」
二人は口を開け、絶句している。
「......無茶な男だな。あの状況でそんな大法螺を吹くとは......」
「手札がショボい時はとりあえず掛け金をレイズする主義なんだ」
「とりあえずデカイことを言っておけば相手から自爆してくれるさ」
それを聞いたアリシャ・ルーは突然ニイッと、笑みを浮かべると、俺の顔の至近距離から覗き込んでくる。
「おーうそつきくんにしてはキミたち、ずいぶん強いネ?知ってる?さっきのユージーン将軍はALO最強で、シータってのはその右腕だヨ。それに正面から勝っちゃうなんて.........インプの秘密兵器、だったりするのかな?」
「まさか。ただのプレイヤーだよ」
「ぷっ、にゃはははは」
いきなりアリシャはひょいっと俺の右腕を取って胸に抱いた。
「フリーなら、キミーーケットシー領で傭兵やらない?三食おやつに昼寝つきだヨ」
「なっ.......」
後ろでリーファが口もとをひきつらせている。
「それじゃあ、私は彼でも誘おうか」
俺の横にいるキリトにサクヤが艶っぽい声で囁き、キリトの左腕に絡みついている。
「キリトくんと言ったかな。ーーどうかな、個人的興味もあるので礼を兼ねてこの後スイルベーンで酒でも.......」
見なくてもわかってしまう。
リーファ顔がさらにひきつっているのが。
「ねぇ〜、どうなの?おーうそつきくん?」
「どうかな、キリトくん?」
二人の領主に抱きつかれて身動きがとれない俺たち。すると後ろから俺の服が引っ張られる。
「だめです!シュウくんとキリトくんはあたしの........」
俺を引っ張ったのはリーファだった。四人が振り向き、リーファの顔を見る。
「ええと........あ、あたしの........」
リーファが頬を赤らめながら下を向く。
「お言葉は有り難いんですが.....すみません、俺たちは彼女に中央まで連れて行ってもらう約束をしているんです」
「そういうことなので......」
「ほう.......そうか、それは残念」
サクヤさんがリーファに視線を向ける。
「アルンに行くつもりか、リーファ。物見遊山か?それとも.......」
「領地を出る.........つもりだったけどね。でも、いつになるか分からないけど、きっとスイルベーンに帰るわ」
「そうか。ほっとしたよ。必ず戻ってきてくれよ........彼らと一緒にな」
「途中でウチにも寄ってね。大歓迎するヨ!」
二領主が俺とキリトから離れると、表情を改める。
「ーー今回は本当にありがとう、リーファ、キリトくん、シュウくん。私たちが討たれていたらサラマンダーとの格差は決定的なものになっていただろう。何か礼をしたいが......」
「いや、そんな.......」
困ったように頭をかくキリトの姿を見て、リーファがはっと思いついたように一歩前に出る。
「ねえ、サクヤ、アリシャさん。今度の同盟って、世界樹攻略のためなんでしょ?その攻略に、あたしたちも同行させて欲しいの。それも可能な限り早く」
サクヤさんとアリシャが顔を見合わせる。
「......同行は構わない、と言うよりこちらから頼みたいほどだよ。時期的なことはまだ何とも言えないが......しかし、なぜ?」
ちらりとキリトを見る。
「俺がこの世界に来たのは、世界樹の上に行きたいからなんだ。そこにいるかもしれない、ある人に会うために......」
「人?妖精王オベイロンのことか?」
「いや、違う.......と思う。リアルで連絡が取れないんだけど.....どうしても合わなきゃいけないんだ」
アリシャが興味を引かれたように耳とシッポを立てるがすぐに伏せ、申し訳なさそうに、
「でも......攻略メンバー全員の装備を整えるのに、しばらくかかると思うんだヨ.......。とても一日二日じゃあ.....」
「そうか.....そうなだよな。いや、俺もとりあえず樹の根元まで行くのが目的だから.......あとは何とかするよ」
キリトは小さく笑うと、「あ、そうだ」と何かを思いついたように出現させたウインドウをあやつり、大きな革袋をオブジェクト化する。
「これ、資金の足しにしてくれ」
言って差し出した袋をアリシャに渡すとアリシャがその重さに一瞬ふらつき、目を丸くする。
「さ、サクヤちゃん、これ......」
「ん........?」
サクヤもその袋の中を確認すると、アリシャ同様の反応をする。
「......十万ユルドミスリル貨......これ全部.......!?」
「あっ、金か........それなら俺も.....」
俺もウインドウを開き、革袋をオブジェクト化する。
「それじゃあ、俺も」
その革袋をサクヤさんに渡す。
「いいのか?一等地にちょっとした城が建つぞ」
「構わない。俺にはもう必要ない」
「俺も使わないから」
「.......これだけあれば、かなり....というか目標金額越えてるヨ!」
「大至急装備を揃えて、準備が出来たら連絡させてもらう」
「よろしく頼む」
「アリガト!また会おうネ!」
アリシャがもう一度悪戯っぽく笑うとシッポで俺の体を引き寄せ、その頬にちょんと唇を触れさせる。慌てて離れると、後ろにいるリーファに向かって、ぱちりとウインクして、翅を大きく広げる。
二人の領主は赤く染まった西の空に向け、美しい隊列を組んで夕焼けの空に姿を消す。
周囲は、静まり返り、まるでさっきまでの激闘がなかったかのように風が吹き抜ける。
リーファが少し俺に寄り添ってくる。
「......行っちゃったね」
「ああ.......終わったな......」
誰もしゃべらない沈黙の中、小さな妖精がキリトの胸ポケットから姿を現す。
「まったくもう、浮気はダメって言ったです、パパ!」
「わっ」
リーファが慌てたように声をあげ、俺から距離をとる。気のせいか、リーファの顔が少し赤いような気がする。
「な、なにをいきなり......」
焦ったような声を出すキリトの肩に座ると愛らしく頬を膨らませる。
「サクヤさんにくっつかれたときドキドキしてました!」
「そ、そりゃ男ならしょうがないんだよ!!」
リーファはホッとした顔を浮かべたあと、ユイに訊ねる。
「ね、ねえユイちゃん、あたしはいいの.......?」
「リーファさんはだいじょうぶみたいです」
「な、なんで.....?」
「うーん、リーファはあんま女のコって感じしないんだよな.......」
「ちょっ......な.......それってどういう意味!?」
リーファが剣の柄に手を遣り詰め寄る。
「い、いや、親しみやすいというか.......いい意味でだよ、うん」
引き攣った笑みを浮かべ、キリトがひょいっと浮かび上がる。
「そ、そんなことよりとっととアルンまで飛ぼうぜ!日がくれちゃうよ!」
「あ、こら、待ちなさい!!」
リーファも翅を広げ、キリトのあとを追う。
俺もその二人のあとを追い、飛翔し追って行く。
目指すは........世界樹の上!!
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