ハッピークローバー
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第八十六話 海遊館に二人でその十二
「あの人は」
「それでこのお店にもなのね」
「あの人美味しいものが好きで」
「洋食もだったのね」
「色々食べてたけれどね」
洋食だけでなく関東煮即ちおでんも好きで鰻丼もだった、尚酒は弱かったらしくコーヒーが好きだったという。
「贅沢じゃなくて」
「庶民的な」
「そうしたものを食べていて」
それでというのだ。
「カレーもだったし」
「このお店にも来てたのかも知れないのね」
「そう言ったら昭和でも」
伊東は織田作之助が生きていた時代から考えて述べた。
「三丁目の夕日じゃなくて戦前かな」
「このお店は」
「そうかな、昔からあるお店だしね」
「昭和でもその頃ね」
「その頃はね」
戦前の大阪はというと。
「扇風機もなかったかな」
「クーラーどころか」
「それも金属の網の」
「それも昭和よね」
「うん、お店の壁についていて首が開店する」
「滅茶苦茶古いタイプね」
「青いプラスチックじゃなくて」
扇風機の羽根の部分の話もした。
「金属の」
「何か重そうね」
「昔の扇風機はそうだったらしいからね」
「それでその扇風機もなのね」
「なくてね」
それでというのだ。
「夏はかなり暑い」
「お店の中は」
「それで扇子とか団扇で仰ぎながら食べる」
「そんな風ね」
「そんな頃の昭和かな」
クーラーの効いた中で熱いオムライスを食べながら言うのだった。
「このお店も」
「ううん、凄い昔ね」
「昭和って言っても長いし」
「六十四年あるからね」
「だから戦前と戦後とね」
「戦後も新幹線走る前と後だと」
「また違っていて」
それでというのだ。
「そのそれぞれの時代で」
「昭和って言っても違うのね」
「そうだね、考えてみたら」
「じゃあこのお店にある昭和は戦前の昭和ね」
「そうかもね、それで織田作さんが来て」
その彼がというのだ。
「何か食べていたかもね」
「自由軒に行ったりして」
「このお店にもね、あと昔大阪球場があったから」
伊東は今度は野球の話をした。
「ホークスの選手もね」
「来てたかも知れないのね」
「もうそこだったからね」
「大阪球場って」
「今なんばパークスがある」
「あそこね」
「あそこにあったから」
大阪球場、南海ホークスの本拠地はというのだ。
「もう歩いて」
「ここに行けたわね」
「鶴岡さんも野村さんも杉浦さんもね」
鶴岡一人、野村克也、杉浦忠である。三人共南海ホークスを代表する選手でありそれぞれ監督にも就任している。
「この辺りを歩いて」
「このお店にもなのね」
「入っていたかもね」
「それで食べてたかも知れないのね」
「野村さんお酒弱かったらしいから」
何でも下戸であったらしい、この辺りは織田作之助と同じだったと言えるだろうか。
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