イベリス
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第百八話 残暑が終わりその五
「私はね」
「そういえばそうか」
「ウイスキーとかね」
「蒸留酒はか」
「駄目なのよ」
「飲めないんだな」
苦手どころかとだ、父も言った。
「そうなんだな」
「最近一口飲んだら」
それでというのだ。
「もうね」
「それ以上は無理か」
「強いお酒は」
「ウイスキーとかブランデーはか」
「そうなったのよ」
「そうか、そうした体質なんだな咲は」
「お酒飲めても種類によるの」
咲は父に問うた。
「そうなの」
「ああ、特定のお酒しか飲めない人もな」
「そうなのね」
「咲は強いお酒が飲めないんだな」
「何かね」
「なら飲まなくていい」
父は言った。
「別にな」
「いいのね」
「飲まなくても死なないだろ」
そうした酒をというのだ。
「お酒自体な」
「そう言われるとね」
「そもそもお酒は楽しんで飲むものだ」
「無理に飲むものじゃないのね」
「ウイスキーの話が出たけれどな」
ここで父はこう言った、咲は自分で冷蔵庫からパックの梅酒を出して来てコップとつまみの柿ピーを持って来て父の話を聞いた。早速飲みはじめている。
「坂口安吾は美味しくないって言ってな」
「飲んでたのね」
「あの人はもう意識してな」
作家であった彼はというのだ。
「破天荒に生きていたからな」
「堕落論書いてたし」
「それで薬もやってな」
当時は合法だった。
「それでお酒もな」
「無理して飲んでいたのね」
「我慢して飲んでいたんだ」
「それ何処かで聞いたし太宰治もね」
太宰と坂口安吾は同じ無頼派に所属する作家であった、他には織田作之助や壇一雄が無頼派になる。
「そうして飲んでたのよね」
「ああ、戦後な」
「お酒美味しくないと思いつつ」
「強引にな」
それでというのだ。
「飲んで書いていたんだ」
「戦いとか言って」
「何が戦いかお父さんはわからないがな」
太宰が言っていたそれはというのだ、インタヴューを受けてそこで取材をした記者に言っていたのだ。
「しかしな」
「それでもなのね」
「無理して飲んでいたんだ」
「そんな風に飲んでも」
「お酒は楽しんで飲むものだろ」
こう咲に言った。
「そうだろ」
「そうよね」
咲もそれはと応えた。
「本当に」
「だから無理して飲まなくてもな」
「いいのね」
「お酒はな」
「楽しんで飲むものね」
「そうだ」
まさにとだ、咲に言うのだった。
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