詭道贋作ガンダム・戦後の達人
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第3幕:無双伝説の対価
博物館までついて来たライトに質問攻めにされるツルギ。
「お前はほんとに何者なんだよ?て言うか、その女児小学生みてぇな姿でモビルフォースドライバーってどう言う事だよ?」
「女児……私が……」
「と言うか、何歳だよ?」
カッオが見かねて割って入る。
「それ以上は止めてやれ。君にだって、例の動画の投降者が君だとバレたら大騒ぎだろ?」
が、それが騒動をかえって大きくしてしまった。
「あー!ツルギの奴、俺の正体をこのおっさんに言ったなぁ!」
「良いじゃないか。君もツルギも私も、何らかの罪を持ってる者同士だから」
そこまで言われてなお質問攻めをする程図々しくないライトは、困った顔しながら固まる。
「ま……」
そうこうしている内に、ツルギがガンダム・フェルシュングを定位置に戻した。
「と言うか……こいつが強過ぎだろ?ほんとに10年前の機体かよ?」
ツルギはその質問にだけは答えた。
「当時の火星はそれだけの戦力が必要だったんだよ。火星粛清反対派側は貧乏だから充電して繰り返し使えるビーム兵器に頼らざる得なかったけど、火星粛清賛成派は金持ちだから実弾をふんだんに使えたんだ」
カッオは察したがライトはただふんふんと聞くだけであった。
「だからか。火星粛清反対派が先に量産型モビルフォースの開発に成功したのは」
ツルギはその上でライトに釘を刺した。
「けど、どんな理由が有ろうとこいつらが人を殺す殺戮兵器である事には変わらない。だから、私は再びこいつに乗る事にしたんだ」
その時のツルギの横顔が寂しそうに見えたカッオが訊ねる。
「君は……この機体に乗ったらまた人殺しをしてしまうから避けていたんじゃ?」
カッオのこの言葉を聞き、改めて決意の炎を自分の目に宿らせるツルギ。
「そう。だから私は流れのホームレスとなってこいつから逃げ続けた。だが!この博物館で再会した事で、それはこいつに背負わせ続けた罪から逃げてただけだったと、気付かされたんだ!」
罪から逃げた……
その単語に思う事があるカッオは、複雑な気持ちでガンダム・フェルシュングを見上げた。
「罪から逃げる……か……」
その一方、バツが悪いので静かにその場を去ろうとしたライトに更に釘を刺すツルギ。
「だから……裁判所に背負わされた借金、ちゃんと全額返金しないとね」
「う!?」
ライトの背に背を向けながら語り掛けるツルギに驚きながら、変顔で誤魔化すライト。
「何の事かしらぁー♪」
だが、罪を背負う者同士のボケとツッコミとは明らかに場違いな青年が涎を垂らしながら見つめていた。
(欲っすいぃ!)
その日の夜、ツルギ、カッオ、ライトはそれぞれ背負った罪に関する夢を見ていた。
火星を歩くツルギの前に1人の女性が立っていた。その手には血塗られたナイフが握り締められ、その足元には拳銃を握り締めた男性が血塗れで斃れていた。
ツルギはその女性に歩み寄ろうとしたが、その女性が満足の笑みを浮かべながら吐血して倒れた。
ツルギが慌ててその女性を抱きかかえるが、その女性は既に息絶えていた。
カッオは管理委員会所有の輸送空母からかつての仲間達が立て籠もるアジトを見下ろしていた。
「彼らです。彼らが武力による管理委員会解体を行おうとした人達です」
カッオがそう言うと、輸送空母から次々と戦闘機が発進し、輸送空母の機長はテロ組織に投降を呼びかける。
しかし、テロ組織は迫撃砲か対装甲ライフルで武装したジープ数十台で逃走する。
「逃げたぞ!逃がすなー!」
テロ組織が応戦するが、攻撃は戦闘機にかすりもしない。
「そんな攻撃が当たるかよ!」
しかし、別の戦闘機が何かに気付いてしまう。
「待て!その方向は!?」
テロ組織が発射した榴弾は管理委員会側の戦闘機には当たらず、逆に居住区の建物に命中してしまい一般人達が逃げ惑う阿鼻叫喚が発生してしまった。
ライトの30日間の禁錮刑と賠償金9413万が決定したその日の夜、ライトの父親が照明が消えた部屋の中で妻や子供達にある決定を告げた。
「この家を売ろう。そして私は退職金を得る。そうすれば賠償金支払いの足しになるだろう」
それを聞いたライトの母親が泣き崩れ、ライトの妹が訳も解らず母親を心配する。
「ママぁ、どうしたのぉ?」
「アーンブレーイ!」
熟睡中のライトの大音量の怒号でハッとして目覚めるツルギ。そして、寝ぼけながらぼんやりと見渡す。
「……久々に観ましたね、あの夢……」
自分の言葉にハッとさせられるツルギ。
「久しぶり……かぁー……私も随分、私の罪に対して図々しい臆病になったものね?あの夢を観なくなる程逃げてたなんて……」
3人とも自分の罪を再確認させられる夢を観てしまい、かなり気不味い朝食となってしまった。
「あー、思い出せるんじゃねぇよ」
「例の賠償金の事?」
「ツルギ!お前がその事で茶化すからいけないんだろ!」
「あんな動画を作るからいけないんですよ。そろそろ認めたらどうです」
「認めたら……ね……」
「館長さん?」
その時、展示室で何かが起動する音が響いた。
「何だ!?」
カッオは自分の息子の罪を思い出して嫌な予感がし、慌てて展示室に向かう。ツルギもそれを追う。
「待って!」
1人訳が解らないライトが出遅れた。
「何!?何!?何が遭ったの!?」
カッオが展示室に到着すると、既に2機のクズワンが起動していた。
「しまった!?」
そして、ツルギ達の自分の罪自慢合戦を盗み視していた青年がガンダム・フェルシュングに乗り込もうとしていた。
やっと展示室に到着したライトが慌てふためく。
「ちょっと待て!アイツ、あの赤い鷹匠を奪おうとしてるぞ!?」
青年はガンダム・フェルシュングの運転席に乗り込むが、やっぱり動かなかった。
「動かない!?……そうか!盗難防止の何かを既に仕込んで―――」
だが、青年はある台詞を言ってしまう。
「たんたん狸の金玉はー♪」
ライトは、青年の言葉にドン引きする。
「……何言ってんだこいつ?」
理由が解らないライトに反し、カッオは自分の息子の罪を思い出して慌てる。
「不味い!あの言葉が、あの機体の起動パスワードなんだ!」
やっと事の重大さを知って蒼褪めるライト。
「え?」
だが、青年に奪われたガンダム・フェルシュングは待ってはくれない。
「とったどぉー!」
自分の死を確信たライトは目と口を全開に見開き、尻餅を搗きながら後退りする。
一方のカッオは、自分の罪を思い出しながら目を瞑る。まるで、自分の死刑を受け入れるかの様に……
だが、この中で1番冷静だったのは、ガンダム・フェルシュングを奪われたツルギであった。
「それ以上は止めた方が良いですよ?それ以上ギアを上げれば―――」
青年に奪われたガンダム・フェルシュングはメインカメラを不気味に光らせる。
「おい!どうすんだよ!?あれに勝てる方法は無いのかよ!?」
ライトの混乱に反比例するかの様に青年に注意を促すツルギ。
「その翼は、運転手の脳波に操られる……それはつまり―――」
「何暢気な事を言ってるんだ!?て事は、難し操作をしなくても管理委員会を楽々と倒したあの技を繰り出せるって事じゃねぇか!?」
だが、突然青年が苦しみ始めた。
「あーーーーー!?」
「えーーーーー!?」
青年の悲鳴とライトの驚きの声で目を開いたカッオは、何時までも動かないガンダム・フェルシュングに首を傾げた。
「何故だ……何故私はまだ生きている!?あのガンダムは何故襲ってこない!?」
その間、青年は頭を抱えながら苦しんでいた。
「あーーーーー!頭が痛いぃーーーーー!」
恐らく、その理由はツルギが1番知っているだろうが、当のツルギは残念そうに真下を見ていた。
「翼が運転手の脳波に操られると言いう事は……運転手の脳波の供給を失った時点で、その翼は動かなくなる」
ツルギの言葉にカッオは、別の意味で不安になった。
「運転手の脳波の供給を失った時点で……あのガンダムを早く止めろぉーーーーー!」
2時間後……
ガンダム・フェルシュングを盗んだ青年が病院に運び込まれ、診断結果が言い渡された。
「脳波不足による一時的な脳死です。命に別状はありませんが、患者が完治して正常に戻るまでの時間は、患者の脳波分泌量次第で変わります」
ガンダム・フェルシュングを盗んだ青年に付き従っていた2人組の1人が、告げられた診断結果に愕然とする。
「何だよこれ……こんな設定有かよ……」
もう1人は必死に青年に声を掛けていた。
「あ、兄貴ぃーーーーー!兄貴ぃーーーーー!」
そんな中、医師がツルギ達に訊ねた。
「アレは間違いなく、脳波で大量の義肢や人工臓器を操っていたからこそ起こる症状。何か心当たりは?」
ツルギが白状しようとするが、カッオがそれを制止し、
「解りません。私には、何の事だか」
医師は深く追求する事無く、ただ「そうですか」で済ませてしまった。
帰り道、この結果に驚きを隠せないライト。
「あの機体、あんなに危ない物だったのかよ!?」
ツルギが素直に答える。
「脳波で義肢や人工臓器を操る技術の軍事転用は、私が提案した時点でみんなが『危険だから』と何度も止められたよ。それに、私だって脳を慣らしながら徐々にギアを上げてたんだ」
カッオも補足説明する。
「一般的な老人の脳波分泌量だと、安全に操れるのは等身大の人形が限度と言われてる。それ以上は一般的な脳波分泌量と釣り合わないのではないかとの指摘もある程だ」
そんな2人の言葉に、ライトは「強さを手に入れる」事の難しさを思い知る。
「お前が強いのは、単に強い機体に乗ってるだけじゃ……なかったんだな?」
カッオが代わりに答える。
「手に入る強さには種類と理由がある。ただ何の目的も無く手に入れた力は、どんなに強かろうと『強さ』とは認めてはいけないだよ。ま、私はそれに気付くのが遅過ぎたがな」
今回の出来事に複雑な気持ちになったライトであった。
とある洋館の広大な庭にて、白服の執事がテーブルに座って両手で1個のリンゴを抱える物静かで儚げな少女に話しかける。
「ツルギ・マインドルがカッオ・ルーが管理する戦争博物館に住み込みで働いている様です」
少女が抱えているリンゴを見つめながら訊ねる。
「で、ツルギはそのカッオに依存していますか?」
執事は首を横に振りながら答える。
「いえ。まだヒモに成りきってるとは言えません」
少女は残念そうに言う。
「そうですか……10年待ちましたが、まだまだ、私の望んだとは遠い様ですね?」
「まだ……待つ御心算ですか?」
少女は首を縦に振る。
「ええ……私の計画が、私の望んだ通りの展開になるまでは……」
本作オリジナル設定
●バカダデ
全長:18.92m
翼幅:13.56m
最大速度:2575km/h
巡航速度:1960km/h
乗員:3人
武装:25㎜バルカン×2
ウイングカッター×3
12.7㎜連装旋回銃塔
中距離空対空ミサイル(胴体下ウェポンベイ)
対地誘導爆弾(胴体下ウェポンベイ)
半年戦争終結までアニアーラ管理委員会傘下軍隊の主力だった垂直離着陸戦闘機。
前方固定25㎜バルカンと機体上部の12.7㎜連装旋回銃塔が特徴で、開発サイドは「前後左右、どこにも攻撃出来る」と自画自賛している。また、主翼と尾翼は実体剣の役目も果たしており、推進力を活かし、敵機の装甲をも容易く切り裂く。
だが、半年戦争でクズワンに大敗した事を切っ掛けに急速に型落ち扱いされていく……
イメージモデルはハリアー II、ボールトンポール デファイアント、鎌槍。
●アホヤデ
全長:10m
全幅:4m
全高:3m
速度:70km/h
乗員:3人
武装:44口径120mm滑腔砲
12.7㎜マシンガン(砲塔上面)
長距離地対空ミサイル×2(砲塔側面)
スモーク・ディスチャージャー
半年戦争終結までアニアーラ管理委員会傘下軍隊の主力だった空気浮揚戦車。
水陸両用で、特に他の乗り物では航行や走行が困難な浅瀬や湿地でも、エアスカートの高さ程度までの凹凸なら速度を落とさずに移動でき、機雷、魚雷、地雷が反応しにくい。また、数十メートルの高度から落下傘無しに着陸しても、何ら活動に支障が生じないなど、高い機体強度を有している。
だが、半年戦争でクズワンに大敗した事を切っ掛けに急速に型落ち扱いされていく……
イメージモデルは89式装甲戦闘車とLCAC-1級エア・クッション型揚陸艇。
●ハナタレ
全長:257.3m
全幅:649.2m
全高:10.34m
巡航速度:980km/h
武装:長距離空対空ミサイル×14
半年戦争終結までアニアーラ管理委員会傘下軍隊の主力だった全翼航空輸送艦。
操縦席には操縦士2名と指揮通信要員6名搭乗でき、2個中隊戦闘群と装備品を搭載でき、宇宙航行機能や垂直離着陸機能も搭載されている。また優れた医療機能も備えている。
だが、半年戦争を切っ掛けにモビルフォースが主流になった為、急速に型落ち扱いされていく……
イメージモデルは【ゴジラ キング・オブ・モンスターズ】の『アルゴ』。
●脳波で義肢や人工臓器を操る技術
特殊な回路を利用して利用者のイメージしたものを受け取り、その通りに動く義肢や人工臓器。開発資金の捻出の為その技術をオモチャに転用した事もあったらしいが、その結果、等身大の人形より大きな義肢の操作は利用者に危険が及ぶと判断された。
●脳波で義肢や人工臓器を操る技術の軍事転用
特殊な回路を利用して利用者のイメージしたものを受け取り、その通りに動く無人兵器。
その戦果は絶大的で、半年戦争で獅子奮迅の大活躍したガンダム・フェルシュングのヒートウイングビットにも利用されているが、その分脳波消費量も脳波で義肢や人工臓器を操る技術の一般的な限度である等身大の人形とは比べ物にならない程大量で、最悪の場合、脳波不足による一時的な脳死に陥る事もある(ただし命の別状は無い)。
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