もう伝統工芸
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第四章
「むざむざ売るよりな」
「置いておきたいか」
「そんな工芸品みたいに貴重やと言われたら」
それならというのだ。
「もうな」
「売りたくなくなったか」
「そや、あの店員さん言うてたやろ」
秀長の顔見知りである彼がというのだ。
「ブリキのおもちゃなんて今やとな」
「伝統芸能レベルやてな」
「そこまでのもんやと言われたら」
それならというのだ。
「そのこともあってな」
「売りたくなったか」
「ああ、もうあの世に行くまでな」
孫に微笑んで話した。
「持っていきたいな、それでわしがあの世に行ったら」
「その時はか」
「お前かお前に子供が出来てたらな」
「その子供に上げるか」
「そうするわ」
こう言うのだった。
「その時はな」
「そうなんか」
「それでな」
さらに言うのだった。
「これからもな」
「そのおもちゃはやな」
「大事にするわ」
箱の中に入れたそれをテーブルの上に置いて見つつ話した。
「これからも」
「そうするか」
「そういうことでな、ほなな」
ここまで話してだ、祖父として孫に話した。
「休日やしのんびりしよか」
「僕はそやけど祖父ちゃんはもう毎日やろ」
「ははは、もう年金暮らしでな」
「それやったら毎日やろ」
「それもそやな、まあそのことは置いておいて」
それでと言うのだった。
「お茶を飲んでぽんせん食って」
「そうしてやな」
「ゆっくりしよか」
「そうするか」
「ああ、今はな」
「ほなな」
孫も祖父の言葉に微笑んで応えた、そうしてだった。
お茶を煎れてぽんせんも出した、おもちゃは祖父の部屋の部屋の押し入れの中に収めた。そのうえで。
その二つを楽しむ、そこで祖父はこんなことを言った。
「今度は船場でな」
「鰻丼やな」
「それ食いに行こうな」
「そうか、ほなな」
孫もそれならと頷いた。
「今度の休みはな」
「鰻や」
「それ一緒に食べに行こうな」
お茶とぽんせんを食べつつだった、そうした話をしてだった。
二人で今度は鰻丼の話をした、ブリキのおもちゃはその後ずっと大事に収められた。祖父の大事な思い出のものとして。
もう伝統工芸 完
2023・2・12
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